第39話 急報

 首を斬り落とした男の死体を見下ろし、脳内に響く無機質な声に意識を集中していた。


 「新規スキルは獲得できなかったが、既得のスキルのレベルは上がったな」


 複数のスキルのレベルが上がったことで能力値が増加し、強くなったことが実感できるのは素直に嬉しい。


 ただ、少し意気消沈してしまう。


 Eランク冒険者のアドルフを倒したことで、Dランク冒険者に対し、俺がどれくらい戦えるのか楽しみだった。


 しかし、アドルフと同じEランク冒険者のこの男との戦いはほぼ互角だった。俺とこの男の能力値に大きな差は無く、近接戦闘も魔法戦闘も熟せる俺が少し有利だっただけだ。


 おそらく、魔法の攻撃手段が無ければ、俺はこの男に負けていたかもしれない。


 所持スキルは魔物のスキルも獲得できる俺のほうが多いと思う。それなのに、実力は互角ということは、スキル以外の要因があるということだろう。


 武器は長剣と大剣という違いはあるが、同じ鉄製の武器だ。そこに大きな差が生まれるとは考えにくい。


 では、技量に差があるのだろうか。確かに、魔物に転生して日が浅い俺のほうが未熟なのは間違いない。


 だが、対処できないほど圧倒されたという感じはしなかった。何度も力負けして吹き飛ばれはしたが、それだけだ。


 他に要因があるとすれば…レベルだろうか。


 Eランク冒険者の平均的なレベルは分からないが、俺よりレベルが上なのは間違いないだろう。


 もしかしたら、レベル20以上の可能性もある。その場合、俺にとっては格上の相手ということになる。


 それと、同じランクの冒険者でも上位と下位に分けられるのかもしれない。そうでなければ、アドルフとこの男の強さの違いに説明がつかない。


 「数多くのスキルを獲得して戦闘の幅を広げるのも大切だが、ある程度レベルを上げておかないと、同格や格上の相手には負ける可能性があるか…」


 まだ、異世界に転生したばかりの俺が今まで地道にコツコツと頑張ってきた奴等に追いつくのは難しいかもしれない。


 それでも、最強を目指したいと思った以上は諦めない。


 きっと、このユニークスキル【強欲】が俺を異世界最強まで導いてくれると信じよう!


 さて、現実に意識を戻し、男の装備や所持品を剥ぎ取る。ポーションと硬貨を確保し、男が振り回していた大剣を手に取る。


 試しに片手で横薙ぎに振るってみたり、両手で振り下ろしてみる。


 「特に問題はないな。これからはこの大剣を使うことにしよう」


 アランから譲り受けた長剣は先程の戦闘で所々刃毀れしてしまっている。よく持ち堪え、俺を守ってくれたことに感謝する。


 「最後まで俺を守ってくれてありがとう。お前のおかげで俺は今も生きていられる。だから、お前はもうゆっくり休んでくれ」


 地面にボロボロの長剣を突き刺す。そして、俺はオーガストの死体を引きずり、その場を後にする。


 「メインの武器はこの大剣で、サブの武器はアドルフが所持していた長剣にするか。他の武器は一度使ってみたし、もう十分かな」


 装備を変更した俺はオーガストとの戦闘で体力も魔力も消費したので、お腹が減っている。


 大剣を扱う練習もしつつ、食糧を調達しにいこう!


♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 太陽が傾き、空が薄暗くなってきた頃に依頼を終えた冒険者達が村に戻る。


 受付嬢は業務を熟しつつ、オーガストさんの帰りを待つ。この立て続けに起きている不穏な事態が良い方向に進展することを願いながら。


 そう思っていると、冒険者ギルドの扉を乱暴に開けて入ってくる男性冒険者。彼はアドルフやオーガストと同じEランク冒険者の一人であった。


 「た、大変だ!」


 彼はその場で大きく叫ぶ。すると、近くの冒険者が彼に声をかける。


 「おい、落ち着けって。何が大変なんだよ?」


 「お、落ち着いてられるかよ! あのオーガストが倒されたんだぞ!?」


 彼の言葉を聞いて、周囲の冒険者達は言葉を失い、ギルド内は静寂に包まれる。そして、彼に声をかけた冒険者がゆっくりと言葉を返す。


 「だ、誰に倒されたんだ?」


 「…ホブゴブリンだ」


 「おいおい、冗談はやめてくれ。あのオーガストがホブゴブリン程度に負けるわけないだろう」


 「嘘じゃないんだ! そのホブゴブリンは長剣を所持していて、オーガストと互角に渡り合っていた! しかも、【水魔法】【雷魔法】【土魔法】でオーガストを追い詰めていたんだ!」


 再度、静寂に包まれるギルド内。しかし、彼は気にすることなく言葉を続ける。


 「それに、近くの木の根元にはアドルフのパーティーの死体もあったんだ! まだ、死体の腐敗があまり進んでないから、最近殺された可能性がある!」


 誰も言葉を返す者がいない中、受付嬢が大きな声で質問する。


 「そ、それは、本当のことなんですね?」


 「あぁ、間違いない! 【遠視】でしっかりと確認した! 早急にギルドマスターに報告してくれ!」


 「わ、分かりました!」


 受付嬢は慌ててギルドマスターの執務室に向かった。


 

 

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