第50話 宿屋

 「いらっしゃいませ!」


 太陽が地平線の向こう側に沈み空が薄暗くなってきた頃、俺は冒険者ギルドの受付嬢にオススメされた宿屋に来ていた。


 この街に来た時はまだ太陽の位置が高かったのだが、冒険者ギルドで異世界モノのお約束に対応していたら、結構な時間が経過していた。


 「お食事ですか? 宿泊ですか?」


 外見は暗殺者のような風貌で、この上なく怪しい俺に対しても、笑顔で接客してくれる看板娘。


 身長は150〜155センチメートル、茶色の長髪を二つに分けて三つ編みで結び、桃色のリボンがとても似合っている。


 大きくてつぶらな瞳や桃色で瑞々しい唇はあどけなさが残る少女のようで、容姿も中学生くらいに見える。


 服装は民族衣装であるディアンドルと似たようなもので、白色のブラウス、桃色のワンピース、白色のエプロンを身につけている。


 そして、彼女の容姿で一番目を引くのは、白色のブラウスから見える二つの丸い果実。


 幼さが残る彼女に魅了されてしまうのは胸部の発育の良さが原因だろう。


 冒険者ギルドに辿り着くまでにすれ違った女性や冒険者ギルドの受付嬢、この看板娘を見ると、この世界の女性は容姿端麗な人が多いようだ。


 俺も人間に転生していたら、綺麗な恋人ができたり、綺麗な妻と結婚生活を送る未来があったかもしれないと思うと、神様に文句を言ってやりたくなる。


 「宿泊です」


 「ありがとうございます! 一泊金貨三枚になります。食事は朝、昼、夜と三食ご用意できますが、別途お支払いが必要になります」


 「一食はいくらになりますか?」


 「一食銀貨五枚です」


 「支払いはその都度で大丈夫ですか?」


 「はい、大丈夫です! 他にご質問はありますか?」


 「いえ、大丈夫です」


 「では、お部屋にご案内します!」


 彼女の後に続き、二階へ続く階段を上る。階段を上った先に続く通路の左右には扉が並び、彼女は一つの扉の前で止まる。


 「この部屋がお客様の宿泊部屋になります」


 「案内して頂き、ありがとうございます」


 俺は彼女にお礼を告げると、マジックポーチから白金貨一枚と金貨五枚を取り出す。


 「まずは五日間お世話になります」


 「はい! では、私は仕事に戻りますので、失礼します」


 彼女が階段を降りていくのを見届けると、部屋の扉を開けて中に入る。


 右側には扉が二つ並び、奥には木製の机と椅子がある。机の上にウエストポーチとマジックポーチを置き、床に大剣と長剣を並べる。


 自分以外に誰もいないので、深く被っていたフードを取る。視線を後ろのベッドに向け、白色のシーツや掛け布団の触り心地を確かめる。


 「これならよく眠れそうだな」


 シーツや掛け布団に目立った汚れは無く清潔だし、ベッドも柔らかいので、睡眠は問題なさそうだ。


 次は二つの扉の中を確認するとしよう。


 そして、俺は一つ目の扉を開けたまま言葉を失った。


 「えっ…何故、洋式のトイレがあるんだ?」


 俺が驚愕で言葉を失うのも無理はないだろう。元いた世界のトイレが異世界にあるのだから。


 材質は分からないが便座と蓋、タンクがあり、タンクには手洗栓とレバーハンドルもついている。


 試しにレバーハンドルを回して水を流してみたが、トイレの機能はしっかりと果たされている。


 勿論、魔物である俺も排泄はする。狩場で寝食をしていた時は地面に穴を掘り、排泄物は土の中に埋めていた。


 宿屋で宿泊するにあたりトイレ事情は心配していたが、杞憂に終わってしまった。


 では、風呂はどうなのだろう?


 二つ目の扉を開けて、再び言葉を失った。


 カウンターの上には二つの容器が並べられており、ラベルのようなものにはシャンプーとボディーソープと書かれている。


 カウンターの上の壁にはレバーハンドルが付いた蛇口があるが、鏡は無い。レバーハンドルの付いた蛇口の部分からは白色のホースが伸びており、先端にはシャワーヘッドがある。


 ただ、浴槽は無いので非常に肩身が狭く感じるが、毎日身体を清潔に保てるので、些細な問題だ。


 何故、この異世界においてトイレや風呂が近代的なのか。


 もしかすると、この世界に転生した転生者の中にはインフラの知識や技術を持ち、現場で働いていた人がいるのかもしれない。


 元いた世界とは違い、この世界には魔法やスキルが存在する。


 どのように図面や数量を設計し、工事車両が無い中で工事をしたのかは分からないが、その転生者には感謝の言葉を贈りたい。


 日常生活を送る上でストレスを感じなくて済むのは、非常に有難い。これで心置きなく冒険者活動に集中できる。


 この宿屋を紹介してくれた受付嬢には感謝だな。次に冒険者ギルドに行く時は何かお礼の品を持っていくとしよう。


 俺は早速シャワーを浴びて今までの汗や汚れを流し、身体を綺麗にする。


 身も心も清められて、身体が軽くなったような気がする。


 夜飯をまだ食べてないので、一階の食堂でたくさん食べるとしよう。ついでに、盗賊や絡んできた冒険者を倒して獲得したスキルの確認もするとしよう。


 


 


 

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最弱×最強〜最弱のゴブリンと最強のスキル【強欲】〜 無名 @NameLess0305

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