第31話 理解不能な状況
翌朝。
俺は降り注ぐ太陽の光で目を覚ます。上体を起こして腕を空に向かって伸ばし、身体を解す。
身体中を巡る血液の流れが早くなり、僅かに体温が上昇する。そして、寝ぼけ眼を覚ますために【水魔法】を詠唱する。
「水よ、生成、
頭上に形成された水球を顔面で受け止め、意識を覚醒させる。
「よし! まずは空腹を満たすとしよう。できれば、柔らかい肉が食べたいから、【探索】で探すのはホブゴブリンにしよう」
立ち上がり、槍を所持する。斧も【斧術】のおかげでレベル相応に扱えるようになったので、次は槍を選択した。
【探索】ホブゴブリン
有効範囲内に複数の反応を捉えたので、近くの奴から討伐する。
槍を片手に全力疾走してから俺に気付き、醜悪な笑みを浮かべて棍棒を振り上げるホブゴブリン。
しかし、ホブゴブリンは棍棒を振り上げた状態で額を槍に貫かれ、絶命した。
「リーチはこちらに軍配が上がるから、棍棒の間合いに入る前に倒すことができるな」
筋力値が高いおかげでホブゴブリンくらいなら容易く貫ける。猪の魔物は…身体が巨体だから突き刺すことはできても、貫通は難しいかな。
ホブゴブリンの額から槍を無造作に引き抜き、槍を振って付着した血液を落とす。早速、ホブゴブリンに齧り付き、肉を喰らう。
グチャ…グチャ…グチャ…。
骨を残して完食すると、血だらけの口元を手で拭う。
「一匹では空腹は満たされないな。猪の魔物を食べるようになってから、胃袋が大きくなったような気がするし、あと二匹くらいは余裕だな」
すぐに駆け出し、二匹目のホブゴブリンと対峙する。このホブゴブリンも俺に気付くと、醜悪な笑みを浮かべて棍棒を振り上げながら走ってくる。
ホブゴブリンが俺を殴打しようと振り下ろした棍棒に合わせて槍を繰り出す。
「グギャ!?」
棍棒が真っ二つに折れて驚くホブゴブリン。隙だらけの喉元に向かって、鋭く槍を繰り出す。
ホブゴブリンの目から生気が失われ、身体の力が抜けると同時に握っていた棍棒を落とした。
『Lv.13にUPしました』
昨日、たくさん魔物を倒したので、早くレベルが上がったことに驚きはない。それより、スキル一覧を表示し、羅列されているスキルを眺める。
現在のステータスを考慮し、不足している防御力を補うために一つのスキルを選択する。
『【金剛】Lv.1を獲得しました』
続いて詳細説明を確認する。
【金剛】Lv.1
頑丈値が+10増加するスキル。頑丈値+10
選択したスキルの詳細説明を確認したあと、倒したホブゴブリンを喰らう。
「よし! 三匹目のホブゴブリンを狩りにいくか!」
俺は颯爽とその場を後にした。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「皆、【探索】に反応はあるか?」
「いや、ない」
「俺もだ」
「私もです」
「長剣を所持したホブゴブリンで探しているのに、見つからない理由は何が考えられる?」
「…今は長剣を所持していないのではないでしょうか?」
「なるほど。では、対象を変えるべきか。ホブゴブリンでは複数の反応があるだろうから、長剣で探してみてくれ」
「分かった」
「おう」
「分かりました」
そして、十分ほど移動した時、四人は少し先で長剣の反応を捉える。
四人以外の冒険者が所持する武器に反応した可能性もあるため、特に期待せずに進むと、不思議な光景を目にする。
「…何故、武器が放置されている? しかも、木の幹に短剣が突き刺され、木の根元に長剣と斧が突き刺さっている…」
「付近に冒険者がいる気配もない。何のためにここに複数の武器が置かれているんだ…」
「全く理解できない状況だが、討伐対象のホブゴブリンの仕業じゃねぇのか?」
「…ですが、ホブゴブリンが長剣以外にも武器を集めるでしょうか?」
「それは俺にも分からねぇが、冒険者から奪った可能性は高そうだな」
「ですが、それだと冒険者ギルドが把握していないのはおかしいです。今朝、受付で尋ねた時は被害者が出る前に早急に討伐してほしいという話でしたから」
「…そういえば、冒険者ギルドから注意勧告があったな。装備や金品を目的に同業者を襲う冒険者がいると」
「…アドルフの推測は当たっている可能性が高い。同業者を襲う冒険者の正体は討伐対象のホブゴブリンかもな」
「皆、ここからは警戒を怠らず、いつでも臨戦体勢に入れるようにしてくれ」
「分かった」
「おう」
「分かりました」
四人は周囲を警戒しながら、武器が置かれている場所に向かう。すると、アドルフの【気配感知】がこちらに近づく者の気配を捉えた。
「皆、止まってくれ」
三人はアドルフの言葉を聞いてその場に止まる。そして、アドルフに制止した理由を聞こうとした時、彼は武器が置かれている場所とは反対方向を見つめていた。
すぐに三人も同じ方向に視線を向けると、驚きのあまり言葉を失った。
四人の視線の先には黒いローブを羽織り、ウエストポーチを身につけたホブゴブリンがいた。しかも、左手で槍を握り、右手でホブゴブリンを引きずっているのだ。
四人は目の前の状況に理解が追いつかず、すぐに臨戦体勢に入ることができなかった。
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