第133話 ベイジル男爵の悪趣味
先程までの喧騒は嘘のように鎮まり、周囲には凍死した奴等の氷像が立ち並ぶ。
最低でもCランク相当の実力者で組織が構成されており、その中でもBランク相当の実力者が20人程いる奴等を殺した戦果は凄まじかった。
Dランクダンジョンや〈執拗な毒蛇〉壊滅戦である程度スキルレベルが充実していたにも関わらず、多くのスキルレベルが上昇した。
新規スキルは少ないが既得のスキルレベルが上昇したことで、ステータスがどのように変化したのか、あとで確認するのが楽しみだ。
ー【奴隷隷属】ー
目の前で意識を失い倒れているアレクサンダーを隷属化する。
奴が目を覚ますまでの間に氷像に近寄り、凍ったウエストポーチを叩き割り、同じく凍った硬貨を回収した。
武器と防具は剥ぐのが面倒だったので、そのまま放置することにした。
「おい! 起きろ!」
未だ目覚めないアレクサンダーの額を軽く殴り、強制的に目覚めさせる。
「ぅ…ぅーん…あ? 俺は…い、痛!」
「目が覚めたか? それじゃ、さっさと立て」
「あ、テメェ! なに偉そうに命令ーーー」
言い終える前に急に身体が立ち上がり、そのことに驚くアレクサンダー。
「お前は俺の命令下にある。そして、ご自慢のお仲間も皆仲良く死んだぞ」
周囲に立ち並ぶ氷像を指差しながら、現状を理解させるために教えてやる。
「クソッ! ふざけるなぁあああ! 俺を解放しろ!」
「敗者であるお前に意見する権利はない。黙って俺の命令に従え」
「くっ…」
「さて、早速お前に2つ命令する。1つは私語厳禁。2つ目は拠点に案内し、抱えている財産を俺に譲渡しろ。以上だ」
「…(コクッ)」
俺を血走った目で睨みつけながら頷くアレクサンダー。意思と行動が矛盾していて、見てて面白い。
俺の命令に従い歩き出したアレクサンダーの後ろをついて行き、今回の戦場ーーーBランク狩場を後にした。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
街へ戻った俺達は太陽が地上を照らす日中にも関わらず、薄暗く淀んだ空気が漂うスラム街を歩いていた。
アレクサンダーの案内で辿り着いた場所には、大きく綺麗な外観をした建物があった。
「犯罪組織の拠点にしては、随分と立派な建物じゃないか」
「…」
扉を開けて中に入るアレクサンダーに続き、俺も扉を潜り広いロビー内を歩く。
2階へ続く階段を上り、一番奥の部屋に入る。アレクサンダーは本棚に並べられている本を数箇所弄ると、本棚が自動で横に移動する。
本棚の後壁にはダイヤル式の大きな金庫が埋まっており、アレクサンダーは慣れた手つきで解錠し始める。
(リアルでこんな仕掛けを見るのは初めてだな)
少し感動していると解錠作業が終わったようで、金庫の中身を確認することにした。
「ハハハ! これは凄いな! これほど大量の真銀貨や虹金貨は見たことがない! 一体いくらあるんだ!」
思わず興奮してしまったが、目の前の光景を見れば誰でも興奮することだろう。
数えるのが面倒なほど大量の硬貨が積まれており、他には幾つかの書類があった。
一つの書類を手に取り内容に目を通すと、ある貴族との取引内容が詳細に書かれていた。
「このベイジル男爵と複数回に渡って取引しているようだな。駆け出しまたは下級の女性冒険者や街娘などを引き渡す代わりに、金を受け取っていたようだな」
「あぁ」
「何故ベイジル男爵は、こんなにも若い女性を求めているんだ?」
「男爵の悪趣味のせいだ。逆らえない女を一方的に犯し甚振るのが好きで、多くの女がすぐに壊される。男爵にとって女は消耗品だから、何度も調達する必要がある」
なるほど。
俺と同じ正真正銘のクズのようだ。ディアナが聞けば激怒間違いなしだな。
「男爵とは何処で取引しているんだ?」
「ここで調達した女の引き渡しを行なっている」
「わざわざ危険な場所に男爵自ら赴くのか?」
「調達した女達の品定めをする必要があるからな。それに、男爵がスカウトした私兵もいるから問題ない」
「その私兵は強いのか?」
「Bランク冒険者相当の実力はある」
「ということは、現役のBランク冒険者が男爵を護衛しているのか?」
「違う。元Bランク冒険者と元Bランク冒険者の傭兵が護衛についている」
「どちらも現役は引退しているのか。冒険者と傭兵の違いは?」
「冒険者は対魔物の戦闘が得意で、民の生活を守ることが根底にある。しかし傭兵は、対人戦闘が得意で金や地位を何よりも求める」
「なるほど。だったらお前も、犯罪組織ではなく傭兵になれば良かったんじゃないのか?」
「傭兵も冒険者と同じで、実績が無ければ高額報酬の依頼や指名依頼も無いから、大金を稼ぐことはできない」
「現役のAランク冒険者なら余裕そうだが…まぁこの大量の硬貨を見れば、犯罪に手を染めたくなるのも理解できるけどな」
少し話が脱線したが、金庫の中身を〈収納の指輪〉に入れる。
書類だけを手元に残し、この貴族をどうするか考え始めた。
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