第89話 単独行動は悪意を惹き寄せる

 先程襲撃してきた三匹のゴブリンを殲滅し、ドロップした金貨を回収しながら考える。


 ダンジョン内に入り、冒険者達と魔物の戦闘を見た時は、油断しないように気を引き締めた。


 ただ、これまでの戦闘でDランク相当に強化された魔物でも、余裕を持って対処できることが分かった。


 まぁ、ステータスとスキルレベルが強化されても一度戦ったことがあるため、梃子摺るほうが難しいくらいだ。


 経験に勝るものは無いな。


 そして、これだけ余裕なら【集敵】で狩りをしたほうが効率的だなと感じ始めた。


 今は守るべき者もいないし精神的な負担もないので、楽に戦えると思ったのだが…。


 周囲にいる冒険者パーティーのことを考えると、この案は却下せざるを得ない。


 【集敵】を発動したら、半径50メートル以内の魔物達が俺に向かって、一斉に集まってくる。


 偶々、他の冒険者達が有効範囲内にいた場合、魔物達が俺から冒険者達に意識を切り替える可能性もある。


 それに、他の冒険者パーティーが戦っていた魔物まで横取りする可能性があるので、迂闊に実行できない。


 もし実行するにしても、他の冒険者達が少ない階層でやるべきだろう。


 だったら、もうこの階層に用はない。


 さっさと二階層を目指すことにした。


 「そこの兄ちゃん、少しいいか?」


 背後から声をかけられて振り向くと、人相の悪い四人の男達がいた。


 「何でしょう?」


 「ここはダンジョンだ。一人で行動している兄ちゃんが心配でな。他に仲間はいないのか?」


 「私は一人です。ダンジョンは初めてなので、本当にパーティーを組む必要があるのか、確かめてる最中です」


 俺の返答を聞いて男達は周囲に視線を巡らせ、納得したような表情を浮かべる。


 「なるほどな。じゃあ一つ提案なんだが…武器と防具、それと二つのポーチを俺達に渡せ。そうすれば、命だけは奪わないでやる」


 あれ? 俺のことを心配してくれる優しい先輩かと思ったが、ただの不良冒険者だったようだ。


 資料室の本にも書かれていたが、本当にダンジョン内は無法地帯のようだ。他のパーティーがいても構わないみたいだ。


 「当然、お断りしますよ。逆に聞きますが、それって私に死ねって言ってますよね?」


 「理解が早いな。ダンジョン内を単独行動しているから、馬鹿だと思っていたぜ! ガハハハ!」


 「「「ギャハハハ!」」」


 「それで? 私はお断りしましたが、どうするんですか?」

 

 「勿論、お前を殺す。やれ」


 「雷霆よ、敵を射抜くーーー」


 パーティーのリーダーと思われる男が仲間に指示すると、武器を所持していない仲間の一人が【雷魔法】の詠唱を開始する。


 その詠唱を聞き取った瞬間、【縮地】で一気に距離を詰める。しかし、こいつら腐っても中級冒険者のようで、詠唱する前に盾を所持した男が立ち塞がるように前に立っていた。


 なので、今目の前にいるのは盾を構える男。盾を蹴り抜き、詠唱途中だった男を巻き込み、吹き飛ぶ。


 右前方から鋭く突き出された槍を半身になって躱し、槍を力任せに引っ張り、体勢が崩れた男の首を斬り落とす。


 『【槍術】Lv.3にUPしました』


 『【解体】Lv.4を獲得しました』


 『【刺突強化】Lv.4を獲得しました』


 「オラァ!」


 ガキン!


 振り下ろされた長剣を右手の短剣で受け止め、左手で剣帯から短剣を抜き、首を狙う。


 しかし、首に到達する前に手首を蹴られ、距離を取られる。


 だが、今は目の前の男はどうでもいい。


 すぐに背後に振り返り走り出す。


 ー【身体強化】ー


 ー【縮地】ー


 先ほどよりも速い速度で距離を詰めると、短剣を振り下ろすと見せかける。


 盾を上方に構えたことで隙だらけになっている足元に足払いをかけ体勢を崩し、目が合った詠唱途中の男に短剣を投擲する。


 『【水魔法】Lv.3にUPしました』


 『【火魔法】Lv.3を獲得しました』


 『【魔力感知】Lv.3にUPしました』


 『【雷魔法強化】Lv.2にUPしました』


 『【雷魔法強化】Lv.3にUPしました』


 『【明晰】Lv.3にUPしました』


 『【不屈】Lv.3にUPしました』


 『【魔力回復量増加】Lv.2にUPしました』


 『【魔力回復量増加】Lv.3にUPしました』


 『【魔力増加】Lv.4を獲得しました』


 『【逃走】Lv.4にUPしました』


 『【魔力操作】Lv.3にUPしました』


 「テメェ! ぶっ殺してやる!」


 袈裟懸けや横薙ぎに振るわれる長剣を躱し続け、何度目かになる振り下ろしを短剣で受け流し、懐に入る。


 鳩尾に鋭く抉るような拳を叩き込み、苦しそうな声と共に頭部が下がってきたので、髪の毛を鷲掴み、首に短剣を差し込む。


 『【採取】Lv.4にUPしました』


 『【農耕】Lv.4にUPしました』


 『【斬撃強化】Lv.4を獲得しました』


 「あとは貴方だけですね」


 「ま、待ってくれ! 装備も金も全て渡すから、命だけは助けてくれ!」


 「何故ですか?」


 「えっ?」


 「先程まで私を殺すために必死だったのに、負けると分かれば次は命乞いですか? 随分と舐められたものですね。一方的に殺し奪おうとする奴に慈悲をかける奴は馬鹿ですよ」


 「う、うわぁあああ! た、助けてーーー」


 「他の人まで巻き込もうとするなんて、本当に迷惑な奴ですね」


 『【盾術】Lv.3にUPしました』


 『【不屈】Lv.4にUPしました』


 『【金剛】Lv.3にUPしました』


 『【狩猟】Lv.5にUPしました』


 『【心眼】Lv.4にUPしました』


 『【探索】Lv.5にUPしました』



 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る