第30話 ホブゴブリンは再度狙われる
俺は頭上から振り下ろされる鎌のような前脚を【跳躍】して躱し、斧を横薙ぎに振るう。
蟷螂の魔物の頭部が回転しながら地面に落ちたのを確認すると、すぐにその場を後にする。
後方で蟷螂の魔物の身体が倒れた音が響く。それを気にせず、二体目の蟷螂の魔物を捉えると、【雷魔法】を詠唱する。
「雷霆よ、敵を貫け、
バリバリバリィィィ
今は【探索】で蟷螂の魔物を探しながら森を駆け回っている。
「グギャ!」
三体目の蟷螂の魔物の反応を捉えて向かっていると、ホブゴブリンと遭遇した。ホブゴブリンが走る俺の後を追いかけてくるので、一度止まって【水魔法】を詠唱する。
「水よ、敵を貫く弾丸となれ、
そして、再び走り出そうとした時、こちらに接近する反応を捉えた。
「プギィ!」
猪の魔物が大きく鳴き声を上げながら【突進】してくる。俺も【突進】で距離を詰めると、猪の魔物の頭部に向かって、勢いよく斧を振り下ろした。
猪の魔物は頭部を真っ二つに両断されて絶命した。そして、三体目の蟷螂魔物に向かって駆け出し、獲得したばかりの【土魔法】を詠唱する。
「土よ、敵を貫く弾丸となれ、
倒れる蟷螂の魔物を見つめていると、先程と同じように接近してくる気配を捉えた。
「また猪の魔物か?」
しかし、接近しているのは翼を広げて飛翔する魔物。おそらく、一日目の夜に襲ってきた鳥の魔物だろう。
一直線に向かってくるので、タイミングを合わせて斧を振り下ろす。鳥の魔物は空中で真っ二つに両断されて絶命した。
真っ二つに両断された鳥の魔物を観察する。
頭部は丸くて大きい。顔を縁取る羽毛がハート型をしており、とても特徴的だ。翼は白い羽毛に覆われて褐色の縦縞が入っている。
元いた世界の梟に酷似した魔物だ。最初に襲ってきた時は夜であり、【暗視】を所持しているから夜行性だと思っていたが、日中でも普通に襲ってくるらしい。
「それにしても、【探索】を獲得したおかげで効率的に魔物を狩ることができる」
何より有効範囲が広くて複数の魔物を一度に捕捉できるから、短時間で多くの魔物を討伐することができる。
ただ、比例して移動範囲も広くなるので、体力が心配ではあるが…。
いや、これからもレベルを上げるために魔物を倒していくんだ! 数匹倒してヒーヒー言ってるようじゃダメだ!
「よし! 狩りを再開するぞ!」
気合いを入れて再び魔物を狩ろうと駆け出そうとして、足を止める。
「流石に暗くなってきたな…。今日は夕食を調達したら早めに休んで、明日から頑張ろう!」
【探索】猪の魔物
すぐに反応を捉え、全力で駆け出す。猪の魔物も【異臭感知】で俺に気付き、【突進】してくる。
俺は【突進】せずに待ち構える。
「お! 向こうにホブゴブリンがいるな。あいつも今日の夕食にしよう」
【突進】で距離を詰めてきた猪の魔物の頭部を真っ二つに両断する。
『【突進】Lv.3にUPしました』
衝撃音が周囲に響き、向こうにいたホブゴブリンがこちらに走ってくる。
「雷霆よ、敵を貫け、
今日は広範囲を動き回ったので、二匹とも余裕で完食できる気がする。
「水よ、生成、
喉を潤した俺は猪の魔物から食べ始めた。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
早朝、冒険者ギルドの掲示板の前に四人の冒険者がいた。
「この緊急討伐依頼を受けようと思うが、皆はどう思う?」
「武器を所持したホブゴブリンか。気になるのは推奨ランクがEランクということだな」
「俺は受けてもいいと思うぜ。俺達のパーティーはEランク一人とFランクが三人いるから、戦力としては十分だろ」
「私はもう少し情報収集してから判断したほうがいいと思います」
「相変わらずアンジェラは慎重だな」
「クライドは相変わらず楽観的ですね。冒険者として危機管理能力が低いのは致命的ですよ」
「はいはい、その通りですね」
「アドルフ、どうする?」
「ボビーの言う通り、討伐対象がホブゴブリンであるのに推奨ランクがEランクというのは気になる。受付嬢に詳細を聞いて、最終的に判断しよう」
「分かった」
「おう」
「分かりました」
四人は受付に移動し、受付嬢に緊急討伐依頼の詳細を尋ねる。
「何故、討伐対象がFランクのホブゴブリンなのに推奨ランクがEランクなんだ?」
「昨日、二人組の冒険者がダッシュ・ボアの死体を運んできたのですが、その死体は林の中に放置されていたそうです。しかも、頭部が真っ二つに両断された状態で」
「それで、そのことと討伐対象のホブゴブリンがどのように関係している?」
「素材的価値が高いダッシュ・ボアの死体を放置するのは冒険者であれば絶対にしないことです。そして、同じFランクの魔物が頭部を真っ二つに両断する芸当は不可能です」
「なるほど。それで、そのホブゴブリンの仕業ではないかと判断したわけだな?」
「はい」
「そのホブゴブリンが所持している武器は分かるか?」
「長剣です」
「長剣を所持した特殊個体か…」
「今のところ、そのホブゴブリンに襲われたという被害報告はありません。ですが、冒険者ギルドとしては、被害者が出る前に早急に討伐して頂きたいです」
「…分かった、依頼を受けよう」
「あ、ありがとうございます!」
受付で手続きを済ませたアドルフのパーティーは冒険者ギルドを後にして、林へ向かった。
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