第47話 反撃

 人相の悪い大男三人組が俺の行手を阻むように立ち塞がる。俺のことを見下し、意地悪い笑みを浮かべながら、質問してくる。


 「お前、名前は?」


 人に名前を尋ねる時は自分から名乗れと言いたいところだが、悪目立ちはしたくないので、グッと我慢する。


 それにしても、名前か。魔物だから名前は無いのだが、敢えて名乗るのであればーーー


 「私はアレンと申します」


 元いた世界でスマホゲームをする時に使用していた名前を名乗る。


 「それで、ランクは?」


 いや、こちらが名乗ったんだからお前も名乗れよ! と言いたいところだが、グッと我慢して話を続ける。


 「ランクというのは、冒険者のランクでしょうか?」


 「それしかないだろ。これだから馬鹿は困るんだ」


 「…失礼しました。私はここに冒険者登録するために来ましたので、ランクはありません」


 「ガハハハ! 見たことねぇ野郎だと思っていたが、冒険者じゃねぇのかよ!」


 「だったら、先輩として忠告してやる。お前みたいな顔隠し野郎は冒険者になれねぇ。さっさと帰るんだな」


 「先輩からの助言だ、有難く受け取れよ」


 「冒険者登録については受付の職員に聞きますので。そこで、登録できないようでしたら、大人しく諦めます」


 「おいおい、先輩として親切に忠告してやったのに、舐めたことをぬかしやがる。お前は冒険者になれねぇって言ってんだよ」


 「それは受付の職員に聞くと言っています。貴方達は冒険者ギルドの職員ではないのに、何故、冒険者にはなれないと決めつけるのでしょう?」


 「めんどくせぇ野郎だな。これが最後だからよく聞けよ。お前みたいな顔隠し野郎は冒険者にはなれねぇ。理解したら、装備と所持品を置いて帰るんだな」


 「まぁ、授業料としては妥当だな」


 「俺達は教え方が上手いからな。よく勉強になっただろ? ギャハハハ!」


 まだ、時間的に他の冒険者は狩場で活動しているのだろう。周囲にいる少数の冒険者は俺に憐れみの視線を向けるだけ。


 受付の女性職員は関わりたくないのか視線を逸らし、男性職員は俺達のやりとりを楽しそうに眺めている。


 はぁ…他の冒険者や女性職員の態度はまだ許せるが、男性職員の態度は看過できないな。


 「冒険者は薬草採取をするだけでも、魔物に襲撃される可能性があり、常に命の危険と隣り合わせである。私のような未熟者が冒険者になることは難しいという忠告はしっかりと受け止めます。ですが、私も簡単に夢は諦められないので、申し訳ありません」


 男達はわざとらしく溜め息を吐きながら、言葉を返す。


 「はぁ…ったく、ここまで親切に忠告してやったのに、理解できないのかよ」


 「本当に馬鹿な野郎だ」


 「言葉で分からないのなら、身体に直接叩き込んでやるしかねぇな!」


 首と拳をボギボキと鳴らしながら、一人の男が近づいてくる。流石に所持している長剣は使わないようだ。


 「オラァ!」


 俺の顔面に向けて、勢いよく振り抜かれた拳を片手で受け止める。全く重さを感じない。


 これなら、オーガストの大剣を受け止めた時のほうが遥かに重かった。まぁ、オーガストはEランク冒険者だから、比較にはならないか。


 「テメェ!」


 すぐに拳を引いて、先程よりも勢いよく拳を振り抜いてくる。相手の実力はある程度理解できたし、自分勝手な行動をするこいつらには我慢の限界だし、反撃するとしよう。


 振り抜かれた拳を半身になって躱し、下がってきた顔面を掴み、高い筋力値を生かして地面に叩きつける。


 グシャ!


 硬い床に後頭部から勢いよく叩きつけられたことによって、掌に男の頭蓋骨が粉砕した感触が伝わった。


 『【盗聴】Lv.1を獲得しました』


 「テメェ! よくも俺の仲間を! ぶっ殺してやらぁ!」


 「泣いて命乞いしても、許さねぇからな!」


 男達は長剣を抜き、斬りかかろうとしてくる。


 俺は左手に長剣を所持し、右手に大剣を所持した二刀流で迎え撃つ。ただ、両手を器用に動かすことはできないので、左手の長剣は防御するだけだ。


 一人目の男の長剣の振り下ろしを左手の長剣で受け止める。二人目の男には大剣を振り下ろす。


 「ま、待ーーー」


 振り下ろす前に【身体強化】を発動して、さらに筋力値を高めた。


 男が咄嗟に長剣を横に構えて防御体勢に入るが、その長剣を真っ二つに両断しながら大剣を振り抜いたことで、男の身体に垂直に斬線が浮かび上がる。


 仲間の一人が身体を両断されて倒れたことで、もう一人の男が動揺で狼狽えており、隙だらけになっている。


 そのまま大剣を横に振り抜き、男の首を斬り落とす。


 『【盗聴】Lv.2にUPしました』


 まさか武器を抜いてくるとは思わなかったな。ここは冒険者ギルドで、彼等はそこに所属する冒険者なのだから、彼等にとっては立場が悪くなる行為だと思うのだがな。


 そして、迷惑料として、彼等のウエストポーチから硬貨だけを抜き取り、俺のウエストポーチに入れる。


 これで難癖つけてくる邪魔者はいなくなったし、やっと冒険者登録ができるな。


 周囲に視線を向けると、冒険者や女性職員は怯えた表情でこちらを見つめており、男性職員は慌てて二階に続く階段を駆け上がっていった。


 まぁ、今更慌てることはない。


 俺は周囲を気にすることなく、受付に向かった。


 

 

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