第69話 六匹の大魔王は膠着状態

 ブライアンさんの言葉に思わず驚いてしまった。


 魔王…魔物の王、異世界モノでは数多の強者の中でも最上位の強者と描写されることが多く、基本的には人類種と敵対している。


 その魔王という脅威から人類を守るために、人々の希望である勇者が存在する。


 「魔王…聞いたことがないので、教えて頂けますか?」


 「魔王とは魔物の王だ。個体戦力は大国を容易く破滅させるほどに強く、異種族と言葉を交わしたり、他の魔物達を従えるほどに知性が高い」


 「そ、それは…とても恐ろしい存在ですね」


 「ああ、本当にその通りだ。もし、魔王を討伐するのであれば、この世界にたった四人しかいないSSランク冒険者や英雄と讃えられるSランク冒険者、同じ上級冒険者でも上位のAランク冒険者を数多く集める必要がある」


 「なるほど…幼少の頃から強く、成長速度も異常な異世界人でも無理そうですね」


 「俺は実際に見たことはないが、何度か異世界人と魔王が戦ったことがあるらしい」


 凄いな、その異世界人は。


 生半可な覚悟じゃ、魔王と戦おうとすら思わないだろう。


 「日々、懸命に生き抜いている皆さんに対して失礼かもしれませんが、よく人類種は絶滅せずに、生きていられますよね」


 「それには理由があるとされている」


 「理由…とても気になります」


 「冒険者もそうだが、同じランクでもその中で上位と下位に分けられる。魔王にも太古から存在する大魔王がいる」


 大魔王…。


 「その…おかしな言い方にはなりますが、一般的な魔王でさえも、人類の強者を数多く集める必要があるのに、大魔王は…どれほどなのですか?」


 「…大魔王は討伐不可能。不可侵な存在だ」


 「それだと、尚更人類種が生存できているのが奇跡に感じます」


 「それは大魔王が六匹存在するからだ。お互いが強力過ぎるが故に、膠着状態になっているとされている。そして、一般的な魔王は大魔王によって討伐されることもあるらしい」


 「えっ!? 大魔王が魔王を討伐するのですか?」


 「そう聞いたことがあるだけだ。俺の考えでは魔王に進化して調子の乗っている奴を殺したり、あるいは戦力として自陣営に加えてるのかもな」


 それはあり得るかもな。六人の大魔王では勝負がつかないなら、魔王を自陣営に取り込み強化し、虎視眈々と他の大魔王を殺す算段をつけているかもな。


 「ちなみに、何故大魔王は一般的な魔王より強いのですか?」


 「それは、俺にも分からないな」


 「そうですか。いえ、ブライアンさん。とても勉強になりました」


 「そうか? それならよかったぜ!」


 「私は少し常識に疎いので、本当に助かります。…あ! そういえば、異世界人の説明で話が変わりましたけど、【空間魔法】を皆が知ることになった理由は何ですか?」


 「おっと、そうだった。理由は単純だ。この世界に転生した異世界人が【空間魔法】Lv.10を所持していたからだ」


 「なるほど。とても単純明快な答えですね」


 Eランク狩場から冒険者ギルドに戻る道中、ブライアンさんからとても有益な情報を知ることができた。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 「おう! ブライアンとアレンじゃねぇか。今日は戻りが早いな」


 ブライアンさんと話していたら、あっという間に荷車の倉庫に着いてしまった。


 「あぁ、今日はアレンが頑張り過ぎたからな。この後の用事もできたし、早めに切り上げたわけだ」


 「そうか。アレン、籠は一旦預かるぜ」


 「お願いします」


 セドリックさんに八十三個の魔石が入った籠を受け渡すと、とても重そうに両手で抱えていた。


 「お、おい…この魔石の量と重さ、一体何匹討伐してきたんだ?」


 「聞いて驚け、セドリック! アレンは一人で八十六匹の魔物を討伐したんだ!」


 「…ん? 俺の聞き間違いか? ブライアン、もう一度言ってくれ」


 「八十六匹だ!」


 「はぁ!? 八十六匹!? どうやってそれだけの魔物を倒したんだ…いや、待て。もしかして、スタンピードか?」


 「いや、スタンピードじゃない。…アレン、事情を説明する必要があるから、スキルについて話していいか?」


 スキル? あぁ、【集敵】のことか。


 「いいですよ」


 「セドリック、アレンは狩場で【集敵】を発動したんだ」


 「【集敵】…確か、有効範囲内の魔物を誘き寄せるスキルだったか。…それをEランク狩場で使ったのか?」


 「そうです」


 セドリックさんは真顔になって、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


 「アレン、お前は元Dランク冒険者であるブライアンに認めらるほどの才能があるのだろう。ただ、ブライアンは現役を引退した一般市民だ。ポーターとして狩場に同行させるのは構わないが、危険な晒すような真似は辞めてくれ」


 「おい! セドリック! アレンを責めるのは辞めろ! アレンは俺に【集敵】の使用許可を取ったし、俺も危険を承知の上で承知したんだ」


 「そうか。なら、ブライアン! この馬鹿野郎! お前、また嫁に心配かける気か! お前が危険を犯すのを嫁も子供も望んでないぞ!」


 「そ、それは! …いや、俺が馬鹿だった」


 「ブライアンさん、提案したのは私ですので、私に責任があります」


 「いや、アレンは悪くない。もっと稼げると思って、欲に目が眩んでいた。もう少し慎重に判断するべきだった」


 「アレン、お前には関係ないことかもしれないが、ブライアンの嫁と子供のことを思って、危険な行動は謹んでくれ」


 「分かりました」


 「アレン、もし俺が重荷になるなら、他のポーターを頼ったほうがいいぞ」


 「いえ、大丈夫です。大量に稼ぎたいなら【集敵】を使わなくても、早朝から活動すればいいだけですし。これからもブライアンさんと一緒に頑張って、大量に稼ぎますよ」


 「ありがとう、アレン」


 「それじゃ、ロビーに戻って、短時間でどれだけ稼いだか楽しみにして待ちましょう」


 

 

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