第88話 ドロップは硬貨?

 ダンジョンの入口を潜ると、視界に広がる景色は一変した。


 最初の階層は草原地帯のようで、周囲を見渡せば、冒険者パーティーはホーン・ラビットやゴブリンと戦っていた。


 そして、冒険者達と魔物の戦闘を見て、初めてのダンジョンで浮ついていた気持ちを引き締める。


 明らかに〈ハザール〉の森で戦った同種の魔物とは動作が違う。


 ホーン・ラビットの【跳躍】による角攻撃やゴブリンの【棍棒術】による近接戦闘の速度や威力がランク相応なのだ。


 ここのゴブリンが振り下ろす棍棒の威力は〈ヴァルダナ〉のEランク狩場で戦ったハイオークの攻撃に匹敵する。


 ただ、対峙している冒険者パーティーもDランク相当であり、人数も有利なので余裕を持って対処できている。


 「油断はできないが、戦い甲斐はあるな」


 入口付近では魔物と戦うことはなさそうなので、どんどんと奥へ進んでいく。


 奥に進むほどパーティーの数は少なくなるようで、待ちに待った魔物との戦闘が始まった。


 殺意を剥き出しにして迫るゴブリン。走る速度も速いので、一瞬でお互いの距離が縮まる。


 「グギャ!」


 ゴブリンの身長は1メートル程度、俺の身長は170〜180センチメートルくらいなので、ゴブリンは手前で軽く跳躍し、棍棒を振り下ろしてきた。


 棍棒を拳で粉砕し、回し蹴りをゴブリンの側頭部に打ち込む。勢いよく吹き飛ばされ、何度も地面を転がるゴブリン。


 そして、ゴブリンの元へ向かおうとした時、ゴブリンが淡く光輝き、その場から消失した。


 慌ててその場に駆け寄ると、地面には一枚の金貨が残されていた。


 「えっ? 何故、金貨がここに?」


 冒険者が落としたのか? と思ったが、近くにパーティーはいない。落としたことに気づかないで、移動した可能性も考えられるが…。


 もし、ゴブリンを倒したことでドロップしたのであれば、これは大金を稼ぐチャンスなのかもしれない。


 一先ず金貨を拾い、ドロップ現象を確かめるために、次の魔物を探そうとすると、蛇の魔物が襲いかかってきた。


 蛇の胴体を鷲掴み、力任せに引きちぎる。


 『【熱源感知】Lv.4にUPしました』


 スキルレベル上昇の通知を聞きつつ、蛇の死体を見ていると、ゴブリンと同じように淡く光輝き、地面に金貨一枚が残されていた。


 ダンジョン内は魔物の素材や魔石を得られない代わりに、直接報酬が得られるようだ。


 となると、魔石を入れるための籠も素材を運ぶ荷車やポーターも不要。どれだけ魔物を討伐するかで、その日の報酬額が変わる。


 籠や荷車が不要なのであれば負担は軽減されるが、金貨一枚は少なすぎると思う。


 素材丸ごとか魔石だけかで前後すると思うが、ワイルド・ベアやオークが一匹当たり白金貨一枚程度。


 勿論、狩場であれば魔物のランクと強さが一致しているので、報酬額が低いのも分かる。


 でも、ここはGランクのゴブリンがDランク相当の強さがあるので、白金貨一枚以上は欲しいところだ。


 あとは階層が上がるにつれて、ドロップする硬貨の枚数が変わるかどうかを確かめる必要があるな。


 そう思考していると、横からホーン・ラビットが突撃してきたので、角を掴み胴体を拳で強打すると、地面を転がり消失した。


 金貨を回収すると、二匹のゴブリンが襲いかかってくる。


 一匹目が振り下ろす棍棒を掌で受け止め、顔面に拳を叩き込む。


 二匹目が振り下ろす棍棒は半身になって躱し、頭部を掴み地面に叩きつけた。


 続いて、背後からコボルトが襲ってきたが、各種感知系スキルで動きは捉えていたので、意味のない奇襲だった。


 「お! お前とは初めて会うな」


 ゴブリンやオークと並び、異世界モノの代表的な魔物であるスライム。


 初めてのご対面で感動していると、容赦なく溶解液を噴射してきた。咄嗟に横に飛んだので無傷だが、いきなり攻撃してくるとは失礼な奴である。


 物理攻撃は効きにくいので、手っ取り早く魔法で倒すことにした。


 「雷霆よ、敵を貫け、雷撃ライトニング


 バリバリバリィィィ


 雷撃ライトニングは容易く魔石を破壊し、スライムは消失した。


 『Lv.25にUPしました』


 『【溶解】Lv.4を獲得しました』


 『【吸収】Lv.4を獲得しました』


 『【打撃耐性】Lv.5にUPしました』


 「攻撃手段は単純でそこまで強いとは思わないが、ステータスや所持スキルはDランク相当なので、経験値が美味しい」


 「「「ウキー!」」」


 次に襲ってきたのは猿の魔物。


 「こいつらの名前は何だったかな…あ、思い出した。ストライク・モンキーだ」


 一匹目が振り抜いた拳に拳を合わせる。骨を粉砕した感触が伝わるのを感じつつ、顔面を蹴り飛ばす。


 二匹目の蹴りを屈んで躱し、軸足に足払いをかける。体勢を崩したところで顔面に拳を叩き込む。


 三匹目が振り抜いた拳を掴み力任せに引き寄せる。逆の手で頭部を鷲掴み、後頭部から地面に叩きつける。


 最後の一匹が消失したのを確認し、次の魔物を探す。


 「一人でEランク魔物八十六匹を殲滅した時に比べれば、容易いな」


 少し先にまた懐かしい魔物がいた。


 ただ、こいつもスキルレベルが上がっているなら近づくのは危険だし、近づかれるのも嫌なので、魔法で倒す。


 「風よ、敵を両断する鎌となれ、風鎌ウィンド・スラッシュ


 『【毒胞子】Lv.3にUPしました』


 「うーん…籠が邪魔だな。今回は仕方ないけど、次回以降は籠は宿屋で留守番だな」


 


 


 


 



 

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