第78話 必死に助けを呼ぶ声

 「ブライアンさん、先程はダンジョンの特徴について教えて頂きましたが、Dランクダンジョンは近くの村や街にありますか?」


 「次の〈マイソール〉という街にはF〜Eランク複合狩場とDランクダンジョンがある。ちなみに、ダンジョンがある街のことを迷宮都市と呼ぶ」


 近くの街にDランクダンジョンがあると分かったから、目指すべき場所は決まったな。ただ、F〜Eランク複合狩場とはどういう意味だろう?


 「ブライアンさん、F〜Eランク複合狩場って何ですか?」


 「FランクとEランクの魔物が混在する狩場って意味だ」


 「なるほど。なら、その複合狩場に行く意味はないですね」


 「そうとも限らないぞ。その複合狩場にはここには生息していない魔物と、その上位種がいるみたいだからな」


 「そうなんですか!? ランクが同じ狩場には同じ魔物しかいないと思ってました」


 「それは違うぞ。例えば、Eランク狩場はEランク相当の魔物が生息しているという意味で、オークやワイルド・ベアだけがいるわけじゃない」


 とてもいいことを聞いたな。


 これから色々な街や国を訪れた時、ランクが同じで格下の狩場であっても生息する魔物が異なるなら、新規スキルを獲得できるチャンスがある。


 必ず冒険者ギルドに寄り、狩場情報が書かれている本を読むのを忘れないようにしよう。


 「ただ、今回はDランクダンジョンもあるから、その複合狩場に行く必要はないだろうな」


 「そうですね。…ブライアンさん! 私は明日から明後日にはーーー」


 「次の街に行くんだろ?」


 「はい」


 「既にEランクの魔物は相手になってないし、さっきの戦闘でつまらなそうな表情をしていたからな」


 「バレてましたか…」


 「アレンは何故、冒険者になろうと思ったんだ?」


 「それは…」


 俺が強くなりたい理由はあの日から変わらない。


 元人間でありながら魔物に転生した俺にとって、この世界を生き抜くのは厳しい。


 人類種と友好的に交流したいという願いは俺のわがままで、現実はそれを許さない。


 だから決めた。


 俺は強くなり、生殺与奪の権利を俺が握るのだと。


 しかし、この本心をお世話になったブライアンさんにも言うわけにはいかない。


 「…それは無理だと笑われるかもしれませんが、Sランク冒険者になるためです!」


 「俺は…アレンならSランク冒険者、いや! 五番目のSSランク冒険者になれると信じている」


 「ブライアンさんにそう言ってもらえて嬉しいです! 頑張ります!」


 「そうか! ハハハ! それなら、ここで足踏みするわけにはいかないな。俺の後輩はSSランク冒険者なんだぞ!って、自慢させてくれ」


 「分かりました!」


 本当にブライアンさんに出会えてよかったな。俺の門出をここまで応援してくれる人は他にいない。


 その期待に応えるためにも、全力で頑張ろう!


 「あ! あと、職業について勉強ーーー」


 「だ、誰かー! た、助けてくれー!」


 「アレン!」


 「はい! すぐに向かいましょう」


♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 助けを呼ぶ声がした方向に急いで向かう。


 「アレンも【探索】で負傷者を探せ」


 「分かりました」


 【探索】男性の負傷者


 「誰かー! 誰かいないかー!? 助けてくれ!」


 「俺はブライアンだ! 今そちらに向かっている!」


 ブライアンさんが助けを呼ぶ声の主に向かって、大声で叫ぶ。


 「ブライアンさん、反応がありました。ついてきてください!」


 「おう!」


 そして、すぐに蹌踉めきながら必死に走る男性冒険者を見つけた。


 「大丈夫か!? アレン、【回復魔法】だ!」


 「はい! その者を蝕む重病、その者を激痛で苦しめる重傷を治癒し、再び立ち上がる力を与えよ、上級治癒ハイヒール


 上級治癒ハイヒールを発動すると、負傷している男性冒険者の全身を優しい光が包み込む。


 全身を包み込む優しい光が消えると、視認できる範囲では出血が止まり、怪我が治っていた。


 「助けてくれて感謝する!」


 「いえ、気にしないでください。それより、何があったんですか?」


 「俺のパーティーはハイオークに襲われてんだ! しかも一匹じゃない! 三匹も現れたんだ! だから、冒険者ギルドに報告しようと撤退していたんだが…」


 「ブライアンさん、私はハイオークを討伐しようと思います。なので、この方と一緒に冒険者ギルドに報告しに行ってもらえますか?」


 「アレン、分かっているか? ハイオークはDランクの魔物だ。それを三匹同時に相手することになるんだぞ?」


 「理解しています。ただ、ハイオークが出現した場合は冒険者ギルドに報告しないといけません。その方の怪我は治しましたが、一人でこの狩場を移動するのは危険です」


 「そうだな…なら、アレン。お前がこいつを連れて冒険者ギルドに報告しに行け。俺がハイオークの相手をする」


 「何を言っているんですか!? ブライアンさんは怪我で冒険者を引退したんですよね!? その状態で魔物と戦うのは危険です!」


 「アレン、ハイオークが出現したら冒険者ギルドに報告するのが冒険者の義務だ。俺は冒険者じゃない、ただのポーターだ」


 「分かっています! ただ、今回はこの方がいます! 私が冒険者ギルドに行かなくても、問題ありません!」


 「しかし! ハイオーク三匹は危険すぎる! アレンはハイオークとの戦闘経験もないし、ここは俺の言うことを聞け!」


 「お断りします! ブライアンさん、心配してくれるのは有難いですが、守るべき者の優先順位を間違ってはいけません」


 「…どういう意味だ?」


 「ブライアンさんが命を懸ける時は奥さんと子供を守るときです。今ではありません」


 「…」


 「私はSランク冒険者を目指しています。ここを乗り越えなければ、強くなれません」


 「…分かった。アレン、必ず生きて戻ってこい。冒険者は生きて戻ってくることまでが仕事だ」


 「はい。すみません、あなたはこの先から逃げてきたのですか?」


 「あぁ、そうだ」


 「分かりました。では、ブライアンさんと一緒に冒険者ギルドへの報告をお願いします」


 そして、俺はハイオークが待ち受ける場所に向かって、走り出した。

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