第127話 宿泊部屋での話し合い

 ギルバートとディアナを連れて、〈傑物の集い〉にやってきた。


 「この王都でも、一番高級な宿屋に宿泊しているとは」


 「まぁ金はあるからな。それにギルバートは分からないが、Aランク冒険者のディアナであれば、宿泊することはできるだろ?」


 「私は金の無駄遣いや見栄を張ることを好まない。ここでなくとも、十分生活していける」


 「それはそうだろうな。ただ、俺達冒険者の評価基準は実力主義だが、貴族や商人は違う。ここを利用できる時点で、少なくとも相応の財力を有していることは分かるからな」


 「そうかい。興味がないから早くしろ」


 流石、Aランク冒険者まで上り詰めた奴は違うな。一度敗北したにも関わらず下手に出る様子は全くない。


 口調もそのままだし、今まで幾度も敗北を経験し這い上がってきたからこそ、後ろ向きな姿勢は見られない。


 2人を連れてロビーを進むと、受付に立つ老紳士に声をかけられる。


 「お帰りなさいませ、アレン様。そちらのお連れ様は?」


 「男がBランク冒険者のギルバート、女がAランク冒険者のディアナです。2人と部屋で少しお話をしたいと思って、連れてきました」


 「アレン様は人脈もお有りのようですね。夕食についてはいかがいたしましょうか?」


 「夕食はあそこで食べるものだと思っていましたが、部屋に直接運んで頂くことも可能なのですか?」


 「可能です。お食事は3人分ですか?」


 「そうだな…お前達はどうする?」


 「…遠慮する」


 「自腹か?」


 「お金は気にするな」


 「なら、私も戴こう」


 「では、とりあえず2人分頼む」


 「承知いたしました」


 綺麗にお辞儀をする老紳士の前を通り過ぎ、俺の宿泊部屋へと向かった。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 「まぁ座ってくれ」


 対面のソファに着席することを勧めると、2人は素直に従った。着席すると同時に、ディアナが口火を切る。


 「それで? 私達を隷属化させてどうするつもりだ?」


 「なるほど。今の状態がスキルによるものだと気づいていたのか」


 「初めての経験だったが、お前の命令に一切逆らえない状態だと気づいた時は、すぐに【奴隷隷属】だと分かったよ」


 「ギルバートもか?」


 「あぁ」


 「このスキルはとても便利だよね。君達もまさか自分が隷属化されるとは思ってなかっただろ?」


 「当たり前だ。そのスキルは、人類種を100人殺した者が獲得する特殊なスキルだ。普通なら所持している奴はいないし、それはSランクやSSランクの者でも変わらない」


 人間だけでなく、人類種に含まれる者を100人殺した場合に獲得する特殊なスキルか。


 〈執拗な毒蛇〉のNo.2は、Cランク程度の実力で俺よりたくさんの人類種を殺していたらしい。


 ちなみに、現時点で俺が殺害した人数は68人だ。獲得するまで、あと32人も殺す必要があったみたいだ。


 「【奴隷隷属】を所持している時点で、お前が今まで多くの者達の命を奪ったことが分かる。本当に見損なったぞ」


 「ディアナのような美しい女性にそんなことを言われると、とても傷つくよ」


 「ふざけたこと言ってないで、私達を隷属化させた目的を言え」


 「分かった。ではその前に、1つ命令を下す。2人とも自傷行為や自殺行為を禁ずる」


 「何故そんな命令をする必要がある?」


 「私の目的を聞いて、意趣返しに自ら命を絶たれては私が困るからね」


 「「…」」


 「まずはギルバートを隷属化させた理由を話そう。結論から言うと、ギルバートの所属する犯罪組織ーーー〈赤目の闇梟〉を壊滅させようと思っている」


 「なっ!?」


 「待て! 貴様はあの〈赤目の闇梟〉の関係者なのか!」


 おっと、ディアナが反応してしまった。


 これでは話が進まないので、一時的に私語を禁止しよう。


 「ディアナ、話が進まないから私語禁止」


 「…」


 「さて、ギルバートはその組織を潰すことに協力してもらう」


 「本気で言っているのか?」


 「あぁ」


 「俺と同じように隷属化するつもりか?」


 「いや、全員殺す」


 「仲間を殺すと言われて協力する奴がどこにいる?」


 「冒険者や一般市民を脅かす害悪な犯罪者が、仲間同士の絆を語るとは面白い冗談だ」


 「あんたも害悪な犯罪者だろ」


 「ただ、群れることでしか存在意義と自力を証明できず、何人もの人生を破滅させておきながら、家族ごっこやパーティーごっこで善人ぶる君達とは違う」


 「俺達の事情も知らないくせに、知ったような口を聞くな」


 「君達の事情など興味がない。それともお前は、今まで売却した者や殺した者の事情を気にしたことがあるのか?」


 「…」


 「あの時、俺に敗北したことを後悔するんだな。お前のせいで、これから殺される組織の奴等は可哀想だな。それに、皆も害悪な犯罪者同士が潰しあってくれることを望んでいる。お前達も俺に勝てばいいだけだ」


 「…」


 「それで、ギルバートに協力してもらいたいのは、組織の奴等を拠点に全員集めてもらいたい。それだけだ」


 「…本当にそれだけなのか?」


 「あぁ。俺が拠点を襲撃する日に全員集まっていればいい。その後、ギルバートも迎撃に参加してもいいぞ。そちらは50人、こちらはたった1人だ。負けるほうが難しいだろ?」


 「…隣の女は襲撃に参加しないんだな?」


 「あぁ約束しよう」


 「分かった。必ず貴様を殺してやる」


 「それは楽しみだ」

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