第67話 一人で八十六匹を討伐

 周辺に散乱する魔物達の死体を避けながら進み、土壁ランド・ウォールを【跳躍】で飛び越え、ブライアンさんの無事を確認した。


 「ブライアンさん、【集敵】で誘き寄せた魔物達は全滅しました。お怪我はありませんか?」


 「あぁ、魔物達は土壁ランド・ウォールを突破してこなかったし、怪我一つねぇよ。それより、アレンは大丈夫なのか? 周囲で大きな音が響いていたし、激闘だったんだろ?」


 「ご心配おかけしました。私は怪我一つないので、安心してください」


 「それならよかった。…アレン、一つ聞いていいか?」


 「どうぞ」


 「先程までの激闘の中で、何かあったか?」


 「何か…というのは?」


 「そうだな…言葉にするのは難しいが、アレンの纏う気配?みたいなのが変わった気がするんだ。なんとなく、こいつは強いなと思わせる感じだ」


 元Dランクの中級冒険者であるブライアンさんには俺の変化が分かるのか…。


 ブライアンさんが言った纏う気配?みたいなのは上位種に進化したことが影響しているのだろう。


 確か…ホブゴブリンからゴブリン・パラゴンへと進化したんだよな。


 異世界モノで職業について調べていた時、パラゴンという職業を見たことがある。


 パラゴンは魔法戦士と同じであり、特別な卓越性や完璧さの模範、または最高の価値や優れた能力を持つ人という意味があるらしい。


 つまり、簡単にいうと、他の上位種より特別な上位種ってことだな。


 しかし、このことをブライアンさんに話すわけにはいかない。


 「もしかしたら、連続の激闘で気持ちの昂りが収まっていないのかもしれません」


 「そうか…いや、気にしないでくれ。それじゃ、魔石とオークの回収を始めるか!」


 「そうですね。では、こちらの土壁ランド・ウォールを破壊して、出ましょう」


 「おう!」


 俺が回し蹴りで土壁ランド・ウォールを破壊し、粉砕された土壁ランド・ウォールの上をブライアンさんと一緒に荷車を持ち運び、外に出た。


 そして、ブライアンさんは左方の戦闘跡を確認し、驚愕で言葉を失っているようだ。


 「失礼しました。この土製の鉄槌が邪魔ですね。殴って壊してきます」


 「ア、アレン…一体、何匹の魔物を倒したんだ?」


 「ここで二十九匹、あそこで十七匹、向こうで四十匹倒しました。三箇所で八十六匹ですね」


 「お、おい…俺の聞き間違いか? 三箇所で八十六匹を一人で倒したというのか?」


 「そういうことになります」


 ブライアンさんは目を見開き俺を見つめると、俺の両肩を力強く押さえながら、大声で俺の偉業を讃える。


 「アレン! お前は凄いぞ! Eランクの魔物を一人で八十六も倒したんだぞ! 一人でスタンピードを解決したと同じだ!」


 賞賛してくれるのは嬉しいが、大声で唾を飛ばしてくるのは辞めてもらいたい。


 なので、まずはブライアンさんに離れてもらう。


 「ブライアンさん、落ち着いてください。それと、両肩が痛いので、離れて頂けませんか?」


 「なんでそんなに冷静なんーーーおっと、悪いな」


 ブライアンさんが両手を離してくれたので、話を戻す。


 「正直、私自身も驚いています。今回はブライアンさん一人のみを守ること、戦闘中に幾度のレベルアップにより、戦闘効率が上がったので、対処できたと思います」


 「それでも凄いことだ! アレン、胸を張れ! 今のアレンなら、ハイオークが相手でも勝てると思うぞ!」


 「それはよかったです。もし、ハイオークに遭遇しても、ブライアンさんを守り切ることができるのですから」


 「俺もアレンが側にいるなら心強い! 妻と子供に心配をかけなくて済むしな! それじゃ、魔石を回収するか!」


 「はい」


♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 「そういえば、アレン」


 「はい」


 「その服の下には防具を身につけているのか?」


 「身につけてないですね」


 「そうか。これだけワイルド・ベアを討伐したんだから、素材持ち込みで防具を作ってもらったらどうだ?」


 「そうですね…武器も新しくしたいと考えていたので、装備を新調するタイミングなのかもしれませんね」


 「俺が現役の頃に通っていた武具屋がある。店主に俺から紹介してもいいが、どうする?」


 ブライアンさんはとても面倒見がいい先輩だ。


 とても有難い提案ではあるが、武器はともかく、防具はこの身体に調整する必要がある。


 ブライアンさんにも武具屋の店主にも、俺の正体を知られるわけにはいかない。


 では、どうするか?


 「ブライアンさん、一つ聞きたいことがあるのですが」


 「おぉ、なんだ?」


 「自分の姿形を変える魔道具ってありますか?」


 「自分の姿形を変える魔道具か…何故、それが必要なんだ?」


 「私は生まれつきの痣や魔物との戦闘で傷跡が残ったこの身体を誰にも見られたくないのです。以前、この醜悪な容姿で罵詈雑言を浴びせられ、他人に自分の容姿を見られるのが怖くなったのです。なので、姿形を変える魔道具があれば、自分の容姿を気にすることなく、生活できると思うのです」


 俺が話し終えると、ブライアンさんは勢いよく頭を下げた。


 「すまない! 思い出したくない過去を思い出させ、辛い思いをさせてしまった。俺の配慮が足らなかった」


 「頭を上げてください。私が自ら話しただけなので、気にしないでください」


 「ありがとう。それで、自分の姿形を変える魔道具を見つける必要があるわけだよな。この回収作業が終わったら、一緒に魔道具の店に行こう。何軒か知っているからな」


 「助かります。よろしくお願いします」


 「おう!」


 俺とブライアンさんは会話で中断した手を動かし、魔石の回収を続けた。

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