第四章
第44話 盗賊
俺は[シュペール]を大きく迂回し、その先へ続く街道上を歩いていた。
ただ、[バザール]から[シュペール]に続く街道上を歩いていた時とは違って、フードを深く被り、街道の端を歩いている。
勿論、理由があってそのように行動しているわけだが、[シュペール]から[ヴァルダナ]に続く街道は、行き交う人達がいるためだ。
装備や格好から冒険者と思われるパーティーが仲間同士で談笑しながら歩いていたり、荷物を載せているであろう荷馬車が通っている。
馬車が横を通り過ぎた時は興奮してしまい、暫く目で馬車を追いかけてしまった。しかし、異世界モノでは馬車の乗り心地はあまり良くないとされていた。
本当にその通りなのか、一度は馬車に乗って、確かめる必要があるだろう。
「はぁ…気を引き締めないとな」
少し周囲の警戒が疎かになっていた。俺はホブゴブリンだから、魔物が街道を歩いていると気づかれれば、厄介なことになる。
【隠蔽】で自身の情報を隠しているとはいえ、油断はできないからな。
フードを深く被り目を伏せたまま暫く歩いていると、遠くのほうで金属同士がぶつかる音が聞こえる。
視線を音が聞こえてくるほうへ向ける。荷馬車の横で複数の人間が戦っているように見える。
【遠視】を発動させると視界が明瞭になり、より詳細な状況を知ることができた。
荷馬車を守るように立ち塞がる四人の冒険者と荷馬車を包囲する十人程の冒険者?が戦っていた。
「何故、冒険者同士で戦っているんだ?」
しかも、多くの人が行き交う街道上で戦うなんて、迷惑すぎるだろう。今は他に行き交う人達がいないからいいが。
いや、俺がいるじゃねぇか。
はぁ…面倒ごとに巻き込まれるのは勘弁なので、このまま素通りするとしよう。
「ぐはっ! はぁ…はぁ…あ! そ、そこの冒険者! 力を貸してくれ!」
荷馬車を守る冒険者の一人が大きな声で叫ぶ。それを聞いて、他の冒険者達の視線が俺に集まる。
まじか…自分達の諍いに俺を巻き込むとは。本当に勘弁してほしい。
「あの…冒険者同士の諍いに巻き込まないでほしいのですが…」
「な、何を言っているんだ!? 俺達はこの荷馬車を護衛する冒険者だが、こいつらは荷馬車の荷物を狙う盗賊だぞ!」
えっ…そうなの? 確かに人相は悪そうだが…。格好はあまり冒険者と変わらないな。
「おい! 巻き込まれたくないなら武器と所持品を置いて、とっとと失せろ!」
何を言っているんだ、こいつは。
「それは無理です」
「お前に選択する権利はねぇよ! 死にたいのか?」
相手の恫喝を無視し、【心眼】で盗賊達の所持スキルを視る。所持スキルの数やスキルレベルからの推測にはなるが、一人一人はFランク冒険者相当だと思う。
但し、人数が多いので、一人で倒すには不安があったが、荷馬車を護衛する四人の冒険者もいることだし、問題はないか。
背中に担いでいた大剣を構える。
「馬鹿な野郎だ。お前ら、そいつを殺せ」
一人の盗賊が短剣を弄びながら、こちらに近寄ってくる。
俺は一気に駆け出し、大剣を振り上げる。
「なっ! 速すーーー」
俺を舐めていた盗賊が身体を真っ二つに両断され、絶命した。
『【伐採】Lv.1を獲得しました』
『【畜産】Lv.1を獲得しました』
『【逃走】Lv.3にUPしました』
仲間の一人が簡単に殺されたことにも驚いているようだが、それよりも、俺の姿を見て目を見開いている。
「ど、どういうことだ…お、お前は…ホブゴブリン、魔物ではないか!」
「そうですが、何か?」
「な、何故、人間の言葉を喋っている!?」
「それはどうでもいいでしょう」
それだけ告げると、再度駆け出し、盗賊達を襲い始める。
盗賊達は所持している長剣や短剣で咄嗟に防御するが、その上から高い筋力値で力任せに大剣を振り抜き、殺していく。
『【伐採】Lv.2にUPしました』
『【畜産】Lv.2にUPしました』
途中で荷馬車と四人の冒険者が離脱していくのを捉えた。俺が同じ冒険者ではなく、魔物だと分かり、囮にしたようだ。
(酷い奴等だな)
愚痴っても仕方ないので、盗賊達を倒すことを優先する。荷馬車や冒険者達がいたので行使しなかった魔法を詠唱する。
「雷霆よ降り注ぎ、敵を悉く屠れ、
「ほ、ホブゴブリンが魔法だとーーーぎゃあああ!」
「「「「「ぐぁあああ!」」」」」
盗賊達は一人残らず倒れ伏し、くぐもった声を上げるだけになった。
「ステータスの中で知力値が一番低いから、魔法一発で殺すことができないんだよな…」
次は知力値が上昇するスキルを選択するかと考えながら、盗賊達の頸部に向かって大剣を振り下ろしていく。
『Lv.16にUPしました』
『【身体強化】Lv.4にUPしました』
『【剣術】Lv.4にUPしました』
『【疾走】Lv.4にUPしました』
『【剛力】Lv.4にUPしました』
『【絶技】Lv.4にUPしました』
俺は一人だけ生かしておいた盗賊の不潔な頭部を掴み上げ、尋問を始めるのだった。
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