第二章

第11話 目標

 木の根元に腰を降ろし、背中を預ける。


 どのようにすれば人類種と交流できるのか。


 この容姿、ゴブリンの姿ではどれだけ敵意が無かろうと、どれだけ言葉を紡ごうと相手は理解しない。


 俺を魔物、ゴブリンと断定し、武器や魔法で殺そうとするだろう。


 魔物は自分達の命を脅かす存在で、自分達の家族や生活圏を奪おうとする脅威だ。だからこそ、人類種と魔物は相容れないのだろう。


 「はぁ…やっぱり、可能性は皆無に等しいな」


 俺は元人間でこの世界の人類種の生活様式や文化などを直接触れて感じたいと思っている。しかし、魔物に転生した以上これは俺のエゴに過ぎない。


 では、人類種との交流は諦め、魔物として人類種の脅威として生きていかなければならないのか?


 「うーん…諦めたくないな」


 結局、自問自答しようと答えは変わらない。そして、考え抜いた結果、一つのシンプルな答えにいきつく。


 単純明快にして真理だと思うその答えは俺が何者にも負けない強さを得ること。


 何人であろうとも害することのできない圧倒的な強さ。そう…世界最強。


 俺は弱い。だから、あれこれ迷うのだ。


 弱いから話し合いというスタートラインにも立てず、自分の意見すら言える立場でもないのだ。


 しかし、強さがあれば相手は戦うという選択肢以外にも話を聞くという選択肢が生まれる可能性もある。


 まぁ、それでも相容れない時はあると思うが、その時はその時考えよう。


 さて、まずは目標を決めよう。


 「まずはホブゴブリンに進化することを目標としよう!」


 森の出口を目指し、村や街を見つけるために森を彷徨っていた時、唯一戦略的撤退をしたのがホブゴブリン。


 あの時の自分では勝てないだろうと撤退したが、同じようにホブゴブリンに進化すれば倒せる可能性はある。


 そのためにも、レベルを上げ、スキルポイントでスキルを獲得し、戦闘の幅を広げるべきだろう。


 あまり森を彷徨っていた時と行動は変わらないが、時間と体力が持つ限り、積極的に魔物を倒すつもりだ。


 「おっと、もうだいぶ夜も更けてきたな。明日に向けてさっさと寝るか」


 少し先に見える村を背にしながら、俺は眠りについた。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 森に差し込む太陽の暖かい光と枝葉の揺れる音、鳥の鳴き声で目を覚ます。


 大きく伸びをした後、肩を回し、ガチガチに固まった身体を解しながら立ち上がる。


 少し先に見える村の入口に立つ大人の男二人を【心眼】視る。


 【槍術】Lv.2や【気配感知】Lv.2、【狩猟】Lv.1など俺もまだ所持していないスキルを持っていた。


 スキル一覧では見たことがあるので、スキルポイントさえ貯まれば獲得は可能だ。


 俺は川辺に移動し、冷水で喉を潤し、目を覚まさせるために顔を洗う。


 昨夜、村を発見した喜びと感動で夜飯を食べ損ねたので、かなり空腹だ。


 草藪を掻き分け、森の中を早足で移動する。


 「もう腹が減ってしょうがないんだ。早く出てきてくれ」


 すると、二つの反応を捉えた。俺は反応がある場所へどんどん進んでいく。


 「あ! 昨日倒した猿の魔物か」


 ちょうどいい。これで少し空腹が満たされ、【体術】のレベルも上がるだろう。


 「雷霆よ、敵を貫け、雷撃ライトニング


 バリバリバリィィィ


 雷撃ライトニングが猿の魔物の額を貫く。それと同時に俺は走り出す。俺の棍棒の振り下ろしを猿の魔物は腕を交差して受け止める。

 

 鈍い音が響き、猿の魔物の腕は脱力したように腕が下がった。そして、棍棒で側頭部を強打した。


 『【体術】Lv.2にUPしました』


 【強欲】の通知を気にも止めず、猿の魔物に齧り付く。一心不乱に食べ続け、骨を残して一息吐く。


 「とりあえず、空腹は解消されたけど、まだ食べ足りない」

 

 早足で移動を開始し、出会した魔物を倒していく。


 蛇の胴体を乱暴に掴み、頭部を噛みちぎる。兎?が角を向けて跳躍してきたところを角を掴み、頭部に齧り付く。


 ゴブリン三匹と出会した時は二匹を【雷魔法】で額を貫き、残り一匹を棍棒で強打。犬のような頭部をした魔物も同じように倒したところでレベルがアップした。


 『Lv.6にUPしました』


 「本気を出せばこんなもんさ! うーん…流石にお腹がいっぱいになってきた…」


 犬のような頭部をした魔物を二匹残してしまった。わざわざ持ち運ぶのも面倒だし、このまま放置しておけば、他の魔物が食べてくれるだろう。


 それじゃ、スキルを選ぼうか。


 スキル一覧を表示し、どのスキルを獲得するかを考える。【棍棒術】と【体術】で近接戦闘は問題ない。


 遠距離攻撃手段として【雷魔法】もあるし、撤退するときのために【逃走】と【疾走】で敏捷値を上げた。


 次は…このスキルがいいかな?


 『【気配遮断】Lv.1を獲得しました』


【気配遮断】Lv.1

 Lv.1以下の【気配感知】を妨害するスキル。精神値+10


 このスキルがあれば【熱源感知】や【異臭感知】で捉えた魔物を奇襲しやすくなるし、複数同時に相手をする時も戦闘を有利に進めることができる。


 となると、次は【魔力遮断】を獲得するべきだな。


 スキル一覧を見ると、人類種は【気配感知】と【魔力感知】しか獲得できないようだ。


 俺は【熱源感知】と【異臭感知】があるので、【気配遮断】と【魔力遮断】で妨害しても意味はない。


 よし! 弱点を無くすためにもレベル上げを頑張って、どんどんスキルを獲得していこう!


 


 


 

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