第71話 魔道具店の怪しい老婆
一軒目の魔道具店に自分の姿形を変える魔道具は無かった。
その後、二軒目と三軒目の魔道具店に向かい、陳列されている魔道具を一つ一つ確認したが、目的の魔道具は売っていなかった。
それぞれの店主にも、目的の魔道具が何処にあるか尋ねてみたのだが、分からないそうだ。
それに、自分の姿形を想像通りに変える魔道具は悪用される危険性もあるため、店主も取り扱いには慎重になるようだ。
俺は魔物だとバレないように正体を隠す目的で使用するつもりだが、悪用する人達もいることが分かり、取り扱いに慎重になる理由に納得せざるを得なかった。
しかし、進展がなかったわけじゃない。
三軒目に訪れた魔道具店の店主が気になる情報を教えてくれたのだ。
冒険者ギルドや様々なお店が建ち並び、多くの人々が行き交う大通りを逸れて、損壊の激しい家屋が建ち並び、浮浪者や売春婦、孤児が彷徨くスラム街に魔道具を取り扱うお店があるようだ。
その魔道具店は犯罪に悪用されるような危険な魔道具も取り扱っているらしく、金さえ払えば売ってくれるとのことだ。
ブライアンさんは俺の意思を尊重してくれるみたいなので、その魔道具店に行ってみることにした。
「ここがスラム街ですか…」
「重い病気や怪我で働けない人や他の街から逃亡してきた犯罪者が彷徨き、その犯罪者達が集まる犯罪組織もある危険な場所だ。どこの国も大小の違いはあれど、スラム街はある」
「そうなんですね…」
まだ太陽が昇る日中の時間帯なのに、ここにはあまり太陽の光が差し込まず、薄暗く重たい雰囲気が漂う場所だ。
損壊の激しい家屋の前には薄汚い衣服を身に纏い、伸びたまま整えられていない髪や髭で不潔な印象を抱く浮浪者が酒瓶を抱きしめ、寝転がっている。
大通り沿いの建物に背を預け、浮浪者よりは身嗜みは整えられていて、女性の色香を漂わせ、こちらを注視する売春婦。
家屋と家屋の間に屯し、長剣や短剣、ナイフを所持した男達が俺達の頭頂部からつま先まで視線を巡らせ、睨み続ける。
こちらも【心眼】で所持スキルを視る。スキルレベルは2〜3なので、F〜Eランク冒険者相当の実力はありそうだ。
何故このスラム街にいて、普通に冒険者活動をしないのか不思議ではあるが、きっと後ろ暗い理由でもあるのだろう。
ここに長居するのは危険だなと思いながら歩いていると、ブライアンさんが足を止めた。
「着いたぞ、アレン。ここが教えてもらった魔道具店だ」
辿り着いた場所は他の家屋よりは綺麗な一般的な家屋だった。
「入るぞ、アレン」
「はい」
ゆっくりと扉を開けて中に入ると、嗄れた老婆の声が聞こえた。
「いらっしゃい」
埃臭い店内の奥には黒いフードを深く被り、フードの隙間から長い白髪を垂れ流す、怪しい人物がいた。
その老婆はカウンターを出ると、杖をつき曲がった腰を支えながら、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
「この辺りでは見たことがない顔だね。格好から一人は冒険者だと分かるけど、お前さんは…犯罪組織の人間かい?」
まぁ、俺の格好は暗殺者にしか見えないからね。そう思われるのも当然だ。
「私はアレンと申します。怪しい風貌ではありますが、Gランク冒険者です」
「俺はブライアンだ。元冒険者で、今はポーターをやっている」
「婆はアグネス、気軽にアグ婆と呼んだおくれ。それで、新人の冒険者とポーターがここに何の用だい?」
「ここに来た目的は自分の姿形を変える魔道具を買うためです」
「そうかい。少し待ってなさい」
アグ婆は商品が並べられている棚に向かうと、黒色の首輪を一つ手に取り、こちらに戻ってきた。
「アレンが欲しいのはこの首輪型魔道具〈
「この〈
「そうなるね。一応、注意点も説明しとくよ」
「お願いします」
「一つ目の注意点は〈
「屈強な英雄の姿に変身したら、可憐な王女の姿に変身したくても、できないということですね」
「その通りだね。もし、何度も変身したいなら、その度に〈
「分かりました」
「二つ目の注意点は変身を維持する魔力消費は一時間で30だ。一日変身を維持し続けるなら、中級冒険者以上の魔力が必要になるね」
一時間で魔力消費量が30なら、一日で魔力消費量は720になる。今の俺の魔力量では一日中は難しいな。
まぁ、就寝時は外せばいいし、魔力量が増えれば解決するので、問題ない。
「理解しました。注意点は以上ですか?」
「説明は終わりだよ」
「では、この〈
「真銀貨五枚だよ」
そうだよな。これだけの魔道具が安いわけがない。
でも、俺にはこの〈
必要経費と割り切って、購入するぞ!
「買います」
「毎度ありだよ」
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