第130話 ボスとギルバート
一方部屋を退室したギルバートは、真っ暗な闇に包まれたスラム街を慣れた足取りで進み、拠点へと向かっていた。
到着した場所には、一般的な家屋が3〜5個分はありそうな大きな建物がある。損壊した家屋が目立つスラム街では、異様に目立ってしまうほど綺麗だ。
扉を開けて中に入ると、見慣れた奴等が酒を飲み交わし、談笑していた。
「おう、ギルバート! お前もこっちに来て飲めよ!」
「悪いな。ボスに報告しないといけないんだ」
「おっと、邪魔したな。報告が終わったら飲もうぜ!」
「あぁ」
自分と同じBランク冒険者の仲間の誘いを断り、2階へ続く階段を上る。扉の前で立ち止まり大きく深呼吸をすると、扉をノックする。
「入れ」
扉の向こうからボスの返事が聞こえ、ドアノブに手をかけてゆっくりと捻る。
ボスの執務机の3〜5歩手前で立ち止まり、姿勢を正す。
「ギルバート、何か用か?」
仕事を一時的に中断し、机上に肘をつき顔の前で両手を組む。
「ご報告があります。明日の夜、この拠点が襲撃されます」
「…その報告に偽りはないな?」
「ありません」
「そうか…襲撃者の名前や人数は分かるか?」
「Dランク冒険者のアレン、1人です」
「…おい、俺の聞き間違いか? Dランク冒険者がたった1人でここを襲撃すると聞こえたが?」
「その通りです」
ボスは高級な革製の椅子に背を預け、溜め息を吐いてから質問してきた。
「普通に考えれば、Dランク冒険者のような雑魚がこの拠点を襲撃しても返り討ちに遭うだけだ。それはお前でも分かるな?」
「はい」
「それでも俺に報告するということは、そいつは只者ではないな。大まかな個体戦力は分かるか?」
「私達ーーーBランクパーティーやAランク冒険者のディアナを1人で倒し、Bランク狩場で一番厄介なミスリル・ゴーレムを打撃一発で仕留める力があります」
「…そいつは本当にDランク冒険者なのか? それに、あのディアナが敗北しただと?」
「冒険者の
「お前らやディアナを倒せるほどの実力者が、何故Dランク冒険者なのか気にはなるが…それは一旦置いておこう。しかしそれでも、ここにいる奴等全員を相手にするには、力不足のような気がするが…」
「正直、実力は未知数です。なので、明日の夜は全員を集めておく必要があると思います」
「そうだな…予想外に拍子抜けという場合もあるし、万全の態勢で迎え討つべきだろう。ところで、その情報はどこで入手したんだ?」
「本人からそう伝えるよう言われました」
「本人から? 何故お前がアレンの言うことをーーー」
もしかすると、【奴隷隷属】の隷属下にあるのか? いや、単純に先程の報告をさせるためにわざと見逃した?
しかし、そんな面倒なことを何故する必要がある? 堂々と宣戦布告するよりも、奇襲を仕掛けたほうが勝利する可能性は高いと思うが…。
「ギルバート、お前はアレンに隷属しているな?」
「…(コクッ)」
「そうなると…お前は敵か?」
鋭い眼光でギルバートを見据える。
「拠点襲撃時は、私も迎撃に参加してもいいと言われました」
ギルバートを隷属化し、俺達を内側から掻き乱す目的で送り込んできたわけではないのか?
それにもしかしたら、ディアナまで隷属化している可能性が高い。1人で襲撃すると言っておいて、ディアナも連れてくるかもしれないな。
アレン…面倒な野郎だ。
「ギルバート、アレンの居場所は?」
「〈傑物の集い〉です」
「貴族や商人が宿泊する高級宿屋か…あそこを襲撃するのは流石に厳しいな」
どうするか…宿屋の周辺を見張らせ、アレンの行動を監視。もし狩場に向かってくれたら、そこで奇襲を仕掛け一気に叩く。
何も奴の襲撃を待つ必要もない。
こちらからお前を殺してやる!
「ギルバート、お前は何人か連れて宿屋を監視していろ」
「はい」
「ん? まだ他に用があるのか?」
「明日の夜、ここへアレンを案内する予定なのです。それについてはどうしますか?」
「できれば夜と言わず、日中にこちらから仕掛けたい。戦場はBランク狩場がいいだろう。こちらは大人数だから魔物の襲撃も問題ない」
「では、そこまでアレンを案内すればいいのですね?」
「あぁそうしてくれ」
「分かりました。失礼します」
ギルバートが退室したのを見届けると、椅子から立ち上がり、窓から夜空を見上げる。
ディアナが参戦することを想定し、戦場はBランク狩場がいいと判断した。
G〜Cランク複合狩場に比べれば人目は少ないし、何より大規模な魔法攻撃も行使できる。そうすれば、ディアナが一緒にいようとこちらが勝利する可能性は十分にある。
大人数による物量と手数で押し切り、俺達〈赤目の闇梟〉に生意気にも牙を向いた奴をーーーアレンを必ず殺してやる。
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