第120話 力づくで聞き出す

 「お互いの自己紹介も済んだことですし、私に声をかけてきた理由を教えて頂けますか?」


 「理由は単純だよ。アレンを勧誘したいんだ」


 「勧誘? パーティーメンバーは揃っているように見えますが?」


 「私達のパーティーへの勧誘ではないよ。詳細は教えられないけど、これから結成するパーティーのメンバーとして、勧誘したいんだ」


 「ギルバートさんが2つ目のパーティーを結成する理由が分からないのですが? 一般的には、結成したパーティーで冒険者活動に注力するんじゃないんですか?」


 「先程も言った通り、この場で詳細は教えられないんだ。もし詳細を知りたいのであれば、私達の拠点に来てもらう必要がある」


 の拠点ね。このギルバートという優男がトップなのであれば、の拠点と言うはずだ。


 もしくは、この男を含めたトップが複数いる可能性もあるが…そうなると、複数の冒険者パーティーで創設されたクランとかか?


 今の会話だけでは、推測の域を出ない。


 なら、ちょうどいい。


 わざわざ下手に出てついていくのも面倒だし、Bランクの上級冒険者と戦ってみたかったんだ。


 力づくで聞き出すとしよう。


 「すみません、勧誘はお断りさせて頂きます」


 「…それは残念だ」


 優男は少しも残念な表情を浮かべることなく、仲間達も武器を抜き、臨戦態勢に入る。


 流石は上級冒険者。特に殺気や戦闘態勢に入ったわけでもないのに、この場の空気が変わったのを直感で感じ、臨戦態勢に入るとは。


 「シッ!」


 剣帯から〈毒刃刺殺の短剣〉を抜きつつ、全力で駆け出す。


 俺の走る速度が想定以上に速く、一瞬驚く彼等だったが、すぐにデニスと名乗った男が氷槍アイス・スピアを放ってきた。


 飛来する氷槍アイス・スピアを短剣で粉砕し、長剣を構えるギルバートに肉迫する。


 「ぐっ! なんだこの力は!?」


 長剣で受け止めたギルバートが思わず膝をつく。もう片方の短剣で長剣を弾くと、隙だらけの鳩尾に蹴り叩き込む。


 「グハッ!」


 勢いよく吹き飛ばされるギルバートを追随せず、横から振り下ろされる両刃斧を短剣で受け流す。


 両刃斧は地面を穿ち、俺の短剣はデイモンの首元に迫る。その攻撃をサイラスが盾で受け止め、デニスが風鎌ウィンド・スラッシュを放つ。


 「チッ!」


 せっかく衝撃でサイラスが態勢を崩し、デイモンの邪魔をしていたから、追撃のチャンスだったのに。


 「ギルバート、大丈夫か?」


 「耐性と防具のおかげで衝撃を緩和しているはずなのに、まだ鈍い痛みが響くよ。奴の力はBランクを遥かに超えている。様子見なんてしていたら、こっちが殺られる。全力でいくぞ!」


 「「「おう!」」」


 どうやら様子見は終わりのようだ。


 ギルバートとデイモンが駆け出し、デニスが魔法名を呟くと、俺の身体に衝撃が走った。


 その後にギルバートの長剣とデイモンの両刃斧が迫ってくるが、それぞれ短剣で受け止める。


 「馬鹿な! デニスの天雷サンダー・ボルトが直撃したはずなのに、何故動ける!?」


 やっぱり【雷魔法】だったか。


 ダンジョンで能力値が爆増しても、発動から着弾までが速い【雷魔法】は、回避不可能だ。


 ただ、魔法防御力に直結する精神値が8,000を超えているのと、【雷魔法耐性】Lv.5を所持しているので、軽度の衝撃で済んだ。


 「お返しだ。天雷サンダー・ボルト


 「ま、まずい! デニス!」


 ギルバートの警告が届く前に、デニスの脳天に天雷サンダー・ボルトが直撃した。


 『【詠唱省略】Lv.4にUPしました』


 『【魔力操作】Lv.6にUPしました』


 『【魔力纏装】Lv.5を獲得しました』


 『【雷魔法強化】Lv.4にUPしました』


 『【雷魔法強化】Lv.5にUPしました』


 『【土魔法強化】Lv.4にUPしました』


 『【氷魔法強化】Lv.4にUPしました』


 『【風魔法強化】Lv.6を獲得しました』


 『【明晰】Lv.6にUPしました』


 『【不屈】Lv.6にUPしました』


 『【魔力回復量増加】Lv.6にUPしました』


 『【豪運】Lv.5にUPしました』


 『【魔力増加】Lv.6にUPしました』


 『【狩猟】Lv.6にUPしました』


 『【解体】Lv.6にUPしました』


 『【探索】Lv.6にUPしました』


 『【鑑定】Lv.5にUPしました』


 同じく【雷魔法】で回避不可能な上、知力値7,000超えの魔法攻撃には上級冒険者であろうとも、耐えられなかったようだ。


 それに、流石は上級冒険者。


 【心眼】で所持スキルは視れなかったが、所持スキルの数も多くスキルレベルも高いため、得られる戦果が美味すぎる。


 さて、意識を切り替え戦闘に集中する。


 守るべき対象が死亡し、この場に留まるのは危険と判断したサイラスが前線に加わる。


 と言っても、サイラスが俺に力負けしていることは先程の戦闘で明らかになっており、威力を殺しきれず、何度も態勢を崩していた。


 「邪魔だ!」


 サイラスごと盾を蹴り飛ばし、横薙ぎに振るわれる両刃斧を空中で身体を捻りながら躱す。


 「なっ!?」


 まずいっ! という表情を浮かべたデイモンの側頭部に蹴りを放ち、勢いよく木幹にぶつかるデイモン。


 「今のは手応えありだな」



 

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