第117話 高級宿屋〈傑物の集い〉

 資料室でBランク狩場の情報を確認し終えると、一度天井を見上げ、再び本に視線を戻す。


 上位の狩場なだけあって生息する魔物は巨体が多く、所持スキルのレベルも高い。ただ、一番厄介そうな魔物はミスリル・ゴーレムだと思う。


 魔法や戦闘系統のスキルは所持しておらず、耐性系統だからこそ、ダメージを与えられるか不安である。


 今所持している武器は、Eランク魔物のワイルド・ベアの素材で製作された〈狂熊剛爪の短剣〉とCランクの特殊武器〈毒刃刺殺の短剣〉、Dランクの特殊武器〈怪力両断の両刃斧〉しかない。


 単純にランクだけで比較してもミスリル・ゴーレムに劣るので、攻撃した際に武器が破損する可能性がある。


 特に特殊武器は貴重なので安易に使用するわけにはいかない。そうなると、打撃や魔法でどれほどダメージを与えられるか試してみるべきだな。


 もし倒せないようなら、武具屋で上質な武器を購入しよう。上位狩場を保有しているのだから、きっと高価な武具を取り扱っているに違いない。


 読み終わった本を元の場所に戻すと、宿屋の場所を尋ねに受付に向かう。この時間帯は暇を持て余している綺麗な受付嬢の一人に話しかける。


 「すみません、王都で一番高級な宿屋の名前を教えて頂けますか?」


 すると、気の強そうな顔立ちをした受付嬢が俺を値踏みするかのような視線を向けてきた。


 「王都に来たのは初めて?」


 「えっ? まぁそうですが…」


 何故か質問に質問で答える受付嬢。


 「ランクは?」


 「Dランクです。あの、私は宿屋の場所をーーー」


 「Dランク程度じゃ高級な宿屋に泊まるのは無理よ。そういうところの主な客層は、貴族や大商会の会長、Bランク以上の上級冒険者だから。諦めて身分相応の宿屋に宿泊することね」


 きつい印象も相まって嫌味を言っているように聞こえるが、ここは冷静に。宿屋について詳しそうだし、宿泊費がどのくらいなのか尋ねてみよう。


 「では参考までに、一泊いくらかかるのか教えてください」


 「貴方の言う一番高級な宿屋なら、一泊真銀貨1枚はするわ。Bランク冒険者でも安定して魔物を討伐できないと、宿泊費を払えないほどよ」


 確かに高いな。1本銀貨2枚の肉串を500本も食べられるんだから。


 でも問題ない。ダンジョ攻略と犯罪組織を壊滅させたことで、お金はたくさんある。それにランク上げのためにも、Bランクの魔物をたくさん討伐する予定だから問題ない。


 「分かりました。一応名前だけ教えてください。今後の目標にして、冒険者活動を頑張るので」


 「…まぁいいわ。名前は〈傑物の集い〉よ」


 「教えて頂きありがとうございます。失礼します」


 受付嬢にお礼を伝え、宿屋に向かう前に依頼掲示板を確認しておく。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〈キュウキの翼〉

 キュウキの翼を用いて製作された布団や枕は、貴族や豪商にとても人気がある。

 また、貴族の娘や奥様が着用するドレスに、装飾として付けられるため、需要が高い。


 買取額:真銀貨1枚と白金貨5枚

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〈ミスリル・ゴーレムの討伐〉

 ミスリル・ゴーレムの身体を構成するミスリルは鉄よりも軽く、ミスリル製の武具は軽量かつ頑丈であるため、C〜Bランク冒険者の主装備になる。

 他にも、食器や料理道具の製作に使われる場合もある。


 買取額:真銀貨5枚と白金貨5枚

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 〈オーク肉の調達〉と同様に高額買取をしているらしいので、2つの依頼を積極的に受けようと思う。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 依頼の確認を終えて冒険者ギルドを後にした俺は、早速【探索】で見つけた〈傑物の集い〉に訪れていた。


 真っ白に輝く石材や吹き抜けの天井、革製のソファが並ぶロビーを、その醸し出す雰囲気に圧倒されながらも、受付に向かって歩いていく。


 背筋を伸ばし、俺のことを見定めるよう視線を送る老紳士に話しかける。


 「こちらの宿屋は一泊真銀貨1枚と聞いたのですが、間違いありませんか?」


 「はい、間違いございません」


 「では、空いている部屋への案内をお願いします」


 しかし、老紳士はその場から動かず、再度装備や服装に視線を向けて、言葉を返す。


 「お客様は冒険者のようですが、服装や装備はあまり上質なものとは言えないでしょう。こちらとしては、本当に支払い能力があるのか疑わしいので、お断りさせて頂きます」


 衣服は着れればなんでもいいし、装備もダンジョン攻略に支障が無かったから気にしていなかった。


 受付嬢も同じような反応だったし、仕方のないことかもな。


 「そうですか。ちなみに、何日分前払いすれば泊めてもらえますか?」


 老紳士は俺の返答に少し目を見開き、少し逡巡した後、返答する。


 「では、10日分先払いして頂けるのであれば、空いている部屋にご案内しましょう」


 10日分ということは虹金貨1枚。


 マジックポーチから取り出した虹金貨をカウンターに置くと、老紳士はそれを手に取り裏表を確認していた。


 「大変失礼いたしました。すぐにお部屋に案内させて頂きます」


 深々と頭を下げ謝罪すると、隣にいた女性の店員に「部屋への案内をお願いします」と告げた。

 


 

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