近沢旺志にちょっと変な友達を 2
入学式の朝に膨らんだ期待が一週間で萎みかけている。
「立花だっけ?アイツ俺のクラスでも話題になってるよ」
一年六組の変な奴の話が一組の瑛斗のところまで届いているとは。
「俺のクラスでも!ジャージの立花君!旺志、立花君と席近いんだっけ?」
野次馬根性丸出しの翔らしい。ここでの話をすぐ拡散したい、と目がキラキラしている。
A棟には各階の端にカフェスペースと洒落た名前が付いた、少子化の影響で空き教室になった部屋がある。主に僕たちのような他クラスの友人と昼食をする際に利用されている。僕たち四人はほぼ毎日ここで昼休みを過ごしている。
「あ、それ一部間違い。立花さんは女の子。立花つかさちゃん」
僕・立花つかさと同じクラスの琥太朗がメンチカツサンドをカフェオレで流し込みながら訂正した。ええー!最新情報じゃん!と翔・瑛斗が驚きを見せる。
そう。渦中の「立花つかさ」は僕の前の席に座っている、パッと見男子のような女子だ。
まず、入学式に堂々とジャージで登校するという奇行っぷりでクラス内に衝撃を与え、「なぜ制服を着てこないのか」と咎める担任に対し「お前に関係ない」と冷たく言い放つ問題児だった。
以来、立花つかさは今日まで一度も制服を着ることなく登校している。身長は僕と同じくらい。立花は血色の良い肌で、袖からちらりと覗く腕は鍛えてる人間特有の、筋肉の盛り上がり。長い前髪が無表情の半分を隠している。ショートカットでよくポケットに両手を突っ込んで歩いている姿は、ヤンキー漫画の終盤に出てくる無表情でおとなしいのにケンカではサイコパスな男――そんな感じだ。クラスメイトは皆、無口・無頼で無表情な奇行種を敬遠し、必要以上に接しようとしていない。
プリントが配られるとき、立花が落としたペンを拾ってあげたとき……その都度僕はすべての感情を消し去ったような、絶対零度の視線を前髪の隙間から浴びせられ背筋を凍らせている。
「え、旺志後ろの席ならさー『どうして制服着てこないワン?』とか聞いてみろよぉ。お前得意だろ?おねだりワンちゃん」
翔の僕に対する子犬いじり、中学時代と相変わらずの調子に呆れてため息も枯れる。
「あのなぁ翔、いつまでイジる気だよ?もう僕高校生なんすけど?」
「安心して旺志。You’re a puppy no matter how old you are」
瑛斗が慈しみのまなざしを向けながら本場仕込みの流暢な英語を繰り出す。あまり理解できなかったけど瑛斗のことだからな、からかっているに決まってる。
「おいおい翔も瑛斗もその辺にしとけよー。でもジャージの理由、気になるよなぁ」
確かに気になる。でも不用意に聞いてみろよ。あの氷の視線で「お前に関係ない」って言われて終わりなの、目に見えてるでしょ。
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