第4話 パンデミック

 坂上が、パチンコに嵌ったのは、大学3年生の頃であった。

 友達についていったのが間違いの元で、最初の頃こそ、

「音がうるさい」

 と思いながらだったので、いても、1時間以上いることはなかった。

 しかも、タバコを吸うことがなかったので、パチンコ屋というと、当時はまだ分煙もされていなかった頃だった。

 隣の席で、プカプカ吸っているバカを、睨みつけるようにすると、それに気づいたそのバカは、わざとこっちに煙を吐いてくるのだった。

「こんなバカの相手をするのは、愚の骨頂だと思った」

 ので、無視していた。

 それでも、

「この台で粘る意味がない」

 と少しでも思ったら、移動するのだった。

 だが、

「まだ分からない」

 という状態であれば、急いで移動する。

 ただ、こちらが移動したことで、向こうが、

「してやったり」

 という顔をするようであれば、たまらないので、もうそのバカの顔を見るようなことはしない。

 そうせ、今日だけのことだ。

 と思うと、いちいち、そんなバカの顔を覚えているようなことはなかった。

 だから、それ以降も何度か同じようなシチュエーションがあったが、顔を覚えることはないので、

「毎回同じ人間なのか?」

 それとも、

「毎回違うのか?」

 ということは分からないので、いちおう、

「毎回違う」

 と思い、

「バカばっかりだ」

 と思うようになった。

 しかし、その翌年くらいから、

「受動喫煙防止法」

 というものが、発令された。

 しかも、ちょうど時期を同じくして、

「世界的なパンデミック」

 というものが襲ってきたのだ。

 実際には、その年をまたいだあたりから、

「某国で、伝染病が流行っている」

 というウワサが聞こえていて、会社の方でも、

「某国に出張に行く場合は、気を付けるというような、社達というものが発せられている」

 というようなことを聞いたことがあった。

 それが、どういうものなのかまでは、ハッキリと分からなかった。

 だが、政府は、某国どころか、他の国からの、

「水際対策」

 をまったくやっていない。

 しかも、某国の首脳を、

「国賓」

 として招く。などという、とんでもないことを考えていたというではないか。

 しかし、さすがに我が国においても、患者が増えてくると、政府も慌てだしたのだった。

 まずは、

「学校閉鎖」

 ということをやっていた。

「水際対策が先だろう」

 ということなのに、そちらはまだやっていなかった。

「愚の骨頂」

 とはこのころだ。

 ということであったのに、やったことは、

「学校閉鎖」

 というものであった。

 この、

「学校閉鎖」

 というものは、本当であれば、

「当局」

 であったり、

「教育委員会」

 などに、事前に相談を行って、水面下で調整をすることで、初めて実行できるのに、まるで、血迷ったかのように、いきなりやったのだ。

 しかも、ソーリは、側近にも話さずに、いきなりやったものだから、いろいろなところでパニックになり、当局や他の政治家は、もちろんのこと、

「学校側や父兄」

 さらには、

「子供たち」

 と、大パニックに陥ったのだ、

 そんな状態でありながら、

「外国からどんどん、ウイルスが入ってくる」

 という、片手落ちであり、本末転倒な政策に、誰もが、政府に恨みを持つようになったのだ。

 初手から間違っていたので、

「誰が政府のいうことなど聞くものか?」

 ということで、いら立っていた。

 ただ、本来なら、

「伝染病に本気で立ち向かう」

 という思いがあるのだとすれば、

 その当時、いや今でもであるが、切り札としての、

「緊急事態宣言」

 というものを出すべきではないか?

 と、いうことで、社会を二分していた。

「いきなりは、時期尚早」

 という人もいれば、

「早くやらないと効果はない」

 という人であった。

 時期尚早と考える人は、

「学校閉鎖での、パニックを考えたら、時期尚早というのも分かるだろう」

 ということであった。

 それに、

「やるなといっているわけではなく、調整を行わないと、パニックを大きくするだけだ」

 ということであったが、推奨派とすれば、

「日露戦争の時のように、今やらないと、手遅れになるということだ」

 という意見である。

 そもそも、

「水際対策」

 で失敗しているのだから、その時点で、すでに、後手後手に回っているのだから、

「時期尚早などという生易しいことを言っている場合ではない」

 ということであった。

 それを考えると、

「緊急事態宣言」

 というのも致し方ない。

 ということで、宣言が実行された。

 日本における宣言というのは、諸外国と違って、

「強制力がない」

 つまり、いろいろな指示は、

「命令」

 ではなく、

「要請」

 なのだ。

「命令と要請の違い」

 というのは、

「強制力というのを持つか持たないか?」

 ということであり。

「罰則を伴うか?」

 ということであった。

 諸外国における、

「ロックダウン」

 と呼ばれる、

「都市封鎖」

 では、発せられた命令には、一応の拘束力があり、それを破ると、

「罰金」

 あるいは、

「禁固」

 ということになるのだった。

 だから、日本とは決定的な違いがある。

 特にロックダウンなどでは、

「外出禁止」

 となった場合、

「例外として定められた外出の事由」

 というものに合致していなければ、外出をした場合は、罰せられるというわけだ。

 日本の場合は、

「外出禁止令」

 ではなく、

「外出金祖要請」

 ということなので、基本的に、外出しても、罰せられることはない。

 しかし、それでも、日本人は、結構守っていた。

「それほど、日本人というのは、それほど、規則を守る民俗ではないはずなんだけどな」

 と思っている人は多かったのだろうが、

「実際に、パンデミックというのが、単純に怖い」

 と思っている人、

 あるいは、

「戦争が終わって、ずっと平和だった」

 ということで、国民が、

「平和ボケ」

 をしているということ。

 ここまでは普通に考えられることだが、もう一つ、

「緊急事態宣言」

 というものが発せられてから、自然発生してきたものがあった。

 それは、

「自粛警察」

 なるものであった。

 というのは、

「緊急事態宣言」

 というものによって、ある意味制限を掛けられたことで、国民も、さすがに、

「ヤバい」

 と感じたことで、ほとんどの人間は、

「それを守る」

 ということであろう。

 しかし、これは、一人だけが守ってもまったく意味がない。つまり、

「皆が守らなければ意味がない」

 という伝染病に端を発していることではないか。

 だから、守っていない連中がいると、そこは、国民の集団意識で、

「集団の力で、いうことをきかせる」

 ということである。

「無言の圧」

 であったり、世間で、その店の噂を流したりして、宣言終了後も、商売ができなくなったり、社会的立場を失わせるだけのことを行うという脅しをかけることで、

「宣言を遵守させる」

 というやり方だった。

 皆、結局、

「伝染病が怖いのだ」

 それだけではなく、

「宣言が出されたのだから、皆が守らなければ、意味がない」

 ということで、ズルズルといってしまうと、どんどん悪い方に行ってしまう。

 だから、

「どうせ宣言が出たのだから、みんなしっかり守って、少しでも早く、以前の生活に戻れるように、足並みを揃える必要がある」

 という当たり前の発想からだった。

 それでも、

「今日一日、営業しないと、店が潰れる」

 という人もいるだろう。

 さすがに、そんな人まで、攻撃するということはできない。

「どうしても、営業しないと、国民が困る」

 という、必要最低限の食糧であったり、医薬品などを販売しているところは、時短などを行ってでも、営業していた。鉄道などのような、交通機関や、ガス、水道、電気の供給などといったインフラも、自粛対象ではない。

 そういう意味で、

「今日がなければ、明日はない」

 というところは、さすがに自粛警察も見守るしかなかったのだ。

 ただ、中には、業界によっては、

「許さない」

 と目くじらを立てるところもあった。

 それが、パチンコ業界であった。

 これはパチンコ業界だけではなく、一部の店舗や会社が営業をしているところもあったのだが、なぜか、パチンコ屋だけが攻撃された。

「パチンコ屋の休業率は、他の業界に対しても高いのに、さらには、クラスターと呼ばれる、大型感染が起こったわけでもないのに、なぜか攻撃されたのであった」

 どうしても、

「娯楽施設」

 という側面があるからなのか、それとも、

「どう見ても、ギャンブルなのに、遊戯施設ということになっていることに対しての、偏見なのか」

 とにかく攻撃されたのだ。

 だが、それでも、そんなパチンコ屋というものを取り締まることを、自治体も考えたようだ。

 だから、パチンコ屋に、

「これ以上営業をすれば、店舗名を晒す」

 と通告した、

 店も、

「背に腹は代えられない」

 という覚悟で営業しているのだから、

「それくらいのことは覚悟の上」

 ということだっただろう。

 しかし、自治体は、、想像以上にバカだったということなのか、

「パチンコというものを完全に失念していた」

 ということなのか、実名を公表したことで、

「却って客が増えた」

 ということである。

 なぜなら、今までは、

「店がやっていない」

 ということで、誰もが、

「遊戯は物理的に不可能だ」

 ということであきらめていたものを、わざわざ、公開することで、

「あの店はやっている」

 と、先刻の、

「パチンコ依存症」

 の人間に火をつけたということであった。

 だから、翌日になると、パチンコ屋の前でたくさんの客が待っているのをいいことに、店も何とか営業ができるということであった。

 しかし、

「パチンコ依存症」

 というのは、すごいもので、

「大阪の店舗」

 に、前日から待っている人がいて、話を聞くと。

「九州から来ました」

 などという、

「猛者」

 もいるのだった。

 そんな人がいる中で、スマホなどでは、SNSなどで、拡散もされていた。

 こうやって、営業しているところもたくさんあったので、

「パチンコ依存症」

 と呼ばれる人たちのネットワークを使って、

「どの店が営業しているか?」

 ということが、出回っているという状態だったのだ。

 だから、パチンコ業界も、

「公表するならしてみろ」

 と思っていたことだろう。

「そんなことをすれば、俺たちがありがたいだけのことだ」

 ということであった。

 自治体がそれほどの頭しかないのだから、政府がバカなのは、いまさらということである。

 そんな状態の宣言も終了し、一度は、収まったかに見えたが、今度は、

「第二波」

 が襲ってくる。

 そもそも、伝染病というものは、ウイルスによるものでは、いくつもの波があるのは当たり前ということで、

「じゃあ、そのたびに、同じような宣言を出すということか?」

 ということになる。

 最初の時は、

「しょうがない」

 と思っても次からは、

「もういい」

 ということになるだろう、

 名といっても、最初の宣言にて、

「倒産の憂き目」

 にあった店がどれだけあり、

「どれだけの人間が、路頭に迷った」

 というのか、

 ということである、

 それから、数年後に、

「ある提訴収まった」

 ということで、政府は、

「指定伝染病」

 というものから、ランクを落として、それまでであれば、

「ワクチンから治療費まで」

 というものを国家で賄っていたが、

「あとは実費で」

 ということで、ランクを下げたのだ。

 実際には、まだ収まっておらず、何がひどいといって、

「病院に行って、陽性ということになっても、治療一つもしてくれないのだ」

 ということだ。

「高熱が出て、唸っていても、解熱剤すら注射してくれない」

 これを、

「地獄」

 と言わずに何というのだろう。

 そんな状態でも、政府は、

「もう金を出したくない」

 ということで、

「どうせ、自分たちが私腹を肥やす金が入らないということが困る」

 とでも思っているのだろう。

 政府は、

「国民の命よりも、自分たちの私腹の方が心配なのである」

 ということなのだ。

 そんなことを皆分かっているのに、政府のいう、

「もうマスクはいらない」

 といっている言葉を真に受けている。

 数年前に、

「救急車を呼んでも、受け入れ病院がない」

 ということで、救急車の中で死んでいったという人が溢れたという、

「医療崩壊」

 というものが起こったことを忘れたというのだろうか?

「やはり、日本国民は、平和ボケのバカの集まりだ」

 ということになるのだろう。

 それが証明されたということで、

「今の世の中、誰も信用できない」

 と感じた人も多いことだろう。

 政府は政府で困っている国民があるうのに、

「戦争をしているという他の国のために、我々の血税を勝手に送っている」

 というバカげたことをしていた。

「そのために、物価が上がっているのを分かっているのか?」

 ということであるが、

 そこまでして、外国に媚を売りたいということなのか?

 その証拠に、

「日本で何が起こっても、ソーリはいつも外国にいる」

 というもので、

 今のソーリは、

「国際社会の奴隷」

 といってもよく、見捨てられた国民はどうすればいいのか?

 何といっても、

「ここまで支持率が上がったり下がったりするソーリも珍しい」

 といっている人が多いことで、今の日本が、

「亡国に向かっている」

 ということは一目瞭然であったのだ。

 そんな、

「世界的なパンデミック」

 の時代がある程度収束してくると、経済も回るようになったが、坂上としては、それまでの生活とはまったく違う毎日を過ごしている。

 というのも、

「人が多いところはいかなくなったし、いくら政府が、マスクをしなくてもいいといったとしても、誰がいうことを聞くものか」

 とばかりに、とにかく、

「政府のいうことを聞かない方に、舵を取った」

 ということである。

 そんな状態において、坂上は、スーパーに行くのでも、

「24時間営業のところに、夜しかいかない」

 であったり、

「駅でも、エスカレーターに乗ったり、エレベーターに乗らなければいけない場合は、2人以上乗っていると、次を待つなどした」

 ただ、さすがに、都心部の百貨店ではそうもいかないので、どうしても、いかなければいいけない時は、

「開店直後」

 であったり、

「閉店間際」

 の時間に焦点を合わせるということをするのであった。

 それを考えると、

「パンデミック」

 というものの影響は、

「このまま下火になるということはないだろう」

 と感じるのであった。

 そんなことを考えていると、

「人間なんて、いつどうなるか分からない」

 ということを感じるようになった。


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