第14話 安易に近づくのは危険

 視線の先には四人の人間。


 身長や容姿を見るに、十代後半〜二十代前半の若者だと思う。


 一人目は生物の身体の中を流れる真っ赤な血液のような赤髪の青年。筋肉質かつ細身な身体つきで、鉄製の長剣を所持している。


 二人目は雲一つない青空のような青髪の青年。筋肉質かつ細身な身体つきで、鉄製の長槍を所持している。


 三人目は森のような緑髪の青年。少しふくよかな身体つきで、鉄製の円盾を所持している。


 四人目は桃色の長髪を一つに結い、右肩に流している女性。木製の長杖を所持している。


 そして、それぞれ動物、あるいは魔物の皮を鞣して作られた茶色の革鎧を装備している。


 元の世界でも一部の人達は派手な髪色をしていたので驚きはしない。でも、鉄製の剣や槍、木製の杖、革鎧を見ると興奮してしまう。


 自分自身でも装備したいと、そういう憧れにも似た気持ちが強くなる。


 それに、桃色の髪の女性は美少女だ。大きくパッチリとした瞳、筋の通った高い鼻、瑞々しく柔らかそうな唇、革鎧の上からでも分かる豊かな胸。


 先程から武具と同じくらい彼女に視線が釘付けになってしまう。


 身体の中を流れる血液が陰部に集中し、硬く太く隆起する。彼女の肉感的で柔らかそうな身体を激しく犯したい衝動に駆られる。


 (…これはゴブリンとして生物的な本能なのか?)


 異世界モノの小説やアニメではゴブリンやオークは異種族の雌を攫い、母体として自分の子を孕ませる習性があった。


 この世界のゴブリンもその習性が備わっているのか、彼女を見た時から俺の理性をゴブリンの本能が侵食してくる。


 しかし、ここで理性を失えば無闇に四人に突撃することになる。冷静な判断力を失った性欲剥き出しのゴブリンでは、容易く討伐されてしまうだろう。


 (ふぅ…落ち着け。冷静になるんだ)


 相手は四人で鉄製の武具を所持している。こちらは木の棍棒を一本所持しているのみ。


 では、所持スキルはどうだ。【心眼】で四人の所持スキルを確認する。


【赤髪の青年】

 ・【剣術】Lv.1

 ・【剛力】Lv.1

 ・【農耕】Lv.1


【青髪の青年】

 ・【槍術】Lv.1

 ・【疾走】Lv.1

 ・【農耕】Lv.1


【緑髪の青年】

 ・【盾術】Lv.1

 ・【金剛】Lv.1

 ・【農耕】Lv.1


【桃色長髪の女性】

 ・【回復魔法】Lv.1

 ・【明晰】Lv.1

 ・【農耕】Lv.1


 未所持のスキルが多いが、スキル一覧に表示されていたスキルばかりなので、スキルポイントを使用して獲得することは可能だ。


 俺と比較して所持スキルの数も少なく、レベルも低い。能力値の増加も大きくないので、実力的にはそこまで差はないと思う。


 さて、どうするか…。


 俺的にはこの四人と交流してみたい気持ちはあるが、見た目はゴブリンなので平和的にとはいかないだろう。


 目の前に姿を現せば武器を構え、戦闘開始する未来が容易に想像がつく。


 (はぁ…どうするか…)


 この悩んでいる間も【気配遮断】と【魔力遮断】を発動して、森の中を進む四人の後を追う。


 この四人から得られる戦利品はとても魅力的だ。複数の未所持スキルを獲得でき、彼女の身体を弄ぶことができる。


 しかし、俺の人間としての理性が四人を襲うことに待ったをかける。


 元々は人間だった俺が、同じ人間で高校生や大学生くらいの若者である彼等を自分勝手に襲うことはそこら辺の魔物と変わらないだろう。


 まだ彼等に危害を加えられたわけでもないし、ここは大人しく引き下がろう。


 俺は踵を返すと、一度だけ彼等に振り向き、彼等とは反対方向に進んだ。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 木々の間を進み、魔物を探す。


 15メートル先で三つの反応を捉えた。もしかしたら、また人間の集団かもしれないので慎重に距離を詰める。


 「なんだ…お前達か」


 その場にいたのは猿の魔物が三匹。少しだけ期待していた部分もあった。


 次に出会う人間はどのような容姿をしていて、どのような武器を装備し、どのようなスキルを所持しているのか好奇心があったからだ。


 気持ちを切り替え、【雷魔法】を詠唱する。


 「雷霆よ、敵を貫け、雷撃ライトニング


 バリバリバリィィィ


 雷撃ライトニングが猿の魔物の額を貫き、背中から地面に倒れる。仲間が急に倒れたことに動揺し、隙を晒す猿の魔物に向かって駆け出す。


 急接近してくる俺を見て、慌てて拳を振り抜く猿の魔物。振り抜かれた拳は俺の顔面を捉えているが、鋭さには欠ける。

 

 体勢を低くし、拳を避ける。俺の顔面に痛打を与えるはずだった拳は空を切り、振り上げた棍棒が猿の魔物の顎を強打する。


 鈍い音が響き、顎を粉砕された猿の魔物が地面に沈む。


 最後の一匹が仲間の仇を討つために怒りを蹴りに乗せて攻撃してくる。蹴りを棍棒で受け止めて大きく跳躍し、最後の一匹の頭部目掛けて振り下ろす。


 『【体術】Lv.3にUPしました』


 「よしよし、【体術】も【棍棒術】と同じレベルになったし、そろそろ棍棒は卒業かな」


 棍棒で戦うのも悪くはないが、拳や蹴りを駆使して戦う近接格闘のほうがかっこいいと思っていた。


 命の危険が差し迫った状況であればなりふり構わず戦うが、せっかく異世界に転生したのだから戦い方に拘ってもいいだろう。


 猿の魔物を一箇所に集めて途中で狩った蛇と兎?から順番に食べ始めた。




 


 

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