第38話 勝利

 一度、後方に【跳躍】して距離を取る。


 俺の攻撃を難なく防いで見せたことで警戒心が高まる。ボビーは俺の攻撃を盾で受け止めていたが、二歩三歩と後退っていた。


 まぁ、アドルフと同じEランク冒険者みたいだから、こいつのほうが強いのは当たり前か。


 「中々、重い一撃だったぞ。Fランクの魔物であるホブゴブリンではあり得ない力だ」


 「意表を突いた一撃を簡単に防いだ貴方に言われても、全く説得力がありませんね」


 「まぁ、そうだろうな。では、次は俺の番だ!」


 男が走り出す。大剣を所持しているので、あまり速く走れないと思っていたが、意外と速い。


 おそらく、筋力値と敏捷値がそれなりに高いのだろう。


 男は目前まで迫ると大剣を振り上げる。アドルフと同じEランク冒険者であるこの男にどれほどの力があるのか確認するために、長剣で受け止める姿勢を取る。


 男は目を見開いて驚いた表情を浮かべながら、大剣を振り下ろす。


 ガキン!


 「ぐっ!」


 受け止めた衝撃で膝が大きく曲がり、地面に足が沈む。アドルフと同じEランク冒険者だとこの男は言ったが、明らかにアドルフよりも力が強い。


 「ははは! 凄いな、お前! 俺の一撃を受け止めた奴は初めてだ!」


 大剣を肩に担ぎ直し、豪快に笑う男。長剣と大剣の違いはあるが、500に到達した俺の筋力値より、この男の筋力値のほうが高い。


 この男の攻撃は回避一択だな。俺は深く息を吐き、男に言葉を返す。


 「アドルフさんよりも一撃が重たかったですよ」


 「俺のほうが強いのは当たり前だ。あいつはパーティーを組む軟弱な野郎だからな」


 この男はソロであることに誇りを持っているみたいだけど、そこまでパーティーを嫌悪する理由が分からないな。


 まぁ、今はどうでもいいか。殺し合いの最中に余計なことを考えるのはやめよう。


 「水よ、敵を両断する鎌となれ、水鎌ウォーター・スラッシュ


 「は!?」


 俺の詠唱を聞いて驚いた表情を浮かべつつ、咄嗟に大剣で防御する。


 「お、お前! 魔法がーーー」


 男が何故、魔法が使えるのかと質問しようとするが、俺は聞く耳を持たず、【跳躍】して長剣を振り下ろす。


 男は難なく長剣を受け止め、力任せに長剣を弾く。その勢いを利用し、距離を取る。


 俺は全力で駆け出し、【雷魔法】を詠唱する。


 「雷霆よ、敵を貫けーーー」


 「くそ! 次は【雷魔法】か!」


 男は大剣で防御する姿勢を取る。俺は詠唱を紡ぐのをやめて、【突進】で走る速度を上げる。


 男は大剣から【雷魔法】を防いだ感触が伝わないことを不思議に思い、前方に視線を向けると、ホブゴブリンが目前に迫っていた。


 男は防御態勢を崩さない。大剣は剣身の幅が広いので、致命傷を負わせることができない。


 (だったら、上から狙ってやる!)


 「雷霆よ、敵を射抜く矢となれ、雷矢サンダー・アロウ


 【跳躍】しながら詠唱を紡ぎ、男の頭上に向けて雷矢サンダー・アロウを射る。


 バリバリバリィィィ


 男は頭上から鳴り響く轟音で上を向こうとしたが、着弾の速い雷矢サンダー・アロウが男の頭部に直撃する。


 「ぐぁあああ!」


 男は大きな呻き声を上げ、地面に膝をつく。俺は着地後すぐに駆け出し、男の首を斬り落とそうと迫る。


 しかし、横薙ぎに振るわれた大剣を長剣で咄嗟に防御し、少し吹き飛ばされる。


 体勢を立て直し、前方に視線を向けると、男が額に青筋を立てながら、こちらに迫ってくる。


 「魔物風情が! ぶっ殺してやらぁ!」


 意外と沸点は低いようだ。勢いよく振り下ろされた大剣を半身になって躱し、大剣を握る両手を狙い、長剣を振り下らそうとしたが、強引に大剣を横薙ぎに振るってきたので、咄嗟に長剣で防御する。


 先程と同じように少し吹き飛ばされるが、すぐに体勢を立て直し、攻撃に備える。


 男はこちらに向かって駆け出しており、その走る速度は先程よりも速い。


 (もしかして、【身体強化】を発動させたのか?)


 その可能性に思い当たり、危機感を覚える。【身体強化】を発動させられたら、長剣で防御するのも危険だ。


 「雷霆よ、敵を貫け、雷撃ライトニング


 雷撃ライトニングが男に向かって奔るが、大剣で防がれる。男は大剣が届く距離で立ち止まると、大剣を振り上げる。


 「土よ、敵を貫き、突き上げろ、土槍衾ランド・ランス


 地面から長槍の形状をした多数の土槍が隆起し、男の胸部や腹部に直撃する。


 「ぐはっ!」


 男は痛みで顔を歪ませ、思わず大剣を下げる。その隙に俺も【身体強化】を発動させ、土槍衾ランド・ランスを足場にして【跳躍】する。


 勢いよく長剣を振り下ろすが、男は大剣で防御する。


 「オラァ!」


 力任せに弾き返され、後方に吹き飛ばされる。男は大剣で土槍衾ランド・ランスを粉砕すると、血走った目で俺を睨みつけ、全力で走り出した。


 俺は再度、土槍衾ランド・ランスで迎撃しようとしたが、男はそれを見越して【跳躍】する。


 俺は空中で大剣を振り上げる男を見上げて、以前は魔力量の問題で発動しなかった【雷魔法】を詠唱する。


 「黒雲より落ちし雷光は天の怒り、雷鳴とともに赫怒を大地に轟かせろ、天雷サンダー・ボルト


 詠唱を終えると同時に、空から稲妻が走り、男に直撃する。


 男の悲鳴は轟音で掻き消されて聞こえなかったが、男は大剣を手放し、地面に落下した。


 油断せずに慎重に近づき、男の様子を伺う。全身から煙が立ち上がり、肌は焼け爛れている。


 男は微動だにせずに地面に倒れている。もしかしたら、麻痺状態で身体を動かすことができないのかもしれない。


 これはこの男が望んだ殺し合いなのだ。俺は男の最後の言葉を聞くこともせず、頸部に向かって長剣を振り下ろした。


 『【身体強化】Lv.3にUPしました』


 『【剛力】Lv.3にUPしました』


 『【疾走】Lv.3にUPしました』


 『【絶技】Lv.3にUPしました』


 『【採取】Lv.3にUPしました』


 『【農耕】Lv.3にUPしました』


 『【心眼】Lv.2にUPしました』


 

 


 

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