第68話 異世界人の実情
ワイルド・ベアやオークは身体が大きいのでブライアンさんと協力して解体し、ジャンプ・ディアやゴブリン・ファイター、ゴブリン・マジシャンは手分けして解体した。
これだけの魔物達の死体があると、周囲に漂う血肉の臭いが凄いので、他の魔物達が集まる前に作業を終わらせる必要がある。
結局、俺とブライアンさんは一度も休憩を挟むことなく、八十六匹の魔石の回収作業を終えた。
「よし! 全部回収したな。あとは、損傷の少ないオークの死体を三匹、荷車に乗せて冒険者ギルドまで運べば依頼完了だな」
「そうですね。それで、他の魔物の死体は放置しても問題ないですか?」
ここの周囲には残り八十三匹の魔物達の死体が散乱しているわけだからな。
「死体は放置しても問題ない。他の魔物達が綺麗に食べてくれるだろう。ただ、ワイルド・ベアやジャンプ・ディアなど、素材価値がある死体を放置するのは勿体無いと思う」
「確かにその通りですね。ですけど、この後の予定もありますし、狩場と冒険者ギルドを何度も往復するのは…」
「そうだよな…こういう時、容量の大きいマジックバッグや【空間魔法】があれば、素材を無駄にせずに済むんだけどな」
「ブライアンさん、マジックバッグと【空間魔法】について教えて頂けますか?」
「別に構わないぜ。ただ、俺も詳しくは知らない。マジックバッグの見た目は一般的な手提げ鞄と同じみたいだ。だが、高額のマジックバッグは家一軒、いや貴族の住む屋敷一つの容量があると聞いたことがある」
「それは…凄いですね」
「あぁ、入手方法は在庫のある店で高額で買うか、ダンジョンで宝箱から入手するかの二通りだな」
ダンジョン…とても気になるが、ここは話を進めよう。
「では、【空間魔法】は?」
「【空間魔法】は容量無制限らしい。ただし、【空間魔法】の習得方法は不明だそうだ」
「ん? 習得方法が不明なのに、【空間魔法】はどのようにして、皆が知ることになったのですか?」
「アレンは異世界人という言葉を聞いたことがあるか?」
まさか…ブライアンさんの口から異世界人という言葉を聞くことになるとは思わなかった。
しかし、どうするか。
これまで殺してきた人達は俺が転生者であることを信じてくれなかった。
それに、この世界で異世界人がどのような立ち位置にいるのかも不明なのに、不必要な自分の正体を明かすのは危険かもしれない。
ブライアンさんのことはまだ付き合いは短いが、信用できる人だと思っている。
でも、伝えるのは辞めておこう。
もし、異世界人だと明かした時、同時に魔物であることもバレる危険性があるからな。
ここは慎重に。
「異世界人ですか…聞いたことがないですね」
「俺達が日々汗水垂らして仕事をし、家族と愛を育んだり、時には喧嘩したりして生活しているこの世界とは別の世界から転生してきた者達のことだ」
「別の世界から転生…」
「この世界とは比較にならないほど技術や文化が発展していて、平和な世界らしい。そして、この世界に転生してきた異世界人達がその知識や技術を活かして、この世界の発展に貢献してくれてるんだ」
確かにその通りなのだろう。
俺が宿屋で快適に生活できているのも、異世界人達が自分達の知識や技術を用いて試行錯誤し、頑張っておかげだ。
「異世界人は凄い人達なのですね」
「そう………かもな…」
何故かブライアンさんの言葉には長い間があった。
「何か問題があるのですか?」
「…単純明快な問題だ。この世界の人間だって同じだ。日々懸命に仕事に励み、家族の生活を守ろうとする者やお互いに協力し支え合う者もいる。しかし、その者達の尊厳を踏み躙る犯罪者や盗賊もいる。それは…異世界人にも言えることだ」
「…例えば、どのような異世界人がいるのですか?」
「聞いた話だと、その国の国王と軍部を掌握し、周辺国に戦争を仕掛けて略奪を繰り返す異世界人。自分自身が国王となり国民から重税で搾取し、富を独占する異世界人。自身の地位と権威に胡座をかき、気に入った者を奪い、気に入らない者は強制的に奴隷へ落とす異世界人もいる」
なるほど。チートを貰い、調子に乗っている異世界人もいるのか。
やはり、それほどチートは脅威なのか。
異世界人ではなく、この世界の強者でも敵わないほどに強いのか。
「英雄と讃えられるSランク冒険者やそれに相当する強者は異世界人を止められないのですか?」
「それは難しい」
「何故ですか? この世界に転生したとしても、魔物と戦わなければレベルは上がらない。すぐに脅威になるとは思えないのですが」
「異世界人はこの世界に転生した時には既に三つのスキルを所持している。しかも、そのスキルレベルが10だ。アレンもスキルレベルの上昇に伴い、能力値が増加するのは知っているだろう?」
「はい」
「異世界人は転生した直後でも、高ランクの魔物を倒せるほどのステータスがあるわけだ。だから、成長速度も尋常じゃない」
そうか。その化物染みたステータスなら、魔物を簡単に倒し、あっという間に高レベルになるだろうな。
そして、レベルの上昇に伴う能力値の増加も合わさり、さらに強くなる。
はぁ…反則すぎだろう。
「だが、心優しい異世界人もいるし、そういう人達が同じ異世界人を止めようとしてくれることもある。ただ、それが異世界人同士の戦争になったりするんだよな…そして、結果的に被害が大きくなるんだよな」
「そうなんですね…」
「あぁ、だから、各国は自国の防衛も兼ねて異世界人を取り合っているんだ。どれだけ異世界人を取り込めるかで、国力が変わってくる」
やはり、安易に異世界人と伝えなくて良かったな。
それに、俺は他の異世界人と同じように即戦力にはならないからな。
「そうなると、大陸の覇権を異世界人同士が奪い合っている状況なんですよね?」
「うーん…そうとも言えるが、大陸の覇権を握るのは異世界人でも無理じゃないか」
「ん? 何故ですか?」
「流石に異世界人でも魔王には勝てないと思うからな」
魔王!?
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