第25話 決裂

 翌朝。


 四人の冒険者が冒険者ギルドに集合し、依頼掲示板に貼り出された緊急討伐依頼の羊皮紙を持って、受付に向かう。


 「よぉ、姉ちゃん! 俺達のパーティーがこの依頼を受けるぜ!」


 「分かりました。目撃情報によると、そのホブゴブリンは長剣を所持しているそうなので、気をつけてください」


 「おいおい、姉ちゃん。心配してくれるのは嬉しいけどよ、ホブゴブリンなんて何度も討伐済みだぜ! 今更、負けるような相手じゃねえよ!」


 「…そうですか」


 「吉報を期待してな!」


 四人の冒険者は意気揚々と冒険者ギルドを後にして、通い慣れた林へ向かった。


 「おい! 武器を所持したホブゴブリンはどっちの林にいるんだ?」


 「依頼書には左側の林に入っていったと書かれていましたですぜ!」


 「よし! 【探索】で長剣を所持したホブゴブリンを探せ! いいな!」


 「「「了解でさぁ!」」」


♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 俺は蟷螂の魔物と対峙していた。


 「流石にこいつを食べる気にはならないな…」


 前脚の鎌を振り上げて、襲いかかってくる蟷螂の魔物。


 俺は【突進】で一気に距離を詰める。蟷螂の魔物が慌てて振り下ろした前脚を【跳躍】して躱し、長剣を横薙ぎに振るう。


 蟷螂の魔物の頭部が地面に落ち、絶命したのを確認してからその場を後にした。


 「グギャ!」


 ホブゴブリンが振り下ろしてきた棍棒を半身になって躱す。振り下ろされた棍棒が地面を叩き、ホブゴブリンが前傾姿勢になったところに長剣を振るう。


 頭部を斬り落とされ、血飛沫を上げる身体が崩れ落ちる。


 『Lv.11にUPしました』


 「ここに来て初めてのレベルアップだな。それじゃ、どのスキルを選択しようかな」


 スキル一覧を表示し、羅列されているスキルを眺めて思考する。


 うーん…特に戦闘で困っていることはない。ここの魔物は[ハザール]の魔物よりも強いのは間違いないが、物理攻撃だけで倒せるので問題はない。


 このままスキルを選択せず保留にするのもいいけど、少し物理攻撃の火力を上がるスキルを選択してもいいかもしれない。


 よし! そうしよう!


 俺はスキルポイントを消費して一つのスキルを選択した。


 『【剛力】Lv.1を獲得しました』


【剛力】Lv.1

 筋力値が+10増加するスキル。筋力値+10


 「いいね! これで筋力値が+20増加して物理攻撃の火力は上がるし、猪の魔物の【突進】も押されずに受け止められるかもしれない」


 次の猪の魔物との再戦を楽しみにし、その場を移動しようとすると、四つの反応を捉えた。


 「ここの魔物は集団行動しないと思っていたけど、そんなことはなかったか」


 まだ遭遇していない新種の魔物の可能性を考慮し、慎重に近づいていく。四つの反応もこちらに近づいてくる。


 ここは林の中なので、あまり身を潜める場所がない。接敵すれば戦闘は避けられないので、意識を集中する。


 「お! 見つけたぜ!」


 「兄貴! 本当にホブゴブリンが長剣を所持していますぜ!」


 遭遇したのは四人の冒険者。


 三人は茶色の革鎧を装備し、それぞれ短剣、槍、斧を所持している。残りの一人は茶色の革鎧を装備し、黒いローブを羽織っている。


 きっと、[シュペール]から来た冒険者なのだろうが、あまりにも人相が悪い。まぁ、魔物の俺が言える立場ではないが。


 四人は俺が魔物であるため戦意高揚してるが、俺に戦う意思はない。まずは対話してみよう。


 俺は長剣を地面に突き刺し、四人の冒険者に話しかける。


 「こんにちは」


 「「「「えっ…」」」」


 四人の冒険者は目を見開き、驚きで言葉を失っている。


 「お、おい…今のは幻聴か? 俺にはあのホブゴブリンが人間の言葉を喋ったように聞こえたが…」


 「あ、兄貴…俺にも聞こえたですぜ」


 「お、俺もだ」


 「俺も」


 「幻聴ではありませんよ」


 「あ、兄貴! あのホブゴブリンは人間の言葉を喋りますぜ!」


 「あぁ! まさかこんな奴がいるとはな! あのホブゴブリンを捕獲すれば、物珍しさで誰かが高値で購入してくれるかもな!」


 「流石ですね、兄貴!」


 「よし、お前ら! あのホブゴブリンを絶対に逃すんじゃねぇぞ!」


 「「「了解でさぁ!」」」


 えっ! 俺を捕まえるつもりなのか!?


 「ち、ちょっと、待ってください! まずは話を聞いてください!」


 「おいおい、何故俺達が魔物の話を聞かなくちゃいけねぇんだ? 俺達は冒険者だぞ。魔物の話なんて聞くわけがないだろう」


 「た、確かに外見はホブゴブリンですが、中身は人間の転生者なんです!」


 「はっ! そんなこと信じられるかよ!」


 「い、いや、こうして人間の言葉を喋れているのが何よりの証明になるでしょう!?」


 「人間の言葉を喋る特殊個体の可能性もあるからな。俺達を騙して喰らう魂胆だろうが、騙されねぇぞ!」


 駄目だな、埒が明かない。こちらの話を全く聞いてくれないし、撤退するしかないな。


 俺は地面に突き刺していた長剣を握る。すると、四人の冒険者は俺が戦闘行動に移ると思ったようで、各々の武器を構え、臨戦態勢に入った。


 「やっぱり、俺達を騙そうとしてたか! 中々知恵が回るようだが、残念だったな! いくぞ、お前ら!」


 武器を所持した三人が一斉にこちらに向かってきたので、すぐに後方へ振り返り、全力で駆け出した。

 



 


 


 


 

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