第128話 ディアナの葛藤
「さて了承も得られたことだし、ギルバートには拠点に戻ってもらうか」
「そうするつもりだが、サイラスやデイモン、デニスーーー俺の仲間が殺された件については、報告してもいいのか?」
「あぁいいぞ。そのほうがお前達も気合いが入るだろ? あとはそうだな…あまりゆっくりと待つのも面倒だから、拠点を襲撃するのは明日の夜にしよう」
「俺はそれまでどうすればいい?」
「好きにしろ。あと、明日の夜は拠点への案内をお前にしてもらうから、一度この宿屋に寄れ。それだけでいい」
「分かった。では、俺はこれで失礼する。すぐにボスに報告する必要があるからな」
ソファから立ち上がり、部屋の出口へ向かうギルバートを見届けると、大人しくさせたディアナに視線を向ける。
「ディアナ、私語を解禁する」
「…貴様は非力な民の命まで奪う外道だと思っていたが、何のために犯罪組織を潰そうとする?」
「俺の目的のためだ。決して、被害を被る冒険者や一般市民を助けたいためではない」
「そうかい。〈赤目の闇梟〉はスラム街を支配する実質的な支配者だ。この街に住む者達でその名を知らない者はいないだろう」
「そうなのか」
「1人で事を成すのは危険すぎる相手だよ。騎士に応援を頼んだほうがいいと思うけどね」
「煩わしいだけだから却下だ。それにそんなことを言って、あわよくば騎士達と連携して俺を捕まえるつもりだろ?」
「さぁどうだろうね? 犯罪者同士が争って疲弊したところを捕縛するのは、絶好のタイミングだなと思っただけだよ」
「それは争う者同士の戦力が拮抗していればの話だろ。ところでギルバートから聞いたが、犯罪組織のボスはAランク冒険者のアレクサンダーと言うらしいぞ」
それを聞いた瞬間、ディアナは目を見開き勢いよく立ち上がる。
「なんだと!?」
「ところで、ディアナが相手してくれないと愚痴っていた奴等の中に、アレクサンダーも含まれているのか?」
「そんなことなどどうでもいい! すぐに冒険者ギルドに報告するべきだ!」
「まぁ落ち着け。俺達の手元にはアレクサンダーが犯罪組織のボスである証拠がない。そのような状況で冒険者ギルドに報告しても意味がないだろ?」
「な、なら! 犯罪組織に所属するギルバートを隷属化させ、聞き出した内容だと言えばいいだろう!? 【奴隷隷属】によって聞き出した内容なら、十分証拠になる!」
「信憑性は高いだろうけど、獲得条件の特殊性と俺の所持スキルを知られたくないから、その意見は却下だ」
「くっ…」
「それに今更冒険者ギルドに報告する必要はないだろ? 俺が奴等を潰すんだから」
「そもそも勝てるかどうか分からないだろう?」
「どうだろうな? 確かに保有戦力は高いが、Bランク以下50人とアレクサンダー1人と考えると最悪苦戦すると思うが、勝利は揺らがないと思うけどな。それとも、アレクサンダーという奴は、ディアナよりも遥かに強いのか?」
「いや、大きな実力の差は無いと思う。だからこそ私が戦いたいと言っても、相手にしたくないんだろう」
「なら問題ない」
ただ注意するべき点は、組織の中にアレクサンダーよりも強い奴がいないかどうか。
〈執拗な毒蛇〉のNo.2のように、組織の奴等ですら見たことがない奴がいるかもしれない。
必要以上に気負う必要はないが、慢心や油断は厳禁。
「話を戻そう。ディアナを生かした目的は2つある」
「2つ?」
「1つはAランク冒険者またはそれに匹敵する実力者の情報を教えること。2つは俺がここ王都で活動している間、性交渉の相手をすること。以上だ」
「ふざけるな! そんな話聞く耳を持つわけがないだろう!」
「おっと、すまない。2つの目的の意図を教えていなかったな。1つ目意図はそれらの実力者を各個撃破し、俺の目標の礎にするため。2つ目は、常に命の危険に晒され、生殖本能が強い冒険者を軽く凌駕するほどに強い俺の性欲処理のためだ」
「二度も言わせるな! そんなことのために誰が協力なんてするものか!」
「それは残念だ。では、対象は無差別にしよう。大人も子供も関係なく殺し、女は全員犯してから殺そう。恋人や家族など愛する者の前で衣服を剥ぎ取られ、泣き叫び、喘ぎ、悶えて苦しむ姿を見せるのは、最高の愉悦だろうな」
「貴様ッ…」
「ディアナ…お前が俺に逆らうから、無関係な周囲の者達も巻き込むことになるんだ。お前1人の犠牲で多くが救われる。それが分かっていながらも拒否し、被害を拡大させるのか?」
「………本当に私が我慢すれば、周囲の者達に手を出さないのだな?」
「それはお前の頑張り次第だな」
最初から無理矢理命令を聞かせることはできたが、ディアナの苦悶の表情を見たくて苛めてしまった。
自身の中の葛藤に苦しむディアナを抱くのは、とても楽しそうだ。
「それで返事は?」
「…私のことは好きにしろ」
「良い心がけだ。では、お楽しみの前に腹拵えをするとしよう」
扉がノックされ運ばれてきた料理を眺めつつ、ディアナと過ごす夜が楽しみで仕方がなかった。
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