きみにプレゼントをあげる
えびすざわ るき
近沢旺志にちょっと変な友達を 1
近沢家二階、西日が痛いくらいに射す部屋。僕は鹿亀沢高校入学を明日に控えていた。制服はハンガーにかけ、ノースフェイスのリュックに必要なものは入れてある。中学で仲の良かった琥太朗たちも鹿高に通うし、明日は琥太朗・翔・瑛斗のいつもの四人で入学式へ行くことは約束済みだ。高校生活を目の前にしたらもっとワクワクするもんだと思っていたのに。
こんな調子でリビングに降りていけば父さん母さんに「ソワソワしてるね」なんてからかわれそうだ。西日が夜を連れてきた。僕はカーテンを閉めてからクローゼットの天袋に手をかけた。落ち着かないときは「大がかりな断捨離」って相場が決まってるんだ。僕はフンと鼻を鳴らして、今となっては何が入っているやらも覚えていない段ボールを次々と床に下ろし始めた。
鹿亀沢高校入学式の朝。
昨日腕まくりまでしてやり始めた部屋の片付けだったが、片付けられない人間あるある……思い出に浸る時間ばかりで余計に散らかっていた。僕は床に散らかったカードデッキやベイブレードを足で退けながら全身鏡の前に移動する。そこに映っていたのは青白い肌と痩せた身体、黒目がちで誰かが甘やかしてくれるのを待つ子犬のような僕だ。鹿高の制服を着ていても、曲がっているネクタイを直しても頼りなさは消えない。
幼少期は病弱だったこともあり、極力体を動かさずに過ごした。運動できる子至上主義の小中学校時代、自他ともに認めるお人よしの僕はクラスメイトから「わんわん」とあだ名をつけられ、なめられていた。それでもいじめられなかったのは琥太朗たちと友達だったからだ。
一人では生きていけない、誰かを助けることもできない人間だっていうのは分かってる。ああそうか、だから僕は不安なんだ。
琥太朗・翔・瑛斗と四人で鹿高行きのバスを待つ。
「もしかして旺志、緊張してる?だいじょーぶだよー俺らがいるじゃん?」
琥太朗が僕のノースフェイスのリュックの上から肩もみをする。
「ありがとう琥太朗。っていうかみんなは緊張してないの?今日から高校生なんだよ?」
「え?俺は嬉しいけど?だって中学のクソダサうんこカバン背負って登校しなくていいじゃん?最高!」
自称・おしゃれマンの翔が背負っているリュックを見せてくる。翔が背負う蛍光色のリュックには玉虫色の不動明王がプリントされている。これは……おしゃれなのか?
「俺も嬉しいかも。鹿高、オケ部あるし」
これはイケメンの上にバイオリンも弾けて帰国子女とかチートが過ぎる瑛斗。頼むからお前は二十代で禿げてほしい。
「な、旺志。俺らがいれば中学の延長って感じで楽しめそうだろ?」
「さすがは琥太朗大明神!偉大なる言葉っ!」
僕は琥太朗におどけて返したが、本当に楽しめそうな気がしてきた。僕たちはやってきたバスに乗り込み、楽しい高校生活に期待しながら鹿高へ向かった。
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