第82話 一人も欠けることなく帰還

 「お! あったあった」


 【探索】で荷車を探しながら、薄暗い山林の中を走っていた。


 ブライアンさんが引いていた荷車は魔物に破壊されることなく、無事だった。しかし、周囲には魔物の死体に齧り付くゴブリン・ファイターとゴブリン・マジシャン、オークがいた。


 早く戻らないといけないので、さっさと片付ける。


 ゴブリン・マジシャンの後頭部に狙いを定め、【雷魔法】を詠唱する。


 「雷霆よ、敵を貫け、雷撃ライトニング


 バリバリバリィィィ


 雷撃ライトニングがゴブリン・マジシャンの後頭部を貫き、齧り付いていた魔物の死体に覆い被さるように倒れたのを見届け、オークの左目に向かって短剣を投擲する。


 「グモォオオオ…」


 左目を短剣によって貫かれ、悶え苦しむオークの頭上まで【跳躍】し、頭頂部に拳を叩き込む。


 頭蓋骨を粉砕した感触が拳に伝わり、絶命したことを確認すると、着地と同時に振り抜かれたゴブリン・ファイターの拳を掌で受け止め、力任せに引き寄せると下顎を強打し、頭部を地面に叩きつける。


 そして、戦闘音で誘き寄せられる魔物達が来る前に、荷車を引いてその場を後にした。


 「お待たせしました」


 「よし! 野郎共は周囲を警戒する奴とハイオークを荷車に乗せる奴と分かれろ!」


 「私も手伝いますよ」


 「あぁ、助かる」


 ハイオークはオークよりも巨体なので、男性冒険者十名以上で持ち上げ、荷車の上に乗せていく。


 時間はかかったが三匹とも乗せ終え、冒険者の死体はどうするのかと見ていると、他の冒険者が躊躇することなく背負っていた。


 (この世界の人達は逞しいな…)


 もし、俺が魔物ではなく人間に転生していたら、彼等と同じことができただろうか?


 想像すると、忌避感や吐き気を催し、死体を背負うことはできなかっただろうなと思った。


 「よし! では、冒険者ギルドに戻るぞ! 隊列はここまで来た時と同じだが、間に荷車を引く者と冒険者の死体を背負う者を入れる。いいか! 冒険者ギルドに戻るまでが任務だ! 最後まで気を抜くなよ!」


 「「「「「おう!」」」」」


 俺は荷車を引くのを手伝う。


 そして、アレンがハイオークを単独で討伐済みだったため、討伐隊は誰一人として欠けることなく、冒険者ギルドに戻ることができた。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 日中に働いていた者達や狩場で活動していた冒険者達が食事処で飯を喰らい、酒を呷っている時間帯に大通りを進む討伐隊。


 それを見て、行き交う人達は道端に寄り、討伐隊の後を目で追っていた。


 荷車の倉庫に辿り着くと、ハイオークを乗せた荷車を返却し、冒険者の死体を背負う者達は素材の精査兼解体所に入っていった。


 討伐隊の皆さんに続いて冒険者ギルドに入ると、ブライアンさんが依頼掲示板の横の壁に背中を預けながら、こちらを見ていた。


 「アレン!」


 ブライアンさんが心配と安堵が混じった表情をしながら、こちらに駆け寄る。


 「ご心配おかけしました」


 「あぁ、本当に心配したぞ! 大丈夫か? 怪我はないか?」


 「大丈夫です。怪我一つありません」


 「それはよかった! それで、ハイオークと交戦していた冒険者は救助できたか?」


 「残念ですが、私が駆けつけた時には既に殺されていました」


 「そうか…死体は回収できたのか?」


 「はい。ただ、死体の状態はあまり良くありません」


 「死体を回収できただけでも、遺族にとっては有難いからな。大体は冒険者の死体は魔物に喰われて、死体が残ることのほうが珍しいくらいだ。だから、今回は運がいい」


 「そうですか…あ! それより、家に帰らなくていいんですか? 奥さんと子供が心配してませんか?」


 「あぁ、今日は嫁にこっぴどく怒られるだろうな。だが、アレンの無事を確認するまでは帰るつまりはなかったからな。仕方ないさ」


 「では、私も一緒に奥さんに事情を説明しましょうか?」


 「ハハハ! 気にするな! これは俺が勝手にやったことだ。言い訳をするつもりはない」


 「分かりました」


 「アレン、狩場で何か言いかけていただろう? 明朝、冒険者ギルドに集合して話の続きをしよう」


 「はい。では、失礼します」


 ブライアンさんと別れ、ギルドマスターとアーロンさんが話す場所に向かう。


 「報告が遅れて申し訳ありません。既にアーロンさんから話を聞いていると思いますが、私からも報告はしたほうがいいですか?」


 「気にするな。ブライアンは相当お前のことを心配していたからな」


 「アレンさん、一つだけ確認させてください。アレンさんが単独でハイオーク三匹を討伐したのは本当ですか?」


 「本当です」


 「そうですか。まぁ、アレンさんは〈オーク肉の調達〉も受けていますし、今日はEランク魔物の魔石を大量に納入したことも確認しています。流石にこのままアレンさんをGランクにしておくのは冒険者ギルドとしても、損になりますね」


 「Eランクの魔物を大量に討伐し、Dランクの魔物三匹を単独で討伐できるなら、最低でもDランク冒険者相当の実力はあるだろう。さっさとランクを上げてやれよ、ギルドマスター」


 「そうですね。アレンさん、今日中に手続きをしておきますので、明日受付で証明書ライセンスの交換をお願いします」


 「分かりました」


 ギルドマスターと話し終えると、ギルドマスターは踏み台に乗り、討伐隊に参加した皆を見渡しながら、話し始める。


 「皆さん、依頼終わりで疲労が溜まっている中、討伐隊に参加して頂きありがとうございました。皆さんのおかげで被害に遭われた冒険者の遺体を回収でき、遺族の方達に会わせることができます。緊急討伐依頼の報酬は明日の午後には受け取れるように準備します。以上です」


 ギルドマスターの言葉を聞き終えた冒険者達は続々と冒険者ギルドを後にする。


 俺もお腹が空いているので、急ぎ足で宿屋に戻った。

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