第81話 緊急事態は解決済み
時刻は依頼を終えた冒険者が冒険者ギルドに戻る夕方頃。
素材の納入を終えて受付で報酬を受け取る際、Eランク以上の冒険者にハイオークの件について説明する。
コンラッドも知り合いの冒険者に声をかけ、討伐隊に参加してほしいと頭を下げていた。
ブライアンは元Dランク冒険者なので、冒険者の知り合いはいる。お互いに実力を認め合い、冒険者を引退した今でも一緒に飯を食べる仲のパーティーが受付を離れたので、声をかけた。
「アーロン」
「おう、ブライアン。随分と深刻そうな顔をしてるじゃねぇか」
「受付で話は聞いただろう? お前のパーティーは討伐隊に参加するのか?」
「当たり前だろ、ブライアン。俺はお前に手傷を負わせ、冒険者を引退させた魔物がどれほど強いのか気になっていたんだ。それに、大事な戦友を傷つけた報いは受けてもらわないとな」
「その気持ちは有難いが、自分と仲間の命を第一に考えてくれ。それと、これは個人的なお願いになるんだが…」
「おう、言ってみろ」
「今、アレンも戦っているはずだ。助けられるなら、助けてやってほしい。…頼む!」
ブライアンはアーロンに対し、深く頭を下げる。
「おいおい、頭を上げてくれ。俺とお前の仲じゃねぇか。勿論、助けるから安心してくれ。それより、アレンって野郎はお前が気にかけるほどの奴なのか?」
「アレンはまだ冒険者登録したばかりの新人冒険者だ。一緒に活動したのは三日程度だな」
「待て。そのアレンがハイオークの交戦していると聞いたぞ?」
「あぁ、そうだ。俺とアレンがハイオークから逃げ延びた冒険者を助け、アレンがその冒険者のパーティーを助けに向かった」
「…お前が気にかけるほどだ。アレンって野郎はハイオークと戦える実力があるのか?」
「一匹…もしかしたら、二匹でも問題ないかもしれない」
「そこまでお前が評価する野郎か…めちゃくちゃ気になるな。っと、ギルドマスターが出てきた。討伐隊の編成が終わったみたいだな」
「じゃあ、頼んだぞ」
「おう! 任せとけ」
ギルドマスターが討伐隊に参加する冒険者全員を見渡せるように木製の踏み台に立つ。
討伐隊に参加する冒険者達はギルドマスターの前に集まり、ギルドマスターの言葉を静かに待つ。
「皆さん、今回の緊急討伐依頼はオークの上位種でDランク魔物であるハイオーク三匹の討伐と交戦中の四名の冒険者の救助です。そして、討伐隊に参加するのはDランク冒険者三名
とEランク冒険者二十一名。Dランク冒険者率いるパーティーはハイオークを一匹ずつ相手してください。Eランクパーティーは戦況を注視しつつ、サポートをお願いします」
ギルドマスターの言葉を傾聴していた冒険者達は続々と冒険者ギルドを後にする。
ブライアンは討伐隊に参加できない無力な自分に悔しさを感じながら、冒険者達の後ろ姿を眺めていた。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
冒険者ギルドを後にした討伐隊はEランク狩場を進んでいた。
前方と左右にDランク冒険者率いるパーティーを配置し、その後方にEランクパーティーが続く形で移動している。
先頭を歩くアーロンと左右の一番端を歩く二人が【探索】でハイオークを探しつつ進み、道中散発的に襲ってくる魔物達はこの討伐隊の前にあっさりと討伐されていく。
十分〜十五分程移動したところで、アーロンの【探索】が反応を捉えた。
「全体止まれ!」
アーロンの【拡声】で全員が足を止める。
「【探索】にハイオークの反応あり! 各自装備の最終確認を行い、臨戦体勢を整えろ!」
アーロンの指示に従い、皆が装備の確認を始める。それぞれのパーティーリーダーが準備が整ったことをアーロンに伝える。
それぞれのパーティーリーダーが持ち場に戻ったところで、アーロンが【拡声】で号令をかける。
「全体! このままゆっくりと前進! ハイオークを視認次第、Dランクパーティーは一匹ずつ引きつけ戦闘開始! Eランクパーティーは戦闘音に引き寄せられる魔物を蹴散らせ!」
臨戦体勢のまま進んでいた討伐隊は先頭を進むアーロンのパーティーが急に足を止めたことで、停止した。
「ん? あれは…ハイオークが倒れている?」
視線の先に広がる状況が理解できずにいると、一人の青年がこちらに近づいてきた。
一瞬、人型の魔物か!?と身構えたが、近づくにつれて明確になる容姿はどこからどう見ても、人間の青年。
「…俺はDランク冒険者のアーロンだ。お前は?」
「私はGランク冒険者のアレンです」
「アレン? …もしかして、ブライアンの奴が気にかけてる奴か?」
「ブライアンさんにはとてもお世話になっております。私はハイオークと遭遇し負傷した冒険者を治癒した後、ブライアンさんと別れ負傷した冒険者のパーティーメンバーを救助するために、ハイオークの元に向かいました。皆さんは?」
「俺達はハイオークを討伐するために編成された討伐隊だ。アレン、状況の詳細を教えてくれ」
「はい。私が辿り着いた時には救助対象である冒険者は全員殺されていました。その後、ハイオーク三匹を討伐し、ここで待機していました」
「なるほど…ブライアンが気にかけるわけだ。さて、冒険者とハイオークの死体をどうやって運ぶか」
「近くにブライアンさんが引いていた荷車がありますので、それで運びましょう」
「よし! では、アレンはその荷車をここに持ってきてくれ。俺はその間に他の奴等に状況を説明してくる」
「分かりました」
俺は荷車を探しに駆け出した。
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