第33話 決着

 仲間を殺されて長剣を所持した男の俺に向ける殺意が激しい怒りによって大きくなる。


 俺に向かって全力で駆け出し、その殺意を長剣に乗せて振り下ろしてくる。


 「オラァ!」


 彼の気合いのこもった一撃を長剣を横に構えて受け止めた。


 (…そこまで重さは感じないな)


 受け止めた長剣を通して伝わる威力は少し膝を曲げる程度で、身体に蓄積するダメージは全くない。


 激怒した表情を浮かべながら握る長剣に力を入れるが、俺の長剣が押し込まれることはない。


 柄を握る手を片手にしても全く押し込まれることはないので、片方の手の人差し指を彼に向けて【雷魔法】を詠唱する。


 「雷霆よ、敵を貫け、雷撃ライトニング


 彼は俺の詠唱が完了すると同時に慌てて横へ転がり、雷撃ライトニングを回避する。すぐに体勢を立て直して、俺に攻撃しようとするが、盾を所持した男が制止する。


 「待て! アドルフ!」


 長剣を所持した男はアドルフというようだ。アドルフは振り返らず、俺に注意を向けたまま言葉を返す。


 「ボビー! 俺は今、こいつを殺すことに集中しているんだ!」


 「分かっている! クライドを殺したあいつを絶対に逃すつもりはない! だが、お前一人で暴走しすぎだ! 俺達はパーティーなんだぞ!」


 「………すまない。冷静ではなかった…」


 盾を所持した男はボビーというようだ。ボビーと白いローブを羽織った女性が俺の一挙手一投足を注視しながらアドルフに近寄る。


 「よし! ボビーは盾であいつの攻撃を防御してくれ! アンジェラはあいつが隙を見せたら【水魔法】で攻撃、俺達が負傷したら【回復魔法】で治癒してくれ!」


 「分かった」


 「分かりました」


 「では、いくぞ!」


 三人が一斉に駆け出し、俺を殺そうと迫ってくる。俺も駆け出しながら【雷魔法】を詠唱する。


 「雷霆よ、敵を貫け、雷撃ライトニング


 しかし、ボビーが盾で雷撃ライトニングを受け止め、アドルフが長剣で斬りかかってきた。


 アドルフと長剣を何度も衝突させ、金属音が周囲に響き渡る。それで気づいたのは、アドルフより俺のほうが筋力値が高いことだ。


 一見互角に戦っているように見えるが、身体に蓄積されるダメージはアドルフのほうが大きい。


 力任せにアドルフの剣を弾き返し、脇腹へ長剣を横薙ぎに振るう。しかし、その攻撃はボビーに防御される。


 ホビーは俺の攻撃によって体勢が崩れかけたが、アドルフが支えてすぐに体勢を整える。


 先程の戦闘でも思ったが、アドルフだけでなくボビーも俺の攻撃を受け止めるだけで精一杯のようだ。


 ならば、相手に攻撃の隙を与えず、猛攻をしかけ、蓄積されたダメージによって隙を晒すのを待ったほうがいいだろう。


 俺は【身体強化】を発動させ、【突進】で距離を詰める。俺の長剣をボビーが盾で受け止めるが、二歩三歩と後退る。


 ホビーを追撃をしようとするとアドルフが長剣で斬りかかってくるので、力任せに弾き、さらに【突進】でボビーに迫る。


 「水よ、敵を貫く弾丸となれ、水弾ウォーター・バレット


 アンジェラはボビーの背後から移動し、水弾ウォーター・バレットで俺に攻撃してきた。


 これはチャンスだ!


 「水よ、敵を貫く弾丸となれ、水弾ウォーター・バレット


 俺も【水魔法】を詠唱し、水弾ウォーター・バレットを相殺する。そして、ボビーに攻撃すると見せかけて、アンジェラに狙いを変えて走り出した。


 「ま、まずい!」


 「アンジェラ!」


 アドルフとボビーは遠距離の攻撃手段がないし、【身体強化】を発動している俺に追いつくことができない。


 「水よ、敵を両断する鎌となれ、水鎌ウォーター・スラッシュ


 アンジェラが水鎌ウォーター・スラッシュで攻撃してきたので、【跳躍】して躱し、【雷魔法】を詠唱する。


 「雷霆よ、敵を射抜く矢となれ、雷矢サンダー・アロウ


 バリバリバリィィィ


 アンジェラはすぐに【水魔法】を詠唱しようとしたが、雷矢サンダー・アロウの速度に間に合わず、直撃する。


 「きゃあああ!」


 アンジェラは雷矢サンダー・アロウによって身体を貫かれることはなかったが、痙攣して地面に倒れた。


 俺は着地と同時にアンジェラの頸部に向かって長剣を振り下ろした。


 『【水魔法】Lv.2にUPしました』


 『【回復魔法】Lv.2を獲得しました』


 『【調理】Lv.2を獲得しました』


 『【隠蔽】Lv.2にUPしました』


 脳内に無機質な声が響くが、今は戦闘中なので無視する。


 「くそ! よくもアンジェラを!」


 アドルフとボビーがさらに仲間を殺され、激怒する。


 「雷霆よ降り注ぎ、敵を悉く屠れ、雷雨サンダー・レイン


 「まずい! アドルフ!」


 アドルフはボビーの制止も聞かず、雷矢サンダー・レインをその身に受けながらも俺を殺そうと、こちらに迫ってくる。


 身体が傷だらけになり、麻痺状態で身体が動かしづらいにも関わらず、俺を睨みつけて長剣を振り下ろす。


 俺は長剣を力任せに弾き返し、体勢を崩したアドルフの首を斬り落とした。


 『【剣術】Lv.3にUPしました』


 そして、長剣に付着した血を振り落としながらボビーを見据える。ボビーは雷雨サンダー・レインを盾で防御したようで、負傷した様子はなかった。


 「…たった一匹のホブゴブリンによって、パーティーが壊滅させられるとは…だが! 仲間を殺された恨みを晴らすためにも、俺は一矢報いるまで決して諦めぬぞ!」


 ボビーは覚悟を決めた眼差しで俺を見据える。


 「ふざけるな! 俺を殺そうと襲ってきたのはお前らだろう!」


 「!?」


 俺はまるで被害者のように振る舞うボビーに向かって大声で叫ぶ。


 「俺が何をした!? 俺はお前らと遭遇しても襲いかかったりしていないし、その場で佇んでいただけだぞ! 先に攻撃をしてきたのはお前らだ!」


 ボビーは目を見開き、驚愕しながら俺に尋ねる。


 「な、何故、人間の言葉を喋れるんだ?」


 俺は一旦怒りを抑えて、質問に答える。


 「信じてはもらえないと思うが、俺は元人間の転生者だ」


 「元人間の転生者…だから、魔物なのに魔法を詠唱できるのか?」


 「そうだ」


 俺は少しずつではあるが、怒りが鎮まり、このボビーという冒険者が俺の話を信じてくれるのではないかと思った。


 「そうか…人間の言葉を喋る魔物の存在は聞いたことはないが、元人間だということが真実なのであれば、魔物が人間の言葉を喋るという現象にも説明がつく。…しかし、冒険者は民の安全と生活を守るために、魔物を討伐することが仕事なんだ」


 「…」


 「元人間だというお前にとっては理不尽に感じるかもしれないが、それが現実だ。そして、さらに理不尽かもしれないが、俺はお前に仲間を殺されている」


 「…」


 「だから、仲間を殺したお前を殺さないといけない! すまないが、俺の我儘に付き合ってもらうぞ!」


 …本当に[ハザール]で出会った三人と友好的に交流できたのは奇跡だったようだ。


 やはり、魔物と人間は相容れないのだろう…。


 俺は現実の厳しさに打ち拉がれながら、ボビーに向かって駆け出した。


 『【盾術】Lv.2を獲得しました』


 『【金剛】Lv.2にUPしました』

 


 


 


 


 

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