第6話 寝床の確保
体感的に1時間程度歩いたと思う。特に他の魔物と遭遇せず、この場所まで辿り着いた。
目の前には高さ5メートル程の崖があり、上から水が滝のように流れ落ち、小川に流れているようだった。
そして、その崖の岩肌に洞穴があった。人間の大人だと屈まないと入れない高さだが、ゴブリンの俺であれば問題なく入れる高さ。
何故、ここに洞穴があるのだろうか? 他の魔物の塒だろうか?
寝床としては小川が近くにあるし、ここを生活拠点にしたいところだが、まずは洞穴を確かめてみよう。
息を潜め、音を殺し、慎重に洞穴へ近づく。岩肌に肩を寄せ、顔だけを洞穴へ向け、臭いや音に集中する。
「…【熱源感知】でも確認してみたが、5メートルの範囲に反応は無し。獣臭や息遣いも聞こえないから何もいないと思って良さそうだ」
しかし、懸念点が一つある。ここを塒にしている者が食糧を確保するため、一時的にいないだけで戻ってくる可能性がある。
この洞穴の中を確認し、生活感がないか確認するべきだな。
決意を固め、洞穴に入っていく。そして、特に生活していた痕跡を発見できず、行き止まりに当たった。
「よし! 一安心だな」
奥行きは約10メートル、横幅は約2メートル。俺が生活するには問題ないのでここを寝床とする。
さて、寝床の確保はできた。これからどうするかだが…問題は戦闘力か。
他の魔物が俺と同じようにこの洞穴を発見し、侵入してきた時は撃退しなければならない。
洞穴の大きさから大型の魔物は侵入できないと思うが、ゴブリンなどの小型の魔物は侵入できる。
それが一匹であれば勝ち目はあるが、複数で来られると負けてしまう。なので、レベル上げは重要だ。
まぁ食糧確保を積極的に行えば、自然とレベルは上がっていくだろう。
「それじゃ、夜飯を調達しに行きますか」
洞穴を出て空を見上げると、森の中に陽光を届けていた太陽の姿は無かった。橙色に染まった空を見て、夜が近いことを確認し、森の中へ向かった。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
寝床である洞穴からあまり離れすぎない場所で食糧を探す。
移動する際は木に爪で引っ掻き跡を残し、迷わないようにする。【熱源感知】を発動させながら、効率的に探索する。
「シャー!」
迷彩柄の蛇の噛みつきを胴体を鷲掴みにして阻止し、頭部を噛みちぎる。
『【熱源感知】Lv.2にUPしました』
「お! スキルレベルが上がった!」
夜飯確保のために森に入ってから二匹目の蛇を倒したら、【熱源感知】のレベルが上がった。
ステータス画面を開き、スキル詳細説明がどのように変わったかを確認する。
【熱源感知】Lv.2
生物の体温を可視化するスキル。半径10メートル。幸運値+20
変化したのは範囲と能力値の上昇値。範囲が変化したことでより多くの獲物を見つけやすくなる。
能力値の上昇は幸運値なので、直接戦闘に関わることはない。できれば、筋力値や頑丈値、敏捷値を上げていきたいところだ。
拾った少し太めの木の枝に蛇の胴体を巻きつける。それを肩に担ぎながら次の獲物を探す。
ドリルのような角をこちらに向けて突撃してくる兎? その角を鷲掴みにし、へし折り、兎?を滅多刺しにする。
『【跳躍】Lv.2にUPしました』
この兎?も二匹倒すと【跳躍】のレベルが上がった。
蛇も兎?も【心眼】で所持スキルを視ると、【熱源感知】Lv.1と【跳躍】Lv.1を所持していた。
スキルレベルをレベル1からレベル2に上げるためには、同種の魔物を二匹倒さないといけないことが分かった。
「今日の夜飯は十分だろう。寝床に戻るか」
兎?を左手で抱え、蛇の胴体が巻きついた木の枝を右手で持ち、寝床に向かって歩き出す。
道中で残した引っ掻き跡を辿り、薄暗くなってきた森の中を進む。
「グギャ!」
草藪から一匹のゴブリンが出てきて、食糧を抱えた俺と目が合う。そして、ゴブリンは俺に向かって棍棒を振り上げながら襲いかかってきた。
きっと、俺の食糧を横取りするつもりだろうが、そうはさせない。すぐに食糧を手放し、振り下ろされた棍棒を受け止め、ゴブリンの顔面に向かって拳を振り抜く。
ゴブリンは棍棒を手放しながら後方に倒れ込む。少し様子を見たが、動く気配はない。
しかし、【強欲】の通知がないので絶命はしていない。このゴブリンも食糧にするため、棍棒で頭部を殴る。
『Lv.3にUPしました』
苦戦することなく勝てて良かった。筋力値が伸びているおかげかもしれない。
【棍棒術】はもう一匹ゴブリンを倒せばレベルが上がるだろう。でも、今日は流石に切り上げよう。
「はぁ…持ち運ぶの大変だな…」
蛇の胴体を首に巻きつけ、左手に兎?を持ち、右手でゴブリンの足を持ち、引きずっていく。
無事川辺に戻ることができ、小川の冷水で喉を潤し、寝床である洞穴へ戻る。
蛇や兎?、ゴブリンを喰らう。
空腹が満たされたところでもう一度小川に戻り、冷水を飲む。
飲み終わり、顔を上げた時に視界に広がる夜空に言葉が漏れる。
「…とても綺麗だ」
宝石のように散りばめられた星々が夜空を照らす。異世界の夜空はこんなに綺麗なのかと感動した。
スマホがあれば絶対にこの夜空を写真に収めていただろう。
そんなことを考えながら洞穴に戻り、固く冷たい地面の上で眠りに落ちた。
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