第37話 純粋な殺し合い
「ちっ、【探索】で討伐対象のホブゴブリンの反応は拾えないし、同業者を襲う野郎も単独行動している俺を全く襲ってこないし、退屈だぜ」
オーガストはこの林に来てから【探索】で緊急討伐依頼の討伐対象であるホブゴブリンを探しつつ、同業者を襲う冒険者が現れないか周囲を警戒していた。
しかし、状況が進展することはなく、オーガストは退屈過ぎて、少しずつ苛立ち始めていた。
「【探索】の対象を変えてみるか」
受付嬢の言葉を思い出し、【探索】の対象を変えてみることにした。
【探索】アドルフ
昨日から戻っていないアドルフを探すことにした。正直、生きていようが死んでいようがどうでもいいが、冒険者の
すると、少し離れたところで【探索】が反応を拾った。やっと、状況が進展したことで苛立ちが収まり、すぐにその場所へ向かった。
「ん? どういう状況だ?」
遠目で見ると、四人の人間が地面に寝ており、近くの木の根元には複数の武器が突き刺さっている。
「仮眠でもしてるのか?」
そう思ったが、すぐに違和感に気づいた。ここはFランクの雑魚魔物しかいないが、それでも魔物が多く生息する場所である。
その中で見張りを立てず、全員が寝ているのはおかしい。
そして、その場所に辿り着くと、状況を理解する。一人は身体を真っ二つに両断されているし、アドルフと他の二人は首を斬り落とされている。
この中で唯一の女性の死体は衣服が乱れており、犯されたことが一目で分かる。
視線を横の木に移すと、幹には短剣が突き刺さっており、木の根元には長剣や槍などの複数の武器以外にも、ローブやウエストポーチが置かれていた。
「武器やウエストポーチの数が多いな。アドルフのパーティー以外にも、襲われた奴がいるってことか」
オーガストは凄惨な状況を見たにも関わらず、笑みを浮かべる。
俺と同じEランク冒険者であるアドルフと多数の冒険者を殺した奴がどんな奴で、どれほど強いのか気になってしょうがない。
「俺を楽しませてくれることを期待しよう」
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「雷霆よ、敵を貫け、
俺の人差し指の指先から
『【気配感知】Lv.4にUPしました』
そして、蟷螂の魔物の奥にいる猪の魔物に向かって全力で駆け出し、猪の魔物が【異臭感知】で俺の存在に気付き、振り返ると同時に【突進】でさらに加速して、猪の魔物の頭部を真っ二つに両断する。
『【異臭感知】Lv.4にUPしました』
猪の魔物の死体を見下ろしていると、【熱源感知】【異臭感知】【気配感知】【魔力感知】がこちらに迫る反応を捉える。
視線を向けると、梟の魔物が一直線にこちらに向かっている。
「土よ、敵を貫く弾丸となれ、
次の獲物を探しに行こうと一歩を踏み出した時、こちらに迫る反応を捉えた。
視線を向けると、二匹目の梟の魔物がこちらに向かってきていた。
「水よ、敵を両断する鎌となれ、
『【暗視】Lv.3にUPしました』
「よし! 一旦戻るか」
俺は戦利品が置いてある木に向かって、駆け出した。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「はぁ…また、冒険者か」
俺が殺した四人の死体と戦利品が置いてある場所に戻ると、一人の男性冒険者がいた。
遠目で見る感じは、身長が2メートルに迫るほど高く、筋骨隆々とした身体つきをしている。
俺はすぐに戦闘に移れるように警戒しながら距離を詰めていく。
黒く短い髪、こちらを威圧する鋭い眼光、左目には縦に走る傷跡、丸太のように太く血管が浮き出ている腕、服の上からでも分かる逞しい足。
そして、右肩から柄が、左足から剣先が見える。その冒険者の身長を考えると、かなり大きい剣だ。
視線はその冒険者を見据えたまま近づく。その冒険者も俺から視線を外さない。
しかし、その冒険者は既に間合いに入っている俺を襲うことなく、一挙手一投足を注視している。
俺はその冒険者の顔が明確に分かる距離まで近づくと、その場に立ち止まる。
「ははは! 長剣を握り、黒いローブとウエストポーチを身につけるホブゴブリンがいるとはな! まるで、魔物が冒険者の真似事をしているみたいだな」
「…そうですね。冒険者に憧れはありますので」
「おいおい、まじかよ! 人間の言葉を喋るのか?」
「人間の言葉は喋れますよ。信じられないかもしれませんが、私は魔物に転生した元人間ですので」
「信じることは到底無理だな。魔物は冒険者にとって、命を奪い合う天敵だからな」
「理解しています。既に何度も冒険者に襲われ、殺しましたので。何故、貴方は魔物である私を問答無用で襲ってこなかったのですか?」
「それは、お前の格好に疑問を抱いたからだ。何故、知性が無く本能のままに戦う魔物が冒険者のような格好しているのかってな。あとは、殺気を感じなかったからだ」
「そうですか。私に戦闘の意思はありませんが、戦闘は避けられないでしょうか?」
「それは無理だ」
「…理由を聞いても?」
「お前がただのホブゴブリンなら無視したが、ここにあるアドルフ達を殺したのはお前なんだろ? それに、武器やウエストポーチも多数あるし、他にも殺したんだろ?」
「そうですね」
「だったら、お前がどれほど強いのか、俺を楽しませてくれるのか、それを確かめないといけないからな」
「…純粋に私と殺し合いがしたいと?」
「その通りだ! ここの魔物は雑魚だし、他の冒険者も軟弱な野郎ばかりだ。だから、ちょうど退屈だったんだよ」
「私が逃げることを選択した場合は?」
「勿論、どこまでも追いかけて、絶対に殺す」
はぁ…全く面倒な奴が来たな。対話には応じてくれるが、俺と戦いたくてたまらないみたいだ。
「分かりました」
言い終わると同時に殺気を込めて長剣を横薙ぎに振るうが、剣身の幅が広い大剣によって防がれる。
「先程とは別人だな。物腰が柔らかく落ち着いた野郎かと思えば、いきなり攻撃してくるとは、礼儀のなってない野郎だな! ははは! 精々、俺を楽しませてみろ!」
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