第4話 魔物の闘争本能
食糧や寝床を確保するため、森の中を歩く。特に優先して確保したいのは肉と水。
肉を確保するには、動物や魔物を倒す必要がある。しかし、魔物と戦闘するのは少し不安だ。
外見がゴブリンとはいえ、中身は平和な日本で育った人間。武術の心得があるわけでもないし、どう戦えばいいのか分からない。
水を確保するには、小川を探す必要がある。ついでに小魚を確保できると考えれば、一石二鳥だ。
些細な音も逃さないように聞き耳をたて、足取りもなるべく音をたてないように、忍び足で歩く。
「ふぅ…どこに向かって歩けばいいのか分からないから気が滅入るな」
景色が変わらず、焦燥と不安が込み上げてくる中、右前方の草藪から一匹の蛇が出てきた。
その蛇は体長1メートル程度で体皮は迷彩色。舌をチロチロとしながら、こちらを見つめている。
俺も蛇をじっと見つめる。その時、俺はおかしいと思った。
俺は蛇がとても苦手だ。具体的に何が苦手なのか言語化はできないが、本能的に恐怖を感じてしまう。
以前の俺であれば、真っ先に逃げ出すことだろう。なのに、今は貴重な食糧が目の前にやってきたとしか思わない。
異世界転生モノで主人公が逆境に直面し、抑えてきた本性が表に出て、性格が変わるというのは見たことがある。
でも、俺はただ苦手な蛇に出会しただけ。いきなり性格が変わるとは思えない。
蛇がクネクネと身体を動かし、こちらに近づいてくる。そして、身体全体を使って跳躍し、牙を剥き出しにして襲いかかってきた。
俺の目線と同じくらいの高さまで跳躍し、襲いかかってきた蛇を鷲掴みにし、頭部を噛みちぎってやった。
『【熱源感知】Lv.1を獲得しました』
噛みちぎった蛇の頭部をぺっと吐き出す。そして、絶命して動かなくなった胴体を喰らう。
グチャ…グチャ…グチャ…。
食べ終えると、俺は理性を取り戻したような気がする。
俺の身に何が起こっている? 吐き出した蛇の頭部を見つめながら思考する。
神様は俺を弄って患っている病気を無くすと言っていた。その際に俺の人格に影響がでたのか?
それとも、ゴブリンという魔物の闘争本能というべきものが、俺に影響を及ぼしているのか?
どちらも可能性としてはあり得る。しかし、俺にとっては好都合だ。
魔物と出会した時、内心俺は怖くて戦えないだろうなと思っていた。それが臆することなく戦えるというのは、大いに役立つだろう。
さて、思考の整理と少し腹が満たされたところで、先程脳内に無機質な声が響いた。
『【熱源感知】Lv.1を獲得しました』というお知らせがあった。とりあえず、ステータスで確認する。
ステータス画面を表示すると、【スキル】の欄にそれがあった。スキルの詳細を確認してみる。
【熱源感知】Lv.1
生物の体温を可視化するスキル。半径5メートル。幸運値+10
なるほど。このスキルがあれば、あらかじめ生物の場所が分かり、奇襲を未然に防ぐことができる。
あとはあの蛇が動物あるいは魔物なのか気になる。勝手にスキルは人類種や魔物が所持していると思っていたが、動物も所持しているとなれば、積極的に狩るつもりだ。
懸念だった戦闘は問題ないようなので、【強欲】も大いに役立ちそうだ。
小川を目指して歩みを進める。水の流れる音を聞き逃さないように注意する。
ガサガサガサ
左前方の草藪揺れ、飛び出してきたのは兎。しかし、普通の兎ではない。
その兎の額の中央から先端にかけて細いドリルのような角が生えていた。一目で分かる明らかな魔物。
長く伸びた長い耳、赤い眼、白い毛並み。大きさは普通の兎と変わらない。こちらを見つめて動かない兎?
俺も兎?を見つめながら、美味しそうな肉がやってきたと涎がでてきた。少しずつ距離を詰めていくと、兎?がドリルのような角を向けて跳躍してきた。
蛇もそうだったが、こちらに迫る速度は目で追えるレベル。角を掴み、へし折ってやろうとするが、意外と頑丈だ。
ならば、蛇の時と同じように噛みついて肉を噛みちぎる。口内に毛が付着するのもお構いなしに3回ほど噛みちぎると、兎?は動かなくなった。
『【跳躍】Lv.1を獲得しました』
グチャ…グチャ…グチャ…。
絶命した兎?を喰らいながらステータス画面を表示し、獲得したスキルの詳細を確認する。
【跳躍】Lv.1
跳躍動作に補正がかかり、跳躍力が上がるスキル。筋力値+10
跳躍時に補正がかかり、より高く飛べるスキルか。わざわざ木に登る必要はなく、跳躍して枝に捕まることができるし、とても便利なスキルだと思う。
有用なスキルが獲得できるのは嬉しいが、まだレベルは上がらずか…。
まぁ気にしてもしょうがない。いずれ上がるだろう。
それより、魔物というのは凄いな。人間だったら血や生肉、体毛は適切に処理しないと寄生虫や病原菌の感染などの問題がある。
しかし、このゴブリンの身体は血や生肉がとても美味しく感じられ、口内に付着する毛なんて全然気にならないし、身体に異変も感じない。
まぁ、時間がたたないと分からないが。
兎?も食べ終わり、少し腹が満たされたところで、俺の耳が水の流れる音を拾う。
「小川が近いのかもしれない! 水が飲める!」
俺は少し早足になりながら、音のする方へ向かった。
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