第41話 特異

 俺は早朝から林の中を駆け回っていた。


 【探索】で猪の魔物を探しつつ、途中で出会った魔物も討伐していく。


 一匹目の猪の魔物の反応を捉え、全力で駆け出す。猪の魔物が【異臭感知】で俺の存在に気付きこちらに顔を向けると同時に【跳躍】する。


 俺を見失った猪の魔物の頭部に向かって大剣を振り抜く。鈍い音を響かせ、大量の血を垂れ流しながら、猪の魔物の頭部と身体が地面に沈む。


 「グギャ!」


 周囲に響いた鈍い音と血の匂いに引き寄せられ、ホブゴブリンが棍棒を振り上げながら、こちらに向かってくる。


 「ちょうどいい。柔らかい肉も食べたかったところだ。雷霆よ、敵を貫け、雷撃ライトニング


 バリバリバリィィィ


 雷撃ライトニングが轟音を響かせながら奔り、ホブゴブリンの額を貫く。そして、ホブゴブリンの死体はそのまま放置し、猪の魔物を食べ始める。


 グチャ…グチャ…グチャ…。


 口元から血を滴せながら、夢中で肉を喰らっていく。猪の魔物を綺麗に食べ終わっても腹が一杯になることはなく、次にホブゴブリンの死体を食べ始める。


 「あと、そうだな…猪の魔物とホブゴブリンを一匹ずつ食べれば、腹一杯になるかな」


 ホブゴブリンの死体を食べ終えると、再度【探索】で猪の魔物を探す。少し離れた場所に二匹目の反応を捉えたので、すぐに駆け出す。


 先程と同じように猪の魔物を倒す。綺麗に食べ終えると、次は【探索】でホブゴブリンを探す。


 二匹目のホブゴブリンがこちらに気づく前に【突進】で距離を詰めて、大剣で首を斬り落とす。


 『Lv.15にUPしました』


 「お、レベルが上がった! 次はどのスキルを選択しようかな」


 ホブゴブリンの死体の側に腰を降ろし、スキル一覧を表示しつつ、食べ始める。そして、今まで気になってはいたが、後回しにしていたスキルを選択する。


 『【無音歩法】Lv.1を獲得しました』


 スキル名からどのようなスキルか予想はつくが、詳細説明を確認する。


【無音歩法】Lv.1

 歩行時は無音で移動することができるスキル。Lv.1以下の【音波感知】に感知されない。器用値+10


 忍者や暗殺者などが所持していそうなスキルだ。きっと、このスキルに【気配遮断】と【魔力遮断】は相性抜群だろう。


 そして、高レベルの【気配遮断】【魔力遮断】【無音歩法】を所持する者はとても危険だな。


 それに、いつ、どこから襲撃されるか気にしないといけないので、精神的にストレスが半端ないだろうな。


 何を他人事のようなことを言っているんだと思われるかもしれないが、俺には【熱源感知】と【異臭感知】がある。


 油断するつもりはないが、気負うこともしない。


 あとは【音波感知】というスキルがあることも知れて良かったな。魔物専用のスキルだと思うが、必ず獲得したいところだ。


 さて、一度拠点に戻るとするか。他の魔物や冒険者に荒らされているかもしれないし。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 「あそこにアドルフのパーティーの死体がある。今は例のホブゴブリンはいないようだが、周囲の警戒は怠るなよ」


 「「「「分かった」」」」


 エイブラム達は例のホブゴブリンとオーガストが戦っていた場所の近くまで来ていた。


 周囲を警戒しながら慎重に進み、アドルフのパーティーとオーガストの死体、戦利品が置かれている木の根元に辿り着いた。


 「ほ、本当にアドルフやオーガストが殺されている…」


 「それに、アンジェラさんの衣服が乱れているってことは…そのホブゴブリンに…」


 「武器やウエストポーチもたくさんあるな…」


 「こ、これが…たった一匹のホブゴブリンの仕業だというのか…」


 「おかしいな…」


 「何がおかしいんだ、エイブラム?」


 「オーガストが所持していた大剣が見当たらないんだ」


 「…どういうことだ?」


 「…おそらく、そのホブゴブリンがオーガストの大剣を武器として使っているんだろうな」


 「…そのホブゴブリンは一体何者なんだ」


 「それは、神のみぞ知ることだろう。それで、これからどうする? そのホブゴブリンは何処かに出かけているようだが」


 「俺達はそのホブゴブリンを討伐しに来たんだ。必ず見つけ出すに決まっているだろう。まずは【探索】で大剣を所持したーーー」


 「どうした、エイブラム?」


 「…奴が現れた」


 その言葉を聞いて、エイブラムが見据える視線の先に目を向ける他の四人。


 そこには、普通のホブゴブリンと同じ姿形ではあるが、大剣を肩に担ぎ、腰に長剣とウエストポーチを携え、黒いローブを羽織った特異な魔物がいた。


 エイブラムを含めた五人は驚愕で言葉を失う。ただ、すぐにエイブラムが我に返り、他の四人に声をかける。


 「お前ら! すぐに臨戦態勢に入れ!」


 エイブラムの声で我に返り、それぞれの武器を構え、視線の先にいるホブゴブリンを見据える。


 「なるほど…皆、よく聞いてくれ。あのホブゴブリンの所持スキルは視れない」


 「ということは、【隠蔽】を所持しているということか?」


 「あぁ、そうだろうな」


 「何故、あのホブゴブリンは【隠蔽】を所持しているんだ? 俺達のような冒険者が所持スキルを視られないようにするのは分かるが」


 「理由は分からない。ただ、普通のホブゴブリンのように棍棒を所持していないところを見ると、【剣術】は間違いなく所持しているだろうな」


 「本当に厄介だな…それで、どうする? 相手の出方を伺うか、こちらから先に仕掛けるか」


 「そうだな…どうやら、向こうが先に動き出したみたいだ。皆、油断するなよ!」


 「「「「おう!」」」」


 

 


 

 


 

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