第80話 ゴブリンとオークの習性
「なるほど。オーク種もゴブリン種と同じ習性があるようだな」
ハイオークが固まっていた場所には男性二人の死体と女性一人の死体があった。
男性二人の死体は四肢や頭部が欠損している状態だった。周囲に欠損部位が無いことから、ハイオーク達に喰われたと思われる。
女性の死体は胸部と陰部の衣服が乱暴に引きちぎられている。口と膣は無理矢理こじ開けられたように大きく開き、胸部には歯形が残っている。
口内と鼻、膣内からは咽せ返るほどの異臭が漂う白濁液が逆流していた。
ハイオーク達がこの女性に何をしていたかは容易に想像できる。
俺が〈シュペール〉の林でアンジェラの死体を犯したことと同様だ。だから、ハイオーク達の行為に何か思うことはない。
俺は人間ではなく、魔物に転生した。
既に魔物も人間もたくさん殺した。
この世界は弱肉強食。
勝者だけが正義。
自分の尊厳を守り、大切な仲間や恋人、家族を守りたいなら強くなれ。ここはそういう世界だ。
…でも、弱肉強食の世界で魔物に転生したとしても、人間だった頃の価値観を全て捨てることはできない。
この冒険者達も日々を懸命に生き抜き、誰かの大切な人だったかもしれないのだ。
「せめて死体を綺麗にして、遺品を持ち帰らないとな」
三人の死体を丁寧に並べ、女性冒険者のウエストポーチに入っていた布を取り出し、【水魔法】で布を濡らしてから、身体に付着した血やハイオークの白濁液を拭き取る。
最後に女性冒険者の目と口を閉じようとしたが、口だけは顎が外れているのか閉じることはできなかった。
その後、二人の男性冒険者の身体も綺麗に拭き、遺品である武器も回収して、死体の側に並べる。
ハイオークの死体も一箇所にまとめる。できれば、荷車を取りに行きたいが、他の魔物に死体を喰い荒らされるかもしれないので、その場に待機することにした。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
アレンがハイオーク三匹を倒し終えた少し後に、救助された男性冒険者とブライアンが冒険者ギルドに到着した。
男性冒険者とブライアンは急いで受付に駆け寄り、慌てて報告しようとする男性冒険者の背中を優しく叩く。
「落ち着け、まずは冷静なれ」
「し、しかし! 俺の仲間がーーー」
「分かっている。だが、お前が冷静に状況の詳細を報告しなければ、冒険者ギルドは適切な対応ができない」
「あ、あぁ…分かった。ふぅ…緊急の報告だ」
「…どのような内容でしょうか?」
受付嬢も二人の深刻な雰囲気を感じとり、気持ちを切り替えて、報告内容について尋ねる。
「俺達はEランク狩場でハイオーク三匹と遭遇した。今は俺のパーティーメンバーとアレンがハイオークと交戦中だ」
「…分かりました。ギルドマスターを呼びますので、少しお待ちください」
「分かった」
報告を聞いた受付嬢は他の職員に受付業務を任せ、ギルドマスターの執務室に向かった。
コンコン
「ギルドマスター、二名の冒険者から緊急の報告です」
「入れ」
受付嬢は扉を開けて中に入り、ギルドマスターの言葉を待つ。
「内容は?」
「Eランク冒険者のコンラッドさんのパーティーがEランク狩場でハイオーク三匹と遭遇。現在はパーティーメンバーとGランク冒険者のアレンさんがハイオークと交戦中です」
「アレンさんがいるなら問題なさそうですが…とりあえず、ロビーに向かいます。ロビーに冒険者は何人いますか?」
「コンラッドさんを含め五人です」
「仕方ないですね。まだ冒険者が活動している時間帯なので、人数を集めることは難しいでしょうね」
ギルドマスターと受付嬢はロビーに戻り、報告してきたコンラッドさんに対し、ギルドマスターが口を開く。
「報告は聞きました。もう少しで夕方になり、依頼を終えて冒険者達が戻ってくるでしょう。そこで、Eランク冒険者以上を対象として討伐隊を編成し、ハイオークの討伐に向かいたいと思います」
「ギ、ギルドマスター! 俺の仲間がハイオークと戦っているんです! すぐに向かわないと間に合わない!」
「それは報告を聞いて理解しています。ですが、今はハイオークに対応できる冒険者がいないのです」
「だ、だけど! その間に俺の仲間が殺されたらーーー」
「突発的な遭遇なので対応が難しいことを理解してください。救助に向かいたい気持ちは分かりますが、ここにいる者達だけで向かっても被害が大きくなるだけです」
「じゃあ! このまま指を咥えて待ってろっていうのか!?」
「そうです。そして、コンラッドさん。貴方も冒険者であるならば、Eランク狩場にハイオークが出現する危険性も理解して活動していますよね?」
「そ、それは…」
「二次被害を防ぐためにも、討伐隊を編成し対応する必要があります。ただ…ブライアンさん。アレンさんであれば、ハイオークを討伐できるのではないですか?」
「どうだろうな。ハイオーク一匹であれば、問題なく討伐できると思うが…今回は同時に三匹を相手にしないといけないからな」
「そうですか。一日にEランク魔物の魔石を約九十個も納入したアレンさんなら、あるいはと思ったのですが」
「ブライアンさん、それは本当なのか?」
「事実だ」
「な、なら! まだ俺の仲間は助かるかもしれない!」
「では、他の冒険者が戻るまで待機していてください」
ブライアンはギルドマスターの言葉は理解できるものの、一刻も早くアレンの元へ駆けつけたい気持ちでいっぱいだった。
しかし、アレンに注意されたばかりなので、大人しくロビーで待ち続けた。
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