第138話 アレクサンダーは用済み

 ゴツッ!


 「ブハァッ!」


 ドゴッ!


 「ブヘェッ!」


 ボゴッ!


 「グハァッ!」


 誤って死んでしまわないよう手加減しているとはいえ、Aランク冒険者のディアナに殴られているベイジル男爵の姿は、酷い有様だった。


 殴られ始めは威勢の良かったベイジル男爵だが、自分の脅しに屈せず容赦なく殴られ続けることで、男爵の心は簡単に折れた。


 慈悲を乞う男爵の姿は哀れで、俺とアレクサンダーは視界に入らないようにしていた。


 ディアナの様子からまだ時間はかかりそうだと判断し、床に転がっている私兵の二人を先に始末することにした。


 『【威圧耐性】Lv.5を獲得しました』


 『【誘惑耐性】Lv.4を獲得しました』


 『【採掘】Lv.2にUPしました』


 二人とも元Bランク冒険者の経歴を持ち相応にスキルレベルが高いはずだが、ほとんど既得スキルのレベルは上がらず、得られたのは新規スキル二つのみだった。


 ただ傭兵の奴からは、スキルポイントを消費してでも獲得するか迷っていた【威圧耐性】が手に入った。


 魔物も冒険者も強くなればなるほど、【威圧】を所持している可能性は高いので、今後の戦闘で大きく役立つだろう。


 私兵の二人から武器と硬貨を回収し、未だ男爵を殴り続けるディアナに声をかける。


 「おい、ディアナ。その辺にしとけ」


 「ふぅ…これで勘弁してやろう」


 素直に振り上げた拳を下げ、ボロボロの男爵を解放するディアナ。


 このままでは受け答えもままならないので、久しぶりに【回復魔法】でボロボロの男爵を回復した。


 「上級治癒ハイヒール


 〈ヴァルダナ〉のEランク狩場で男性冒険者を回復した時とは違い、知力値が大幅に伸びているので、瞬く間に怪我が治った。


 「お前、【回復魔法】まで使えるのか」


 「まぁな」


 まだスキルレベルが低く消費魔力量の減少割合も少ないから、多用したくはないがな。


 先程までの激痛が嘘のように無くなり元の姿に戻った男爵は、すっかり怯えた様子で小声で感謝を述べる。


 「…あ、ありがとう…ございます」


 先程の威勢はどこへいったのやら、そして助かったと勘違いしている男爵に用件を伝える。


 「いえ、お気になさらず。それで、ベイジル男爵。貴方にお願いしたいことがあるのですが」


 「お、お願いとは?」


 「貴方の住居に案内して頂きたいのです」


 「な、何故でしょうか?」


 「理由は単純です。貴方が抱える財産を私が貰い受けるためです」


 「なっ!?」


 「男爵という身分は貴族の中では下位ですが、相応に財産を抱えていると思っています。ここで攫った女性を品定めし、悪趣味のために購入する資金はあるのですから」


 「ふ、ふざけるな! そんなこと許されると思っているのか!」


 どうやら恐怖を怒りが上回り、先程の威勢が戻ってきたベイジル男爵。


 「そうですか、残念です。ではここで、貴方には死んでもらいましょう」


 「わ、分かっているのか!? 私はこの国の貴族なのだぞ! 私を殺せば騎士団ーーー」


 「それは先程も聞きました。それを理解した上で貴方には死んでもらおうと思っています」


 「お、お前は…本当に国を敵に回すつもりか?」


 「それでも問題はありません。しかし、騎士の皆様が男爵を殺した犯人として、私を捕縛するのは難しいでしょう」


 「そ、そんなことはーーー」


 「ここスラム街で貴方が死んでも、疑われるのはここの住人。私は普段、普通の冒険者として活動しているので、騎士の皆様の目がこちらに向く可能性は低い」


 「…」


 「それに貴方が殺されるところを目撃するのは、アレクサンダーとディアナの二人のみ。二人とも私に隷属していますし、犯人の特定には時間がかかるでしょう」


 「た…」


 「それでは、利用価値の無い貴方には死んでもらいましょう」


 「た、助けてください! どうか命だけは助けてください!」


 プライドを捨て額を床に擦り付け、みっともなく土下座するベイジル男爵。


 「では、貴方が抱える財産を私に譲り渡す、ということでよろしいですか?」


 「は、はい! なので、命だけは助けてください!」


 「いいでしょう。財産と引き換えに命だけは奪わないでおきましょう」


 「あ、ありがとうございます!」


 そして、土下座しているのをいいことに後ろ首を手刀で強打し、気絶させた男爵を隷属化する。


 ー【奴隷隷属】ー


 「さて男爵の件は一段落したし、お前は用済みだな。アレクサンダー」


 「…」


 俺の言葉を受けても微塵も動揺しないアレクサンダー。


 既に自分の命運を受け入れているのかもしれない。


 「そういえば、私語を禁止していたな。最後くらいは私への恨み節を聞いてやるか。アレクサンダー、私語を解禁する」


 「…」


 しかしアレクサンダーは、何も喋らない。


 「何も言うことはないのか?」


 「冒険者も、そしてこの犯罪稼業の世界も弱肉強食だ。強い奴が勝ち、強い奴が正しい。全ては俺達が弱かったのが原因だ」


 「そうだな」


 「だが、俺もお前も罪深く地獄に落ちるだろう。先に地獄で待っている」


 「ハハハ! 残念だが俺は死ぬつもりはない。地獄で俺の生き様を見ていろ」


 そう言い合えると同時に、アレクサンダーの首を斬り落とした。


 『【土魔法】Lv.7にUPしました』


 『【風魔法】Lv.7にUPしました』


 『【詠唱省略】Lv.6にUPしました』


 『【縮地】Lv.6にUPしました』


 『【闘気練装】Lv.2にUPしました』

 

 『【闘気練装】Lv.3にUPしました』

 

 『【闘気練装】Lv.4にUPしました』

 

 『【闘気練装】Lv.5にUPしました』


 『【打撃強化】Lv.7にUPしました』


 『【明晰】Lv.7にUPしました』


 『【金剛】Lv.7にUPしました』


 『【豪運】Lv.7にUPしました』


 『【魔力増加】Lv.7にUPしました』


 『【威圧耐性】Lv.6にUPしました』


 『【勘定】Lv.5にUPしました』


 『【記憶】Lv.5にUPしました』


 『【空踏】Lv.2にUPしました』

 

 『【空踏】Lv.3にUPしました』

 

 『【空踏】Lv.4にUPしました』

 

 『【空踏】Lv.5にUPしました』


 『【交渉】Lv.5にUPしました』



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る