第26話 殺人

 「くそ! 絶対に逃さねぇぞ! おい! 魔法で攻撃しろ!」


 「土よ、敵を貫く弾丸となれ、土弾ランド・バレット


 【土魔法】の詠唱により、空中に土弾ランド・バレットが形成され、逃走するホブゴブリンの背中に向かって、一直線に飛んでいく。


 土弾ランド・バレットは無防備で隙だらけの背中に直撃する。ホブゴブリンは衝撃や痛みによって、体勢を崩しながらも逃げ続ける。


 「よし、いいぞ! 確実にダメージを蓄積させろ! ただ、絶対に殺すんじゃねぇぞ! いいな!」


 「了解でさぁ!」


 その後、何度も土弾ランド・バレットがホブゴブリンを襲う。背中以外にも後頭部や腕、足も狙う。


 徐々にダメージが蓄積されてきたのか、ホブゴブリンの走る速度が遅くなってきた。しかし、こちらも追走することに必死で体力が尽きかけてきた。


 「はぁ…はぁ…はぁ…おい! 別の魔法で攻撃しろ!」


 「了解でさぁ! 土よ、敵を射抜く矢となれ、土矢ランド・アロウ


 土矢ランド・アロウが傷だらけの背中に直撃する。ホブゴブリンは走っていた勢いそのままに地面に倒れた。


 「はぁ…はぁ…はぁ…ったく、面倒かけさせやがって。憂さ晴らしも兼ねて少し痛めつける必要があるな」


 「兄貴、俺の魔力はさっきの土矢ランド・アロウで無くなりました」


 「おう、分かった。あとは俺達三人であのホブゴブリンを捕獲する。あれだけダメージを与えたんだ、もう抵抗する気力もないだろうよ」


 「さぁ、兄貴! 行きましょうぜ!」


 「おう!」


♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 俺は四人の冒険者から必死に逃げていた。


 最初に遭遇した時に人相が悪そうな人達だなと思った。でも、第一印象だけで相手を判断するのは良くないと思ったので、こちらから話しかけてみた。


 四人の冒険者はとても驚愕していたが、その後に一人の冒険者が不穏な発言をした。俺を捕獲して高値で売却するつもりらしい。


 俺は慌てて自分が転生者であることを伝えたが、聞く耳を持ってもらえず、人間の言葉を喋る特殊個体だと疑われる始末。


 [ハザール]の森で救助した三人とは状況が違うかもしれないが、友好的に交流できるかもと期待していた。しかし、彼等とは人間と魔物の垣根を越えることはできなかった。


 だから、俺は逃げることを選択した。お互いに相容れないのであれば、離れればいい。


 それなのに、彼等は俺を捕獲しようと追いかけてくる。


 俺には彼等と戦う意思はなく、ただ逃げているだけなのに、彼等は容赦なく攻撃してきた。


 (くそ! めちゃくちゃ痛い!)


 頑丈値や精神値がそこまで高くないので、攻撃された背中や後頭部などに激痛が走り、思わず顔が歪む。


 腕や足にも攻撃されているので上手くバランスが取れず、走ることも厳しくなってきた。


 (どうして…俺は何もしてないのに。何故、彼等は敵意を剥き出しにして攻撃してくるんだ…)


 俺が彼等を襲って、正当防衛で反撃してくるなら理解はできる。でも、俺は何もしていない!


 彼等と接する時だって対話から入り、武器だって地面に突き刺し、攻撃の意思はないと示したはずなのに!


 …いや、分かってはいるんだ。何故、彼等が戦う意思のない俺を理不尽に傷つけるのか。


 あの時、三人が自分達の住む村に誘ってくれたにも関わらず、断らなければいけなかった理由と同じ。


 俺が魔物だからだ…。


 俺が彼等の行動を理不尽だと感じてしまうのは、中身が元人間だからだ。彼等からしてみれば、冒険者として魔物と戦うことは普通のことなのだ。


 仮に周囲に他の人間がいたとしても、彼等の行動を咎める者はいない。


 最初にあの三人と友好的に交流できたのは運が良かっただけ。


 それがあったから、人間と魔物でも分かり合えると思って、彼等に甘い対応をしてしまったのかもしれない。


 そうだ…これは俺のエゴでしかない。


 それを彼等に押しつけるのは自分勝手だ。


 彼等の言ったように冒険者だから魔物を攻撃するのであれば、俺も魔物として、彼等のように敵意を向けてくる人間を殺すとしよう。


 俺は増悪の感情を隠しもせず、徐に立ち上がり、彼等に向けて【雷魔法】を詠唱する。


 「雷霆よ降り注ぎ、敵を悉く屠れ、雷雨サンダー・レイン


 「は? 魔法? うがぁあああ!」


 「「「ぎゃあああ!」」」


 彼等は俺が魔法を詠唱したことに驚き、降り注ぐ雷雨サンダー・レインによって、甚大なダメージを受けて地面に倒れた。


 俺はくぐもった呻き声を上げる彼等に近づき、見下ろす。彼等は身体中が麻痺していて、視線だけで慈悲を乞うてくる。


 「戦意のない俺を一方的に攻撃したお前らを赦しはしない。俺の話を聞かなかったことを後悔しながら死ね!」


 一人一人頸部に向かって長剣を振り下ろし、無慈悲に殺した。


 『【剣術】Lv.2にUPしました』


 『【探索】Lv.2を獲得しました』


 『【採取】Lv.1を獲得しました』


 『【狩猟】Lv.2を獲得しました』


 『【農耕】Lv.1を獲得しました』


 『【槍術】Lv.2を獲得しました』


 『【絶技】Lv.2を獲得しました』


 『【疾走】Lv.2にUPしました』


 『【身体強化】Lv.2にUPしました』


 『【斧術】Lv.2を獲得しました』


 『【剛力】Lv.2にUPしました』


 『【採取】Lv.2にUPしました』


 『【農耕】Lv.2にUPしました』


 『【土魔法】Lv.2を獲得しました』


 『【魔力感知】Lv.2を獲得しました』


 『【魔力操作】Lv.2を獲得しました』


 『【明晰】Lv.2を獲得しました』


 『【不屈】Lv.2を獲得しました』


 『【気配感知】Lv.3にUPしました』


 『【探索】Lv.3にUPしました』


 『【狩猟】Lv.3にUPしました』



 

 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る