第20話 人間と同等の成長
四人と一匹で森の中を進む。一番前を俺とエイミーが歩き、意識不明のカールを背負うアラン、ホブゴブリンの死体を背負うブラッドと続く。
村に戻るために移動を開始しようとした時、アランが俺に話しかけてきた。
「あの! ゴブリンさんが倒したホブゴブリンの死体を俺達に譲ってくれませんか?」
「えっ…ちょっと、アラン! 私達はゴブリンさんに命を助けてもらったのよ。それなのに、ホブゴブリンの死体を譲ってほしいというのはわがままが過ぎるわよ」
「勿論、命を助けてもらったことには感謝しているさ。でも、ゴブリンさんは冒険者じゃない。ホブゴブリンの死体を有効活用できないだろう?」
「それは…そうかもしれないけど…」
「俺はアランの意見に賛成だ。ホブゴブリンの死体を冒険者ギルドに提出すれば、俺達パーティーの実績にもなるし、少し高い報酬も貰える。俺達にとって得になる話だ」
「そうね…ゴブリンさん、わがままを承知の上ですが、私からもお願いします」
彼等は冒険者なのだから、ホブゴブリンの死体を譲ってほしい気持ちは分かる。しかし、対価も無しに譲るほど俺はお人好しじゃない。
無理難題を言うつもりはないが、俺にもメリットのある交渉をさせてもらおう。
「アランさんやブラッドさんの意見に私も納得します。ですが、対価も無く譲るほど私はお人好しではありません」
「じゃあ、ゴブリンさんが望む対価は何ですか?」
「私はアランさんが所持する鉄製の長剣が欲しいです」
「…」
さて、アランの返答は?
「分かりました。この長剣と引き換えにホブゴブリンの死体を譲ってください」
アランは少し考える素振りを見せたが、俺の望みに応えてくれた。
正直、意外だった。自分で対価として望んだわけだが、アランにとって長剣は冒険者活動をする上で欠かせない物だ。
それを簡単に俺に渡してしまってもいいのだろうか?
「…本当にいいのですか?」
「大丈夫です。予備の長剣がありますので」
なるほど。武器は消耗品だから、予備を所持しているのは当然か。刃毀れや魔物との戦闘で壊れるなんて珍しいことじゃない。
「では、交渉成立ですね」
「はい。大切に使ってください」
「大切に使わせて頂きます」
「ブラッド、ホブゴブリンの死体を運んでくれ」
「あぁ、分かった」
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
俺はアランから貰った長剣を握り、鈍く輝く両刃の剣身に興奮していた。
異世界モノの小説やアニメで冒険者達が屈強な魔物相手に剣や盾で戦っていた姿を見ていたからかもしれない。
俺は冒険者ではないが、これから冒険者と同じようにこの長剣で魔物と戦えると思うと戦意が高揚してくる。
筋力値が高いおかげなのか鉄製の長剣なのに重いとは感じない。しかし、このゴブリンの身体に長剣の大きさは合っていない。
まぁ、その問題はホブゴブリンに進化すれば解決するので大した問題ではない。
そして、次にスキルポイントが増えたら選択するスキルも決まった。
(彼等には申し訳ないけど、早く魔物と戦闘したいな)
アランがカールを、ブラッドがホブゴブリンを運んでいるので、歩くペースは二人に合わせている。
アランとブラッド、エミリーの三人は周囲に視線を巡らせ、魔物の襲撃を警戒している。
俺だけ緊張感がない。
この森にいる魔物達とは何度も戦い、一番強いホブゴブリンも倒した経験がある。なので、肩に力が入ることもなく、自然体でいられる。
(お! 反応を三つ捉えた!)
「右前方から魔物が三匹向かってきます」
三人がすぐに右前方に視線を向ける。視線の先からは猿の魔物が三匹、草藪を掻き分けて走ってくる。
アランとブラッドが急いで運んでいたものを地面に降ろし、エミリーの前に立ち、迎撃体勢に入る。
駆け出しとはいえ、対応の早さは流石は冒険者だと思った。しかし、今回は俺が護衛をするため、彼等には待機してもらう。
「三人は他に魔物が襲撃して来ないか警戒していてください。あの三匹の魔物は私が倒します」
「で、ですが、三匹を同時に相手するのは難しいのでは!?」
「これまでも複数の魔物を同時に相手にしたことがあるので大丈夫です」
「わ、分かりました」
彼等を説得すると、回復した魔力で【水魔法】を詠唱する。
「水よ、敵を貫く弾丸となれ、
【雷魔法】は轟音が響くので他の魔物を呼び寄せてしまうかもしれない。俺一人であれば問題ないのだが、彼等を守るためには余計な戦闘はなるべく回避する必要がある。
そして、猿の魔物に向かって駆け出す。二匹は距離を詰めてきた俺に敵意を剥き出しにして襲いかかってくる。
「無手で武器を所持する俺に挑むとは無謀だな」
【剣術】を所持していないため、粗く力任せな剣技で二匹を斬り殺した。
「おぉ! これが生物を斬る感触か。俺の筋力値が高いのか、猿の魔物の頑丈値が低いのか、あっさりと斬れたな」
初めての武器を使った戦闘に感動しながら彼等の元に戻ると、彼等はとても驚いた表情をしていた。
「何か驚くようなことでもありましたか?」
「…ストライク・モンキー三匹を容易く倒したことにも驚いたが…」
「ゴブリンさんが魔法を使えることにとても驚いています」
なるほど。確かにこれまで倒してきたゴブリンも魔法は所持しておらず、棍棒で殴りかかってきた。
ゴブリンが魔法を使えるという普通ではあり得ないことに、理解が追いついていないのだろう。
「まずは安心してください。私以外のゴブリンは魔法を使えないです。そして、私が魔法を使える理由はおそらく転生者だからだと思います」
「どういうことですか?」
「聞いたことがないかもしれませんが、皆さんはステータス画面を見ることはできますか?」
「ん? それは普通のことじゃないのか?」
あ、普通のことなんだ。じゃあ、説明は簡単だな。
「私はゴブリンですが、ステータス画面を見ることができます。そして、レベルアップで増えたスキルポイントを消費してスキルを獲得することができます」
「…ゴブリンさんは魔物なのに、私達人間と同じように成長することができるということですか?」
「その通りです」
「まじかよ…だから、上位種のホブゴブリンも倒せたのか」
「はい。では、お話は移動しながらでもできますので、他の魔物が来ない内に移動しましょう」
俺達は移動を再開した。
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