第118話 Bランク魔物も打撃一発
「こちらがお客様の宿泊部屋になります」
部屋まで案内してくれた女性店員がドアを開け、手で中へ入るよう促す。軽く会釈しつつ中に足を踏み入れると、高級感漂うリビングが広がる。
大きな窓からは街並みを一望でき、高価なテーブルや椅子が並べられている。
さらに、別室はベッドだけの寝室になっており、枕や布団の触り心地も最高だった。きっと、これらに使われているのはキュウキの羽毛だろうな。
トイレや浴室も広く、浴室には足を伸ばして寛げる程の浴槽があった。ゆっくりと湯に浸かれるのは、元日本人としては非常に有難い。
一通り部屋の確認を済ませた俺は、〈収納の指輪〉から〈狂熊剛爪の短剣〉と〈怪力両断の両刃斧〉、〈闇潜のローブ〉を取り出し、寝室に置いておく。
部屋の鍵を閉めて、受付の老紳士に鍵を預けると、宿屋を後にした。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「掲示板を確認した時に、ついでに2つの依頼を受けておけば、真っ直ぐ狩場に行けたな」
途中の露店でサンドウィッチを購入し食べ歩きながら、再度冒険者ギルドに向かう。その道中で、あの時依頼を受けておけば、真っ直ぐ狩場に行けたのにと、後悔していた。
掲示板から〈キュウキの翼〉と〈ミスリル・ゴーレムの討伐〉の2つの依頼を手に取り、談笑中の賑やかな受付に向かった。
「すみません、これらの依頼を受けたいので、手続きをお願いします」
先程、宿屋を訪ねる時に面識もあったので、同じ受付嬢に依頼書を差し出した。
受付嬢は俺と差し出された依頼書を確認すると、溜息混じりに言葉を返す。
「はぁ…貴方はさっき、宿屋の場所を尋ねられたDランクの冒険者ですね。そして、この適性以上の依頼を受けるつもりですか?」
「はい」
「この2つの依頼は、Bランク以上の冒険者に推奨される依頼です。それだけ、危険度の高い依頼ということです。それでも、この依頼を受けますか?」
「受けます」
「そうですか…」
きつそうな印象を受ける彼女だが、俺の返答を聞いた時、少し悲しそうな顔をしていた。
(あぁそういうことか…)
例年、Bランク狩場に無謀に挑戦する中級冒険者達がいるんだったな。
受付嬢は冒険者と密接に関わる仕事だから、目を逸らしたくなる程の重傷を負った冒険者を、これまで何度も見てきたのだろう。
民の安心安全を守るのも冒険者の仕事だが、同時にこれまで以上の名声や富を求めて、危険な選択をするのも冒険者だしな。
手続きを終えた俺は、楽しみを胸に冒険者ギルドを後にした。
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少し遠くに見える鉱山と手前に広がる林ーーーBランク狩場に到着した。
【探索】キュウキ
早速【探索】で目的の魔物を探し、反応があった比較的近い場所に向かう。すると、各種感知スキルが急接近する反応を捉えた。
(あの真っ赤な毛並みは…ジェヴォーダンか)
目立つ体毛のおかげで、一目どの魔物か理解した。そして、流石はBランクの魔物。
Cランク以下の魔物とは比較にならないほど速い速度で距離を詰め、情報の通り頭部に噛みつこうとしてきた。
まずは打撃でダメージを与えられるか。
噛みつきを半身になって躱し、横顔に鋭く拳を振り抜くと、頭蓋骨を粉砕すると同時に、勢いよく吹き飛んだ。
木幹に激しく衝突すると、ズルズルと落下し、その場で動かなくなった。それと、ぶつかった衝撃で木幹が折れ、ゆっくりと倒れた。
『【弱体看破】Lv.5にUPしました』
「Bランク魔物も打撃一発で倒せると。ただ、爆散するほどではないか」
やはり、基礎的なステータスが違うためか、今までの魔物のように攻撃箇所が弾け飛ぶことはなかった。
まぁ、死体が綺麗な状態で手に入るのだから、逆にラッキーだ。
生き絶えたジェヴォーダンの元へ向かい、心の中で「死体を収納してくれ」と呟く。すると、死体が指輪に吸い込まれ、その場には折れた木だけが残った。
「いいね! 素材を無駄にせず回収できる」
〈ヴァルダナ〉のEランク狩場で素材を無駄にしてしまった苦い思い出を振り返りつつ、その場を後にする。
散発的に襲ってきたジェヴォーダンを3匹ほど始末し進んでいると、【気配感知】と【魔力感知】以外のスキルが複数の反応を捉えた。
『【突進】Lv.7にUPしました』
『【弱体看破】Lv.6にUPしました』
近づいて確認してみると、冒険者のパーティーがジェヴォーダン1匹を相手に、戦っている最中だった。
「男2人と女2人のパーティーか。【心眼】で所持スキルも視れないし、【気配感知】や【魔力感知】に反応がない。間違いなくBランク以上の上級冒険者だな」
技量も熟達しているし、連携も洗練されている。余裕を持ってジェヴォーダンの攻撃に対処しつつ、あっさりと倒してしまった。
少し戦ってみたい気持ちと倒した後の戦果に期待感が高まるが、今はやめておく。
警戒される前にその場を離れ、キュウキの元へ向かった。
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