第46話 入市
そろそろ、この盗賊達の拠点を後にして、[ヴァルダナ]に向かうとしよう。
アクセサリーや硬貨が入っているマジックポーチは持っていくとして、洋服や魔道具はどうするか。
試しに魔道具をマジックポーチに入れてみようとするが、入らない。アクセサリーや硬貨で容量が限界なのかもしれない。
持ち運ぶのが面倒なので、洋服や魔道具はここに置いていくとしよう。
俺は洞穴の出口に向かい、この洞穴をどうするか考える。このまま何もせず放置すれば、魔物や盗賊に利用されるかもしれない。
街道を通る冒険者や商人の被害を減らすためにも、ここの洞穴は塞いでおくべきだろう。
「土よ、何物も通さぬ壁となれ、
俺は街道に戻り、[ヴァルダナ]を目指した。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「あれが[ヴァルダナ]か!」
遠目に見えるのは高く聳え立つ城壁。そして、その下には入口である城門があり、その手前には人と荷馬車が列を作っている。
俺はワクワクする気持ちを落ち着かせ、再度服装を確認する。何も問題ないことを確認すると、フードを深く被り直す。
初めての人間の住む街に行くので、気を引き締めて列に並ぶ。自分の番が来るまで暇つぶしとして、前に並ぶ人間の所持スキルを視ていた。
特に格好が冒険者だと思われる人間は所持スキルが視れない傾向があった。冒険者は魔物だけでなく、時には同じ人間と戦うこともあるため、当然なのかもしれない。
「次」
俺の番が来たようだ。
門番に呼ばれて、一歩前に出る。
「………この街には何が目的で来た?」
質問するまでに随分と時間がかかったな。まぁ、怪しさ満点だから仕方ないか。
「冒険者活動をしに来ました」
「では、冒険者の
「まだ、冒険者登録をしていないので、冒険者の
「………今まで訪れた村や街で冒険者登録はしてこなかったのか?」
「はい」
「理由を聞いても?」
「今までは森の中で薬草採取や魔物討伐をして暮らしていました。ある時、四人の冒険者に出会い、冒険者について教えて頂きました。そこで、Sランク冒険者を目指し、大金を稼ぐために来ました」
「なるほど。では、街に入るにあたり、銀貨一枚を貰う。いいな?」
「はい」
門番にウエストポーチから取り出した銀貨を渡す。
「この道沿いに進むと右手側に大きな建物がある。そこが冒険者ギルドだ」
「ご親切にありがとうございます」
「気にするな。通っていいぞ」
「失礼します」
深々とお辞儀をして門番の横を通り過ぎる。
フードを深く被ったまま少し視線を上げて、街の様子を伺う。
「これは…凄いな…」
感動のあまり思わず立ち止まってしまう。
石畳で綺麗に舗装された道が伸びており、その左右には石や煉瓦を積み立てて作られた、二階建てや三階建ての家屋が並んでいる。
その家屋の一階では、武器や防具、アクセサリー、食べ物など色々なものが売られている。
手を繋いで歩く親子や仲間と談笑する冒険者、商品の宣伝をするために声を張り上げる店主など活気に満ち溢れている。
これから、暫くお世話になる街並みを眺めながら、冒険者ギルドに向かう。
「ここが冒険者ギルドか」
入口の両開きの扉の上には剣と盾のマークがあり、二階建ての建物のようだ。ただ、建物の幅は建ち並ぶ家屋2〜3個分はありそうだ。
大きく深呼吸をして、両開きの扉を押し開ける。
正面には四つの受付があり、それぞれパーテーションのようなもので仕切られている。
左から女性が三名、男性が一名座っており、女性は髪型や髪色、顔つきが異なる美女で、男性は強面な顔つきで、制服がはち切れるのではないかと思うほど、屈強な身体をしている。
左側には食事処が併設されており、丸太を輪切りにしたような椅子や丸テーブルが並べられている。
右側の壁には複数の羊皮紙が貼られている。あそこが薬草採取や魔物討伐などの依頼書が貼り出されている依頼掲示板なのだろう。
ここから俺の冒険者生活が始まるんだなとワクワクしながら女性が座っている受付に向かおうとすると、声をかけられる。
「おいおい、誰だお前は?」
「そのフードが邪魔で顔が分からねぇだろ」
「他所から来たんだろう? 先輩に挨拶もなしか?」
異世界転生のお約束、先輩冒険者に絡まれました。
しかし、この暗殺者風な近寄り難い格好でも、構わず絡んでくるとは…。
椅子から立ち上がり、こちらに近寄ってくる先輩冒険者達の所持スキルを【心眼】視てみる。
所持スキルの数も少なく、【剣術】がレベル2と一番高い。ここに来るまでに殺した盗賊達と同じくらいの強さかな。
さて、まだ冒険者登録もしてないし、この一方的に絡んできた先輩冒険者を痛めつけて、俺の印象を悪くするのも避けたい。
穏便に事態が解決してくれればいいのだが…。
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