第35話 無力

 「はぁ…はぁ…はぁ…」


 両手を後ろにつき、太陽が傾いて薄暗くなった空を見上げる。


 長時間アンジェラの身体を貪り続けて、俺の身体は疲労困憊であるはずなのに、俺は充足感を味わっていた。


 少し恥ずかしいのだが、転生前の俺は童貞だったのだ。


 中学生の時に恋人はいたのだが、デートの時に手を繋ぐことしかできなかった。


 では、社会人になってからはどうだったのか?


 勿論、恋人はいなかったし、デリヘルやソープを利用したことがなかった。そしてさらに、ガールズバーやキャバクラにも行ったことがなかった。


 本当かよ!? と、驚きになるかもしれないが、俺を転生させた神様に誓って、嘘ではないと断言します。


 とても興味はあったし、何度も悩んだのだが、結果的に冒険することはできなかった。


 まさか、異世界に魔物として転生し、自ら殺した女性の死体で童貞を卒業するとは思わなかった。


 側から見れば、女性の死体に必死に腰を振る頭のおかしい変態野郎だが、俺にとっては、極上の快楽を味わえた貴重な経験だった。


 薄暗くなった空からアンジェラの陰部に視線を移す。彼女の膣から白濁の粘液が大量に溢れ出している。


 既に彼女は死亡しているので、無意味なことではあるが、何度も彼女の膣内に射精して孕ませようとしていた。


 「やっぱり…おかしいよな…」


 初めて人を殺したのに何も感じず、所持品を奪うことに何も躊躇いはなかった。そして、彼女の亡骸を弄び、情欲の捌け口とした。


 転生前の俺の性格や精神では絶対にしないことを躊躇なく実行する今の俺は…一体何者なのだろうか。


 人間? それとも、魔物?


 「はぁ…考えても答えはでないか。なら、考えるのは最強になってからにしよう」


 さて、腹が減ったし、夜飯を調達しにいくか!


 一方その頃、冒険者ギルドの受付嬢はとある冒険者達の帰りを待っていた。その冒険者達とは、アドルフ、ボビー、クライド、アンジェラの四人パーティーのことだ。


 今朝、緊急討伐依頼を受けたのだが、未だに帰ってくる様子はない。


 他の冒険者達が薬草採取や魔物討伐を終えて、受付で受け取った報酬で酒を飲みつつ、談笑している時間帯なのにだ。


 もし、今日中に討伐対象を発見することができなかったら、受付を担当する私に目撃情報などを尋ねてくるはず。


 あの真面目なアドルフさんであれば、絶対にそうする。


 それなのに、戻ってこないということは………いや、そんなはずはない。


 パーティーリーダーであるアドルフさんはこの村でも数少ないEランク冒険者だし、仲間もいる。


 武器を所持した特殊なホブゴブリンではあるが、問題なく勝てるはず。


 しかし、受付嬢の予想は裏切られ、彼等が戻ってくることはなかった。


 コンコン


 「入れ」


 「失礼します」


 「どうした? 顔色が悪いぞ」


 「…報告があります」


 「あぁ」


 「今朝、緊急討伐依頼を受けたアドルフさん、ボビーさん、クライドさん、アンジェラさんの四人パーティーが戻ってきませんでした」


 「…」


 「すぐ近くに生活拠点があるにも関わらず、あの狩場で泊まり込みをするとは考えられません。そうなると…」


 「いや、待て。そのホブゴブリンに返り討ちに遭ったと決めつけるのは早いだろう。寧ろ、もう一つの可能性のほうが高いだろう」


 「もう一つの可能性?」


 「同業者を襲う冒険者の可能性だ」


 「しかし、アドルフさんはEランク冒険者で、他の三人もFランク冒険者です。この村でも数少ないEランク冒険者が率いるパーティーを襲うでしょうか?」


 「…そうだな。誰の仕業なのかも分からないし、規模や個体戦力も不明となると、何も対応できないというのが現実だ」


 「冒険者の皆様を集めて、一斉に探索するというのはどうでしょうか?」


 「それは意味がないだろう」


 「何故でしょうか?」


 「既に冒険者ギルドから注意勧告を行っている状況では、冒険者達の連携は上手くいかない。それに、犯人は同じ冒険者だろう。その時だけは大人しくやり過ごし、同じ状況を繰り返すだけだ」


 「…他に何か方法はないのでしょうか?」


 「これは冒険者ギルドの問題だからな。大規模な盗賊団や強大な魔物であれば、領主様に報告し、騎士団を動かしてもらうことができるんだがな」


 「…そうですね」


 「明日、冒険者達から何か報告があるのを待とう。心苦しいが、今はそれしかできない」


 「分かりました。失礼します」


 受付嬢はギルドマスターの執務室を退室すると、小さく嘆息を漏らした。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 俺はホブゴブリン三匹と猪の魔物一匹を狩り、四人の死体と戦利品が置かれている場所に戻って、夜飯を食べていた。


 「そういえば、新しく獲得したスキルの確認をしていなかったな」


 四人と戦っている時に脳内に響いた無機質な声を思い出し、ステータス画面を表示する。


 今回、ボビーから【盾術】Lv.2を獲得し、アンジェラから【回復魔法】Lv.2と【調理】Lv.2の二つを獲得した。


 早速、詳細説明を確認する。


【盾術】Lv.2

 円盾や方盾などで戦闘をする際、防御動作に補正がかかるスキル。頑丈値+20


【回復魔法】Lv.2

 身体的損傷を治癒する魔法を行使できるスキル。魔力+20


【調理】Lv.2

 食材を切り、煮たり、焼いたりする技能が向上するスキル。器用値+20


 今後、冒険者や魔物との戦闘で負傷しても、自分で治癒できるのは大きいな。


 俺は食事とスキルの確認を終えると、眠りについた。


 

 

 


 


 


 


 


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