第5話 同族

 草藪を掻き分け、水の流れる音が聞こえる方へ進むと、小川を見つけた。


 透き通った水面が太陽の光を反射して輝いて見える。水の流れる音と枝葉が揺れる音が心地よく、その幻想的な景色に見惚れてしまう。


 ゆっくりと川辺に近づき、川の水を手で掬い、口に運ぶ。冷たく美味しい水が喉を潤し、身体に優しく染み込む。


 「…とても美味しい。もしかしたら、水道水より美味しいかもしれない」


 水道水は薬品で細菌などを処理しているため安心安全ではあるが、あまり美味しくはない。


 それに比べてこの川の水は、安心安全ではないかもしれないが、無味無臭で口当たりが優しく、とても飲みやすい。


 兎?を捕食して口内に付着していた毛も綺麗になり、すっきりした。


 「今夜の食糧確保の前に、寝床を探すとするか」


 この川の冷水をいつでも飲めるようにしたいので、近場で良さそうな場所を探すとしよう。


 方針を決めたことで川の上流を目指すことにした。川辺だけを歩いていても食糧は確保できないので、森に少し入ったところを進む。


 先程倒した蛇や兎?を確保するため、周囲を確認しながら進んでいると、少し離れたところに魔物を発見した。


 体高は1メートル程度で体皮は緑色、釣り上がった目に高い鼻、剥き出しの歯に長い耳のゴブリンがいた。


 「…俺はあんな見た目なのか…」


 客観的に見るととても気持ち悪く、悍ましい容姿だ。


 ゴブリンは蛇を捕食していてこちらに気づいていない。周囲に仲間がいない様子から一匹だけのようだ。


 「さて、どうするか」


 初めて出会った同族だ。ゴブリン同士なら言語を理解できるかもしれないし、仲間になれる可能性もある。


 しかし、逆の場合も考えられる。同族だとしても容赦なく襲いかかってくる可能性もある。


 どうする…リスクを考えると、奇襲を仕掛けて倒したほうが確実だ。でも、このまま孤独でいるのは寂しい。


 「一度、試してみるか」


 草薮を掻き分け、食事中のゴブリンに近づく。すると、草薮を掻き分ける音に気づいたゴブリンがこちらに振り向く。


 (どんな反応をするか…)


 ゴブリンは俺を認識すると、こちらを睨みつけ威嚇する。どうやら同族であろうと関係なく、グギャ!グギャ!と唾を飛ばしているが、何を言っているのか分からない。


 仕方ないので大人しく引き下がる。来た道を戻り、大きく迂回し、ゴブリンの背後に回る。


 お前だけじゃない。俺もお前を見た時から闘争本能が込み上げてきていたんだ。


 息を潜め、音を殺し、再び食事を再開したゴブリンに近づき、首を手を回す。


 「グギャ!」


 いきなり背後から襲われ、慌てふためき、激しく暴れるゴブリンの首を締め上げる。次第にゴブリンの動きがゆっくりになり、動かなくなった。


 しかし、【強欲】が発動しないことからまだ生きていると思われる。確実に絶命させるために、喉を噛みちぎってやった。


 『Lv.2にUPしました』


 『【棍棒術】Lv.1を獲得しました』


 噛みちぎった肉を咀嚼していると脳内に通知が聞こえた。レベルアップと新規スキルを獲得した。


 まずはステータス画面を確認しよう。


【ステータス】

 ・名称 ゴブリン

 ・性別 雄

 ・種族 小鬼


 ・称号


 ・加護


 ・Lv.2


 ・魔力 22


 ・筋力 40(20+20)

 ・頑丈 20

 ・敏捷 22

 ・知力 20

 ・精神 20

 ・器用 22

 ・幸運 42(22+20)


【スキルポイント】

 残量 5


【スキル】

[戦闘系統]

 ・【棍棒術】Lv.1


[感覚系統]

 ・【熱源感知】Lv.1


[補助系統]

 ・【跳躍】Lv.1


[ユニークスキル]

 ・【強欲】Lv.1


 能力値が全て+10に上がった。レベル1アップで能力値は10ずつ上がることが分かった。


 能力値で伸びているのは筋力値と幸運値。これから獲得スキルによっては、伸びるスキルも違ってくるだろう。


 そして、スキルポイントの残量が5ポイントになった。これで、スキル一覧の中から一つスキルを獲得することができる。


 「うーん…どうするか…」


 どんなスキルを選べば、この先を生き抜くことができるだろう? 


 魔法や武器などのスキルがいいだろうか? それとも、感知スキルがいいだろうか?


 このスキル選びは今後に関わる。後悔はしたくないし、慎重に選ばないと。


 まず、スキルの一覧から獲得できるスキルは一つかつレベル1。獲得したとしても劇的強くなれるわけじゃない。


 それに、俺はまだレベル2。能力値も低いし、戦闘に関するスキルより、対象の情報が分かり、撤退もできるようなスキルのほうが生き延びれる可能性は高い。


 そうなると、【鑑定】または【心眼】のどちらかがいいだろう。


 それぞれの詳細説明を見ると、【鑑定】は魔物や武器の名称が分かるスキル。【心眼】は人類種や魔物が所持するスキルが分かるスキル。


 正直、魔物の名前が分かったところで役には立たない。◯◯◯ドラゴンとかだったら、一目で強いと分かるけど、他の魔物は名前から強さを予想するのは難しい。


 所持スキルが分かるのであれば、スキルの数やレベルから強さは予想できる。それに、どのような戦闘を仕掛けてくるのかも予想できないことはない。


 やはり、ここは【心眼】一択かな。


 …うーん…本当にそれでいいのか? 武器は所持してないからスキルがあっても意味はないし、魔法も魔力量が低いから2、3発撃って魔力切れになりそうだし。


 ロマンを優先して死んだら意味はないし…はぁ…こういう時、仲間がいれば相談できるんだけどな。


 ………よし! 腹を括るぞ! 


 きっと、【心眼】を選択することが正しいはずだ。


 俺は決意を決め、スキル一覧から【心眼】を選択した。


 『【心眼】Lv.1を獲得しました』


 それじゃ、新規スキルの確認をするとしよう。


【棍棒術】Lv.1

 棍棒で戦闘をする際、攻撃動作や防御動作に補正がかかるスキル。筋力値+10


【心眼】Lv.1

 人類種や魔物が所持するスキルを視れるスキル。幸運値+10


 スキルの確認を終えた後、俺は再び歩き出した。

 

 


 

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