第45話 拠点

 「まずは忠告しておきます。貴方が私に敵意を向けたり、私から逃げようとしたら、その首を大剣で斬り落とすか、魔法で貴方が死ぬまで痛めつけるので、覚悟しておいてください。いいですか?」


 「…は、はい」


 「[ヴァルダナ]の狩場情報を教えてください」


 「か、狩場…ですか?」


 「そうです。[ヴァルダナ]を拠点とする冒険者が何処でどのような魔物を討伐しているか教えてください」


 「は、はい。[ヴァルダナ]にはFランク狩場とEランク狩場があります。Fランク狩場はホブゴブリンやダッシュ・ボアなどのFランク魔物が生息しており、Eランク狩場はオークやワイルド・ベアなどのEランク魔物が生息しています」


 Fランク狩場は[シュペール]の狩場と同じみたいだな。ただ、ダッシュ・ボアという魔物は聞いたことはないが、名前にボアとついているし、猪の魔物のことを言っているのだろう。


 Eランク狩場にはスライムやゴブリンと同じくらい有名なオークが生息しているみたいだ。


 ワイルド・ベアという強そうな魔物もいるみたいだし、凄く楽しみだな。


 「Eランク狩場はどのような場所なんだ?」


 「Eランク狩場は小高い山のような場所です」


 「分かった。では、お前達の拠点に案内してくれ」


 「…案内すれば、見逃してくれますか?」


 「俺を殺そうとしたのだから、お前に選択の余地はない」


 「…」


 「早く案内しろ」


 「…はい」


 男は力なく立ち上がり、俺の魔法で傷ついた身体に鞭を打ちながら、ゆっくりと歩き出した。


 「待て」


 男は怯えた表情を浮かべながら振り返る。


 「街道上に死体があったら、通行の妨げになる。俺とお前で端まで死体を運ぶぞ」


 「…はい」


 二人で手分けをして、首を斬り落とされた盗賊の死体を端まで運ぶ。勿論、男の様子は注視していた。


 作業を終えて、男の後ろについていき、盗賊達の拠点に向かう。


 「ここです」


 目の前には洞穴があり、大人の男性2〜3人が並んで入れる大きさだ。洞穴がある場所は地面が隆起しており、高さは5メートルはあるかもしれない。


 何故、このような地形になったかは分からないが、盗賊達が拠点を築くには良い場所だったんだな。


 「今まで冒険者や商人から奪ってきた物があるのだろう? そこに案内してくれ」


 男は小さく頷き、洞穴の中に入っていく。俺も後に続き、洞穴に入っていく。


 「洞穴の中なのに暗くないですね。この光源は何ですか?」


 「光源用魔道具です。魔物の魔石が保有する魔力を利用して、暗い洞穴の中を照らしてくれます」


 魔石…魔物の肉を喰らっている時に心臓部にあった硬い石みたいなもののことかな? 俺は硬くて食べれないしその辺に捨てていたけど、人間は魔道具の燃料として利用しているのか。


 魔道具の存在に感心しながら、少し臭い洞穴を進んでいく。


 「つきました。ここに冒険者から奪った武器や商人から奪った金品があります」


 長剣や槍、斧などの武器や木箱の上に乱雑に置かれた洋服、木箱の中に入った魔道具、持ち運びのしやすそうな白いポーチ。


 「この白いポーチには何が入っているのですか?」


 「アクセサリーや硬貨が入っています」


 白いポーチを手に取り中を確認してみるが、何も無い。というより、黒い空間が広がっている。


 「これは冒険者が身に付けているウエストポーチとは違うのですか?」


 「違います。それは商人が貴重品や硬貨などを持ち運ぶのに使うマジックポーチです。見た目からは想像できないほど、収納容量は大きいです」


 「なるほど」


 少し時間をかけてマジックポーチの中身を全て取り出すと、確かに想像以上にアクセサリーや硬貨が入っていた。


 ちょうどいいので、こいつに硬貨の価値を聞いておくことにした。


 「硬貨の価値を教えてくれ」


 「はい。硬貨は価値の低い順から銅貨、銀貨、金貨、白金貨、真銀貨、虹金貨となります。銅貨十枚で銀貨一枚と同等の価値になります。他の硬貨も同じような感じです」


 銀貨十枚で金貨一枚、金貨十枚で白金貨一枚、白金貨十枚で真銀貨一枚、真銀貨十枚で虹金貨一枚となるわけだな。


 「よく分かった。それと、俺は人間の住む村や街で生活したいと考えている。目立たない服や顔を隠せる仮面などがあると有難い。一緒に探してくれ」


 「分かりました」


 十分後。


 「これは…逆に目立つのではないか?」


 「はい…目立つと思います」


 俺と男が選んだ服は首元や手首、足首まで覆う黒いインナースーツ、フード付きの黒いロングコート、脹脛まである黒い革靴、目元まで隠す黒い面頬。


 完全に暗闇の世界に生きる暗殺者の服装だ。


 まぁ、この男は悪くない。俺がかっこいいと思った服を選んだ結果だ。


 「これなら、俺がホブゴブリンであると分からないだろう。日常生活では目立ってしまうかもしれないが、冒険者活動に支障はない」


 「…はい」


 それでは、この男の処理をするとしよう。


 「ここまで手伝ってくれたことには感謝するが、お前を殺すことには変わりはない。[ヴァルダナ]まで連れて行き、衛兵に任せようとも思ったが、俺がホブゴブリンであると報告されては敵わないからな」


 「…」


 「来世では真っ当に生きることだな」


 そして、俺は男の首を大剣で斬り落とした。


 

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