第7話 思い立ったら即行動

 異世界生活二日目。


 時間を気にすることなく、自然と目を覚まし、固く冷たい地面から身体を起こす。


 両腕を上へ伸ばし、強張った身体を解し、洞穴の出口へと向かう。出口に近づくにつれ、洞穴に差し込む光量が増える。


 洞穴を出るとその眩しさに目を細め、陽光を遮るように手を翳す。次第に目が慣れてきたので小川に向かい、顔を洗ってから冷水で喉を潤す。


 「ふぅ…今日もいい天気だな」


 手を翳して空を見上げているとお腹が鳴る。


 「朝飯を調達しに行くか」


 昨日とは違う場所から森に入り、迷わないように木に引っ掻き跡を残しながら、森の中を進む。


 道中に出会した蛇と兎?を一匹ずつ倒し、蛇を首に巻きつけ、兎?を左手に持ちながら進む。


 すると、【熱源感知】が二つの反応を捉える。反応は同じ場所にあるため、共に行動していると思われる。


 一度に二匹を相手にしないといけないので、どんな奴等なのか確認し、撤退も視野に入れて行動しよう。


 息を潜め、音を殺し、反応がある場所へと慎重に近づく。


 木の陰に身を潜め、顔を少し出して反応の正体を確かめる。


 体高はゴブリン程度で犬のような頭部、剥き出しになった鋭い歯、白い体毛を生やした魔物だった。


 【心眼】で所持スキルを確認すると、【異臭感知】Lv.1を所持していた。


 ………あれ? 待てよ。この距離なら感知範囲になっているのでは?


 そう思った時、二匹の魔物がこちらを見て駆け出していた。


 (ヤバい! どうする!?)


 一旦撤退するべきだろうか? しかし、このまま追いかけられたら寝床まで着いてくるかもしれないし、無闇矢鱈と森の中を逃げたら迷う可能性がある。


 ここで仕留めるのが最良か。


 蛇と兎?を地面に置き、二匹の魔物に向かって棍棒を振り上げながら走り出す。


 二匹の魔物は無手なので先手は取れるが、二匹目の攻撃を受けるか避ける必要がある。


 先に近づいてきた一匹目の魔物の顔面に向かって棍棒を振り抜く。


 「ギャウ!」


 一匹目の魔物が後方に吹き飛ばされたのを見て、二匹目の魔物が驚いて立ち止まる。その隙だらけの後頭部に向かって棍棒を振り下ろす。


 「…何とか勝ててよかった。まだ絶命はしていないからとどめを刺すとしよう」


 頭部を殴打されて意識を失っている二匹の魔物に向かって、再度棍棒を叩き込む。


 『【異臭感知】Lv.1を獲得しました』


 倒した二匹の魔物を引きずりながら元の場所に戻り、蛇と兎?を回収して寝床へと戻る。


 道中、新規スキルの詳細説明を確認する。


【異臭感知】Lv.1

 自分自身とは異なる生物の体臭を感知するスキル。半径5メートル。幸運値+10


 これで体温と体臭の両方であらかじめ魔物の存在を把握し、奇襲を防ぎ撤退がしやすくなった。


 引っ掻き跡を辿りながら小川に戻る。小川で顔を洗い、冷水で喉を潤し、蛇の胴体に齧り付く。


 照りつける太陽の下、そよ風に揺れる枝葉の音や水の流れる音を聞き、食事を摂っているとふと思った。


 「まるでピクニックだな」


 場所は異世界の森だし、リュックや水筒、弁当があるわけでもなく、食糧は現地調達だが、なんとなくそう思ってしまった。


 (友達がいればさらに楽しいんだがな…)


 学生だった頃の思い出に浸っていると、【熱源感知】が反応を捉えた。背後に振り返ると、一匹のゴブリンが棍棒を携え、こちらを見ていた。


 おそらく、犬のような頭部をした魔物を引きずってきた跡を辿ってきたのだろう。


 こちらも棍棒を手に持ち立ち上がると、ゴブリンが棍棒を振り上げながら襲いかかってきた。


 振り下ろされた棍棒を受け止め、強引に押し返す。すると、ゴブリンは踏鞴を踏み、数歩下がる。


 棍棒を受け止めた時もそうだっが、筋力値は俺のほうが強いらしい。


 隙だらけのゴブリンの頭部を強打し、意識を刈り取る。そして、再度頭部を強打し、絶命させる。


 『【棍棒術】Lv.2にUPしました』


 【棍棒術】のレベルも上がり、食糧も増え、一石二鳥だ。


 グチャ…グチャ…グチャ…。


 口元から血を滴さながら肉を喰らっていく。全て食べ終えると、口元や口内に付着した血や毛を冷水で洗い流す。


 川辺で一息吐きながらステータス画面を確認する。


 「あぁ…思いっきり忘れていた」


 昨日、レベル3にアップしていたのでスキルポイントの残量も5になっている。


 新規スキルを獲得できるため、スキル一覧を眺めて思考する。


 俺の能力値は筋力値と幸運値が伸びている。そうなると、次に伸ばすべきは敏捷値かな。


 戦闘において速さはとても重要だ。いかに相手より速く攻撃を与え、ダメージを蓄積させられるか。


 そして、勝てないと判断し、迅速に撤退する時にとても重要になる。


 「敏捷値が伸ばせるスキルは…」


 スキルの一覧を眺め、詳細説明を確認し、一つのスキルに決めた。


【逃走】Lv.1

 人類種や魔物に追われている状況に限り、敏捷値×1.1倍の速度で走ることができるスキル。敏捷値+10


 現在の敏捷値は42。そして、逃走時は46になる。今は微々たる上昇だが、レベルや【逃走】のレベルがアップすれば恩恵は大きくなるだろう。


 さて、この後はどのように行動するか。


 まだ太陽は高い位置にあるから夜飯を調達する必要はない。


 「…何もすることなくね?」


 強いて言えばレベル上げくらい。勿論、レベル上げはするつもりだが、娯楽が無くて時間を持て余す。


 せっかく異世界に来たんだから楽しんだほうがいいだろう。それに、危険ではあるが、この世界の人達がどのように生活しているかも気になる。


 遠目に村や街を眺めるくらいならいいよね。


 よし! 思い立ったが吉日、善は急げだ。


 俺は好奇心に負け、野宿も覚悟で川の下流に向かって歩き出した。

 

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