第123話 歩むべき道の違い

 うーん…せっかく見逃してやろうと思ったのに…ディアナはついてくる気満々な件について。


 理由は先程彼女が言っていたように、俺と戦いたいから。戦闘狂らしい単純な理由だ。


 …ただ、現時点で彼女と一緒に行動することはできない。


 俺には何人にも負けることはない最強になる目標がある。それは、今まで何度も冒険者に襲われ命を狙われた経験からくるものだ。


 そして、これからもその目標の生贄とするために、何人もの冒険者ーーーいや、罪のない人達も殺すかもしれない。


 そんな業を背負う俺と純粋に強者と戦いたい彼女では、一緒に行動してもすれ違う可能性が高いだろう。


 それに、俺は魔物だから。


 彼女に正体がバレないようにするのも面倒だし、この力ーーーユニークスキルに気付かれるのも面倒だ。


 「すみませんが、貴方と一緒に行動することはできません」


 ディアナは嬉しそうな表情から一変して、真剣な表情でその理由を問うてくる。


 「…それは何故だい?」


 「根本的に相容れないんですよ」


 「根本的に? 私達は同じ冒険者、アレンも強さを求めているんじゃないのか?」


 「勿論、渇望していますよ。ただ、その高みに至るまでの道程が、私と貴方では全く違うんですよ」


 「そうは思わないけど? 強大な魔物を討伐し、屈強な冒険者や傭兵、果ては異世界人と命を賭けて戦い、自らを強くする。アレンもそうだろう?」


 「まぁそうですね」


 「だったらーーー」


 「ですが、それだけでは


 「足りない? 何がだい?」


 「そうですね…私の強さの礎となる屍の数が、でしょうか」


 ディアナは俺の言っている言葉の意味が分からず、首を傾げる。しかし、彼女は容姿から想像できない聡明さで、俺の言葉の意味を理解する。


 「まさか…戦いを生業とする者達以外も、殺すつもりか?」


 俺は沈黙し、ただ彼女に笑顔を向けるのみ。


 「何故だ! 多くの大人や子供達は戦えない者達なんだぞ! その者達の命まで奪って何の意味がある!」


 「先程も申し上げた通り、私の強さの礎になってもらうためです」


 「意味が分からない! 非力な者達の命を奪っても強くなれるわけがないだろう! 強者と戦うから成長でき、強くなれるのだろう!?」


 「…さて、話はここまでです。私と貴方では考えに相違がある。なので、一緒に行動することはできません。分かって頂けましたか?」


 「ぐっ! それほどの強さがありながら、非力な民を守るためではなく、命を奪うために振るうと…何故だ! 何故そこまでする!」


 「もうお話は終わりだと言いましたが?」


 「クソッ!」


 ディアナは大剣を構え、戦闘態勢に入る。


 身体中を白く揺らめくような靄が纏っているので、【闘気練装】も発動しているようだ。


 はぁ…仕方ない。


 彼女のことは気に入っていたんだけどな。


 殺すしかないようだ。


 俺は腕をだらんと下げ脱力した状態で、彼女を見据える。


 【縮地】で目と鼻の先まで迫った彼女が大剣を振り下ろす。しかし、大剣は空を斬り地面に亀裂を入れるのみ。


 彼女は側頭部に迫った回し蹴りを屈んで回避し、すぐに俺の顔面目掛けて鋭い蹴りを放ってくる。


 (先程の攻防の時よりも、動きがいいな)


 後方倒立回転で距離を取った俺の脳天に大剣が振り下ろされる。回避して彼女の懐に潜り込むと、身体を回転させ、後ろに回った大剣が俺の胴体に迫っていた。


 咄嗟に大剣を飛び越えると、彼女の回し蹴りが迫っていたので、腕を交差させ受け止める。


 (うん、威力は問題なし)


 一度距離を取った彼女に肉迫し、迫る大剣を躱そうとするとーーー


 「土槍衾ランド・ランス


 彼女が小声で呟く魔法名が聞こえた瞬間、胸部から下に衝撃が走る。


 (ハハハ! 流石はAランク冒険者! 魔法戦闘も熟せるのか!)


 今まで戦ってきた奴等は、役割が明確に分かれていた。武器を所持する奴は前衛で近接戦闘を行い、魔法が使える奴は後衛で遠距離から攻撃してきた。


 決して武器持ちの前衛が魔法を使うことも、後衛が武器を持って戦うことも無かった。


 だから勝手に、近接戦闘も魔法戦闘も熟す奴はいないのかと思っていたが、Aランク冒険者にもなると、どちらにも備えがあるらしい。


 まぁもしかしたら、俺と同じようにソロで活動する彼女が珍しいのかもしれないが。


 振り下ろされる大剣の側面を殴り、鋭く放たれる蹴り掌で弾き、彼女の腹部を蹴り飛ばす。


 「ガハッ!」


 吹き飛ばされつつも大剣を手放さないのは流石だ。彼女との距離を詰めようとすると、土矢ランド・アロウ土槍ランド・スピアが飛来する。


 躱し粉砕し近づくと、土壁ランド・ウォールで遮られる。


 「邪魔だ!」


 土壁ランド・ウォールを粉砕すると、向こうに彼女の姿が見当たらない。しかし、各感知スキルが彼女の動きを捉えていた。


 視線を上に向けると、彼女が空中で弾けるように加速し、大剣を構えている。


 「オラァ!」


 渾身の力を込めて振り下ろされた大剣は、俺に一直線に吸い込まれ…片手で受け止められた。


 「試しに手で受け止めてみたが、ステータスに差があれば問題ないみたいだな」


 彼女が驚き隙を見せている間に、少し本気の力で鳩尾に抉るような拳を叩き込み、意識を刈り取った。


 「さて、これだけ楽しめた奴を簡単に殺すのは惜しいな」


 ー【奴隷隷属】ー


 「当分、性欲処理には困らないな」

 

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