第18話 悲鳴を聞きつけ、人間を救助

 レベル10を目指し、魔物を探しながら森を歩く。勿論、【熱源感知】と【異臭感知】を発動するのを忘れない。


 先程、調子に乗って新しい魔法を発動しすぎたので、魔物と出会しても近接戦闘で仕留めなければならないのは少し面倒だ。


 草藪を掻き分け、落ちている木枝を踏み、顔を左右に振りながら進んでいると、悲鳴が森に響いた。


 「きゃあああ!」


 聞こえたのは人間の女性の悲鳴。俺の身体は無意識に悲鳴が聞こえた方向に走り出した。


 無意識に走り出してしまったが、詳細な場所が分からない。なんとなく悲鳴の聞こえてきた方向に走っているが、無事に辿り着けるか分からない。


 好奇心と少しの不安を感じながら進んでいると、五つの反応を捉えた。


 距離が縮まるにつれて、反応の正体の姿形が見えてくる。姿形は人型のようなので、魔物ではなさそうだ。


 【気配遮断】と【魔力遮断】を発動し、近くの木の陰に潜伏し、状況の把握に努める。


 「ん? あれは…」


 五つの反応の正体は人間四人とホブゴブリン一匹だった。そして、人間四人は以前見かけた青年三人と女性一人だった。


 盾を所持した青年が地面に倒れており、剣と槍を所持した青年二人は満身創痍だ。女性の表情は恐怖に染まっており、腰を抜かしている。


 ホブゴブリンと戦闘になったが、盾の青年が倒されて攻撃を防いでくれる前衛がいなくなってしまった。


 他の二人の前衛も怪我が多く見られるし、後衛の彼女も心が折れてしまっている。おそらく、魔力も残っておらず、【回復魔法】で回復させることもできないのだろう。


 しかし、鉄製の武器を所持して人数的にも有利なのに負けるなんて弱すぎないか?


 ホブゴブリンは棍棒一本しか所持してないから、武器があるならそこまで苦戦せずに勝てると思うんだけどな。


 ふと疑問に思ったことで注意が逸れていると、ホブゴブリンが満身創痍の二人を無視して彼女に向かって走り出す。


 ホブゴブリンは棍棒を投げ捨て、彼女の頭を鷲掴みにする。大きな悲鳴を上げて必死に抵抗する彼女の胸部の革鎧を無理矢理剥ぎ取り、勃起した陰茎を彼女の股下へと近づけていく。


 「いやー! 誰か! 助けて!」


 彼女の必死の叫び声に満身創痍の二人は下唇を噛み、涙を流している。


 俺は潜伏していた木の陰から飛び出し、興奮して隙だらけのホブゴブリンの側頭部に蹴りを打ち込む。


 蹴られた勢いで地面を転がるホブゴブリン。蹴った時に鈍い音が聞こえたので骨は粉砕しているだろう。


 激痛で呻き声を上げているホブゴブリンの顔面に勢いよく拳を打ち込む。ホブゴブリンは微動だにしなくなった。


 ホブゴブリンにとどめを刺し、襲われていた彼女に視線を向ける。彼女はこの状況に理解が追いついておらず、驚愕した表情をしていた。


 彼女から視線を逸らして満身創痍の二人を見ても、同じ表情をしていた。


 まぁ、三人のことはとりあえず放置して、倒れている青年の元に向かう。口元に耳を近づけて呼吸を確かめる。


 息はしているので死んではいないようだ。青年の無事を確かめた後、上体を起こして不安げな表情でこちらを見つめる彼女の元へ向かう。


 ゴブリンである俺が近づいても、逃げ出す素振りすらない。恐怖より混乱のほうが大きいのだろう。


 ゴブリン同士が獲物の取り合いで争うことはあるかもしれないが、上位種のホブゴブリンを倒すゴブリンは珍しいかもしれない。


 それより、元同じ人間としてこのまま彼女達を放置するのは罪悪感がある。森を抜けるにしても魔物と戦闘になるだろうから、森を抜けるまで護衛したほうがいいだろう。


 「あの、【回復魔法】は使えますか?」


 「えっ…」


 彼女は目を見開き、驚愕の表情をしながら固まってしまった。


 「倒れている人や怪我をしている人がいるので魔力が残っているのであれば、治療してあげてください」


 彼女は混乱しながらゆっくりと口を開く。


 「何故、ゴブリンが喋っているの?」


 「その疑問は当然ですが、仲間の治療を優先したほうがいいと思います。私は魔物の襲撃がないか周囲を警戒してますので」


 「…そ、そうですね」


 彼女はホブゴブリンに無理矢理剥がされた革鎧を装備し直し、倒れている青年の元に向かった。


 俺はホブゴブリンが所持していた棍棒を拾い上げ、彼等から少し距離を取り、彼女が【回復魔法】で治療しているところを見つめる。


 倒れていた青年はまだ意識が戻らないようだが、二人の青年は怪我が治り、動けるようになった。


 治療は終わったが、三人はこちらを警戒しながら身体を寄せ合い、声を潜めて話し始めた。


 俺は黙って彼等のやりとりを眺めつつ、出方を伺う。できれば、友好的に交流したいが、無理だったらどうするかな…。


 一抹の不安を抱えながら待っていると、三人がこちらに近づいてきた。そして、彼女が先に口を開いた。


 「先程は助けて頂き、ありがとうございます。おかげで私達は家族のいる村に帰ることができます」


 「気にしないでください」


 「それで、その…貴方はゴブリンに見えるのですが、何故人間の言葉を喋れるのですか?」


 「うーん…伝わるか分かりませんが、私は転生者です。この世界とは異なる世界で人間として生きていましたが、死んでこの世界にゴブリンとして転生しました」


 「転生者…」


 「すまない。言っていることが分からないんだが?」


 「そうですね…外見はゴブリンですが、中身は皆さんと同じ人間だということです。これ以外に説明のしようがありません」


 「転生者という言葉は聞いたことがないな」


 「確かにそうだけど、ホブゴブリンを倒して私達を助けてくれたことや人間の言葉を喋っていることは事実よ」


 「私も逆の立場なら信じることは難しいと思います。なので、こちらに戦闘の意思はないと思って頂ければいいです」


 「分かった」


 「ありがとうございます。では、少しお話をしませんか? 私はこの世界のことを何も知らないので」


 俺のお願いに彼等は頷いた。


 


 


 

 

 

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