第12話 不可

 川辺に戻り、冷水で喉を潤す。


 ゴグゴクゴク


 「ぷはぁ! 美味い! 身体に沁みるなぁ」


 口元を手で拭いながら川辺に腰を降ろす。照りつける太陽の光を全身に浴びながら休憩する。


 十分後、お腹が軽くなってきたのでレベル上げを再開するために立ち上がる。


 気分転換も兼ねて川を渡り、反対側の森へ入っていく。


 【熱源感知】と【異臭感知】、【気配遮断】を発動して、木々の間を通り抜けていく。


 早速、【熱源感知】と【異臭感知】が反応を捉えた。四つの反応が一箇所に固まっているので、前回のように魔物同士が戦おうとしているのかもしれない。


 慎重に近づいていき、木の陰に身体を潜め、様子を伺う。しかし、四つの反応の正体はゴブリンだった。


 一箇所に集まって何をしているのかは分からないが、奇襲させてもらおう。


 「雷霆よ、敵を貫け、雷撃ライトニング


 バリバリバリィィィ


 雷撃ライトニングがゴブリンの額を貫く。額を貫かれたゴブリンは何が起きたのか理解する間もなく、ゆっくりと倒れた。


 雷撃ライトニングの轟音で残りの三匹のゴブリンが俺の存在を認識し、自分達が奇襲されたのを理解した。


 同時に駆け出す三匹のゴブリン。俺も駆け出し、お互いの距離がどんどんと縮まる。


 棍棒を振り下ろせば当たる距離まで近づいたところで、俺は真ん中のゴブリンに向かって回し蹴りで痛打を与える。


 「グギャ!」


 鳴き声を上げ、後方に飛ばされるゴブリン。感触としては骨は粉砕できたと思う。


 蹴り飛ばされた仲間を気にも止めず、左右のゴブリンが棍棒を振り下ろしてくる。


 棍棒の振り下ろしを後方に跳躍して躱し、素早く駆け出し、右側のゴブリンとの距離を詰める。


 同じように棍棒を振り下ろしてくるので、下から棍棒を掬い上げるように弾くと、ゴブリンは棍棒を手放した。


 その隙を見逃さず、頭部に棍棒を振り下ろす。鈍い音が響き、膝から崩れ落ちるゴブリン。


 次々と仲間が倒されたことによる恐怖を雄叫びを上げて払拭し、自らを鼓舞して突撃してくる。


 仲間の仇を討つために振り下ろされた棍棒を左手で受け止め、側頭部目掛けて棍棒を振り抜く。


 膝から崩れ落ちる最後のゴブリン。


 一匹一匹の生死を確認したが、生き残りはいなかった。回し蹴りで痛打を与えたゴブリンも死んでいたので、骨を粉砕した衝撃で内臓も致命的なダメージを負ったのだろう。


 それぞれの死体を木の根元に重ねて置く。あとは他の動物や魔物が食べてくれるだろう。


 ガサガサガサ


 「お! 自ら出てきたか。最後の一匹を倒す時に反応は捉えていたから驚きはしないけど」


 草藪を掻き分けて姿を現したのは犬のような頭部をした魔物。数は三匹。


 俺とゴブリンの戦闘を見て、隙を伺っていたのは知っている。結局、戦闘が終わるまで襲撃することはなかったので、撤退するのかなと思っていた。


 まぁ、俺は逃す気はなかったけど。


 犬のような頭部をした魔物は俺の後方に置かれているゴブリンの死体を狙っている。


 きっと、空腹で飢えているのだろう。口元から涎を垂らしている。


 俺がいない時に食べてもらえれば良かったんだが、こうして姿を現した以上、俺もレベルを上げたいので見逃すことはできない。


 「悪く思うなよ。雷霆よ、敵を貫け、雷撃ライトニング


 雷撃ライトニングが真ん中の奴の額を貫く。それと同時に俺は駆け出した。


 まずは左側の奴を仕留める。棍棒を振り上げ、頭部を強しようとしたが、横にズレて躱された。


 反撃とばかりに大きく口を開けて噛みつこうとしてきたので、棍棒から手を離し、側頭部を殴打した。


 すぐに背後に振り向き、最後の奴の攻撃に備えようとしたが、鈍く輝く牙が間近に迫っていた。


 咄嗟に腕を前に出し防御する。鈍く輝く鋭い牙は俺の腕の肉を噛みちぎるーーーことはなく、牙の先が少し刺さる程度だった。


 俺も驚いていたが、攻撃してきた魔物自身も状況を理解できず、混乱していた。


 レベルアップによる能力値上昇の恩恵を感じながら、噛みついてきた魔物の側頭部を殴打する。


 打撃を与えた二匹の魔物は頭部を抑えながらジタバタと踠き苦しんでいたので、棍棒でとどめを刺す。


 『【異臭感知】Lv.3にUPしました』


 絶命したことを確認した後、三匹の死体をゴブリンの横に重ねて置いておく。


 「ふぅ…なんとか無事に連戦を乗り切ったな。…さて、移動しますか」


 魔物を探して森の中を探索していると、新種の魔物を発見した。


 体高は猿の魔物と同じくらいで大きなカサと太い柄が特徴的なきのこの魔物が歩いていた。


 「おぉ! 凄いな!」


 思わず感動してしまった。しかし、相手は魔物だ。油断はできない。


 【心眼】で視ると、【毒胞子】Lv.1を所持していた。無闇に近づいていたら、手痛い目にあっていたかもしれない。


 とりあえず、【雷魔法】でサクッと仕留めるか。


 「雷霆よ、敵を貫け、雷撃ライトニング


 バリバリバリィィィ


 雷撃ライトニングが柄の部分を貫き、きのこの魔物はその場に倒れた。


 『【毒胞子】Lv.1を獲得しました』


 絶命したきのこの魔物に近づき、観察する。巨大なきのこに小さな手足が生えている。


 「この魔物も食べれるんだろうか? …いや、【毒胞子】なんて危ないスキルを所持していたから、食べるのは危険だな」


 まぁ、まだ腹も減ってないし、この魔物は放置でいいか。


 次に新規スキルの詳細説明を確認する。


【毒胞子】Lv.1

 カサを振ることで毒性の胞子をばら撒くスキル。レベルが上昇すると毒性が強くなる。魔力+10


 なるほど。遠距離攻撃で仕留めるのは正解だったか。俺には毒に対する耐性がないから、レベル1でも毒に苦しむ可能性がある。


 しかし、このスキル俺は使用できるのか?きのこの魔物のようにカサなんて無いし、頭を振れば勝手に胞子をばら負けるのか?


 とりあえず、やってみるか。


 頭を左右に振ってみる。…しかし、何も変化はない。


 もう一度試してみるが、胞子がばら撒かれている様子はない。


 「…どういうことだ?」


 何も分からないので、再度ステータス画面を確認する。すると、先程は気づかなかったが、【毒胞子】は[使用不可]に分類されていた。


 つまり、【毒胞子】というスキルは俺には使えないということ。


 正直、がっかりした。状態異常攻撃はとても強力だし、役立ちそうなスキルなんだけどな…。


 まぁ、使用はできないけど能力値は増加しているし、良しとする。

 

 俺は空を見上げ、空の明るさを確認してから狩りを再開した。


 

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