第24話 順調

 「あれは…猪? 熊?」


 視線の先には全身を茶褐色の毛皮に覆われた四足歩行の魔物がいた。こちらに尻を向けているので、顔が見えない。


 顔を見るために移動しようとした時、視線の先の魔物はゆっくりと身体を動かし始めた。


 徐々にこちらに向けられる顔を見て、俺は確信した。前方に突き出た頭部の先には豚のような鼻があり、口元から太くて硬そうな牙が上に向かって伸びており、牙先が少し反っている。


 「この魔物は猪の魔物だ」


 猪の魔物は俺を見つめながら、前足で何度も地面を蹴っている。そして、一度だけ大きく鳴くと、全速力でこちらに向かってきた。


 「プギィ!」


 土煙を上げ、物凄い速度で迫る様は大型トラックのようだ。俺は自分の筋力値を信じ、真正面から受け止めることにした。


 そして、俺は長剣の柄を口で噛み、猪の魔物の牙を両手で掴む。


 ズザァァァァァ


 俺は猪の魔物と衝突した場所から2メートル程押されてしまった。しかし、そこからは猪の魔物が全身に力を入れても、俺が押されることはなかった。


 「猪の魔物も筋力値は高そうだが、俺のほうが筋力値は上のようだ」


 正直、各種スキルや職業の恩恵で筋力値が一番高いので、そう簡単に負けることはないと思っていた。


 猪の魔物が俺に動きを止められて、焦り始めた。顔を左右に振り始め、俺の手を振り解こうと踠く。


 そして、俺を上に向かって振り上げたので、そのまま牙から手を離す。猪の魔物は空中に投げ出された俺を見つめる。


 俺は噛んでいた長剣の柄から口を離し、両手で握る。落下する勢いを利用し、猪の魔物の頭部が間合いに入った時、長剣を振り抜いた。


 「流石に両断はできなかったか…」


 頭部の半分ほどを斬られ、大量の血を流しながら絶命する猪の魔物。


 『【突進】Lv.2を獲得しました』


 蟷螂の魔物に続いて新規のスキルを獲得したので、詳細説明を確認する。


【突進】Lv.2

 前方に敏捷値+120%の速度で突進するスキル。有効距離10メートル。敏捷値+20


 相手の意表を突くのに役立つスキルだ。相手との距離が10メートルまで近づいた瞬間、一気に加速して機先を制することができるかもしれない。


 他にも新規のスキルではないが、猪の魔物は【異臭感知】Lv.2を所持していた。あの時こちらに振り向いたのは偶然ではなかったということだろう。


 そろそろお腹が空いたので、猪の魔物を食べながら休憩を取ることにした。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 太陽が傾き、空が薄暗くなり始めた頃、冒険者ギルドで薬草採取や魔物討伐の依頼を受けていた冒険者達が村に戻り始めた。


 薬草や魔物の素材を冒険者ギルドに提出し、報酬を受け取る。


 その報酬で冒険者ギルドに併設された食事処でお酒を飲み始める冒険者やパーティーで報酬を分け合う冒険者でギルド内は混雑する。


 真面目な冒険者は依頼掲示板を見て、どのような依頼が残っているか確認する。


 「お! 緊急討伐依頼が貼り出されてるな。内容は武器を所持したホブゴブリンの討伐…なぁ、お前もこれ見てくれよ」


 「どうした?」


 「緊急討伐依頼が貼り出されているんだ。しかも、内容が武器を所持したホブゴブリンの討伐だってよ」


 「ホブゴブリンが武器を所持しているところなんて見たこともないぞ。奴等の武器は棍棒だろ」


 「だよな」


 「それにホブゴブリンはFランクの魔物だ。武器を所持したところで、それに関するスキルを所持していないから、俺達にとっては脅威じゃねぇだろ。Gランクの駆け出しが気をつけるだけで済む話だ」


 「じゃあ、俺達は依頼を受けずにいつも通りでいいな」


 「あぁ、報酬もそこまで高くないから受ける必要がねぇ。それじゃ、飲みに行くぞ!」


 「おう!」


 二人の冒険者がその場を離れると、入れ替わりで四人の冒険者が依頼掲示板を見始めた。


 「兄貴! 緊急討伐依頼が貼り出されていますぜ!」


 「どんな内容だ?」


 「武器を所持したホブゴブリンの討伐だそうです」


 「武器を所持したホブゴブリンだぁ?」


 「そんな奴見たことないですよね。でも、所詮はホブゴブリンですし、兄貴が討伐しちゃいますか?」


 「あぁ、この俺様がぶっ殺してやるぜ! ついでに武器を奪って換金すれば、報酬と買取金で酒がたくさん飲めるな!」


 「流石です、兄貴!」


 「明日は朝一でそのホブゴブリンを討伐しに行くぞ!」


 「「「了解でさぁ、兄貴!」」」


♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 俺は薄暗くなった林の中を歩いていた。


 「猪の魔物は剛毛すぎて食べづらかったな」


 食べるのに苦労はしたが、身体がとても大きいので、かなり腹が満たされた。まだお腹が一杯なので夜飯を食べる予定はない。


 地面に長剣を突き刺し、近くの木に腰を降ろす。瞼を閉じて入眠しようとした時、こちらに迫る反応を捉えた。


 咄嗟に長剣を握り立ち上がると、こちらに向かって何かが飛翔してくる。


 「オラァ!」


 飛来してきた奴を長剣で真っ二つにする。


 『【暗視】Lv.2を獲得しました』


 暗くて分かりにくいが、斬った奴の死体を見ると、鳥の魔物のようだ。


 「奇襲には驚いたが、手応えとしてはあまり強い魔物ではなかったな」


 再度、腰を降ろして獲得した新規スキルの詳細説明を確認する。


【暗視】Lv.2

 暗闇の中でも視界を確保できるスキル。視界の明瞭度合はレベルによる。幸運値+20


 なるほど。スキルレベルが上がれば、暗闇の中でも視界が明瞭になるのか。今後、夜中でも魔物討伐ができるようになるのは有難いな。


 俺はスキルの確認を終えると、眠りについた。


 


 

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