第24話紗夜ちゃんの罪

 私はまずうどんだけでいただくことにする。


 疑似体験で食べた讃岐うどんに非常に似ていて、コシがあってツルッとしていてのごどしがいい。こんなに美味しいうどんを食べようと思ったらいつでも食べられると想像しただけで最高だ。

 最近お店では焼きうどんに似たようなものも作っていて、こちらも大変評価がいいらしい。いつか食べてみたいものだ。


 「美味しいわ。今日はふたりが作ってくれたから、いつも以上に美味しく感じるわね。これからもちょくちょく頼んじゃおうかしら。ふふふ。」

 「最近は、娘たちの料理を食べられる機会が増えて幸せだな。今回のうどんもゆで時間ちょうど良くて、手が止まらないし」

 「お姉ちゃん大成功だね!!また2人で作ろうね。今度は何作ろうかな?」

 「サリアのうどんの時間がちょうど良かったから美味しいんだよ。また一緒に作ろうね。」

 「えへへ。」


 サリアは、褒められて嬉しかったのかニコニコしながらうどんを吸っている。

 そんなサリアがオクラの天ぷらを口に入れた瞬間。「あふっ」と口から空気を出そうとふーふーしているのが可愛いく見える。

 オクラの天ぷらは、熱気が閉じこもっているため火傷する危険性があるがその危険性を忘れてしまうぐらい美味しい。



私は麺つゆにつけてふーふーを息をかけて少し冷ましてから口の中にオクラの天ぷらを入れた。

 冷ましたはずなのに暑くて「あふっ」となってしまった。サリアの次に連続して私がしてしまい家族みんなが笑っていた。


そんな楽しい時間もあっという間に過ぎていき、お腹いっぱいになった。

 お腹をさすってみるとポッコリと出てしまっている。最近久しぶりに食べるものが連続に続いてついつい食べすぎてるかもしれないな。

 少し太ったのではないかと心配する反面、美味しいものを目の前にすると食べてしまうからしょうがないよね。という諦めが出てしまった……


 「お父さん。今朝なんだけど、お姉ちゃんと出かけるって話してたよね。私とお母さんも一緒に連れて行ってくれないかな?ちゃんと大人しくするから。連れてって」



 ついうどんの美味しさに感動して忘れていた!!

 今日はこれを言うためにお母さんが修行してたりとか、作戦を立てたりとかしたのに!!


 ドキドキした顔になるサリアにお母さんが助け舟を助け舟を出す。


 「お父さんどうかしら。最近サリアも魔法の練習頑張ってるんだし、勝手にどこかに行かないとも言ってるんだからたまには家族みんなで出かけましょう。」

 「んー。」


 お父さんは、腕を組んで考え込んでいる。


 実際に私とサリアは、魔法に関してはまだまだ素人みたいなものだから何かあった時に守れないのが心配なんだろう。それに迷子になったら見つからない可能性の方が高いからね。



 「お父さん。サリアがどこかに行かないようにしっかり手を握ってるから、ダメかな?街に行くのは心配かもしれないけど、何かあったら紗夜ちゃんも助けてくれるって言ってくれてるし」

 「今回は私からも頼む。他の種族を見ることで魔法の勉強への意欲が出ると思うんだよ。ディーロだって昔は外に出たいと言っていたんだから気持ちが分かるのでは」


 今まで何もなかった空間から紗夜ちゃんが急に現れた。

 私の自室以外ではほぼ姿を見せることがない紗夜ちゃんが、姿を表すとは結構サリアのことを考えてくれてるのだろう。それとも、お母さんの魔力との一体化事件のことを気にかけてくれているのだろうか?


 紗夜ちゃんを見るが相変わらず顔がないのでどんな気持ちで言っているのかが分からない。今回は声色からも感じ取ることが出来なかった。

 急に現れた紗夜ちゃんに家族みんな驚いていたが、紗夜ちゃんが「ついて行く」と言ってお父さんの顔は、晴れた顔になった。


 「わかった。今回は家族みんなで街まで行こう。サリアはしっかりとアリアと手を繋いで行くこと。紗夜さん、すみませんがよろしくお願いします。」

 「分かった。安心して街を散策しておくれ。」


 そう言うと紗夜ちゃんは、また姿を消した。

 サリアは嬉しすぎて私を凝視しニコニコしている。そんな私たちを見てお母さんとお父さんは微笑む。


 「お父さん、紗夜ちゃんありがとう!!街まで行くの初めてだから楽しみだよ。いつ行くの?いつ?」

 「そうだな。来週あたりはどうだろうか。」

 「今週行こうよ。来週まで待ちきれないよ。早く早く!!」

 「来週の方がいいんじゃないかしら。私も魔法の練習がまだ全然慣れてないし、楽しみはすぐ来るよりもあともう少しってカウントダウンした方がより楽しい時間になると思うんだけど」

 「んー。分かった!!楽しみがもっと楽しみになるなんて、お母さんは物知りだね。楽しみすぎて寝られないかも!!」


 上辺ぞらを見ているサリアを見て私も家族旅行がより楽しみになってきた。

 色んな食材をみて疑似体験で食べていた料理をこっちでも絶対に作ってやる!!


 その後私はご馳走様をしてリビングでゆっくりした後自室に戻る。



 「紗夜ちゃんありがとう。おかげで家族みんなで旅行に行けることになったよ。家族旅行なんて初めてだから今から楽しみでしょうがないよ!!」

 「それは良かった。後でディーロ達から話があると思うが、エルフは珍しいから周りからよく見られることが多い。相手の目を気にしていたら自分がどうにかなってしまうからあまりに気しないようにな。」

 「分かったよ。ありがとうね。」



 もう寝る時間なのでベッドに入って電気を消そうとした時、



 ドンドン



 「お姉ちゃん入っていい?」




 まさかのサリアが部屋に尋ねてきた。こんな夜遅くに尋ねてくるなんてどうしたのか……


 私はベッドから起き上がりドアを開けると枕を持ったサリアが立っていた。

 その顔には少し寂しそうな悲しいような表情をしていて、先程まで家族で見せていた笑顔が嘘のようだ。

 私が部屋に招くとサリアが入り、2人揃ってベッドに座った。



 「どうしたの?1人で眠れないの?」

 「お姉ちゃん。今日は一緒に寝て。お願い。」


 サリアの目から雫がポツポツと落ちる音が部屋いっぱいに広がってるような気がした。

 その瞬間サリアが私に抱きついてきた。私はそっと腕を回すと声を出しながら泣き始めた。


 「大丈夫だから、大丈夫だよ。」


 私は必死に泣き止ましてみるがサリアはどんどん涙が溢れていく。サリアが、ここまで泣くなんて私との再会以来だ。それ以前に見たことがないのでその二回だけだろう。


 「おねえぢゃん。おねえぢゃん。」

 「大丈夫。どこにも行かないよ。」


 私がサリアのことを抱きしめること三十分。サリアは、徐々に泣き止んできた。このまま泣き止まなかったらどうしようかとハラハラしていたので、ホッとした気持ちでいっぱいだ。


 「どうしたの?」

 「今日の魔法訓練の時のとこ思い出しちゃって。部屋の中が真っ暗で誰もいないから余計不安になっちゃったんだ。」

 「そうか。落ち着くまでお姉ちゃんと一緒に寝ようか。部屋は真っ暗になるけど私がいるからひとりじゃないよ。安心して」

 「お姉ちゃん!!」


 サリアは、私のことを女神様のように拝んでくるが私は大層なことをしていない。家族として当たり前の事をしたまでだ。

 サリアに「横になる?」と聞いたが、私の胸元でクビを振ったのでしばらくはこのままにしておくつもりだ。


 「お姉ちゃん。私魔法が怖くなってきちゃったよ。自分のことを守るために頑張るぞ!!と言ったけど、私も誰かを傷つけてしまうかもって考えるとね。怖いよ。」

 「大丈夫。何かあったら私がサリアのことを守るから。魔法の練習を休みたいなら休みんでもいいと思うよ。怖いと思いながら魔法を操ると危ないからね。」

 「ありがとう。」


 サリアは私を抱きしめる力を強くした。安心したのか、サリアは涙を拭くように顔を右左へと揺らし私のパジャマをハンカチ代わりにしてきた。

 いつもなら注意をするが、今回だけはお咎めなし。誰しも不安な時は抱きしめられたいし、肯定されたい。私は誰かに抱きしめたかったし、大声で泣きたかったし、肯定されたかった。

 でも、疑似体験の時は一人暮らしで誰もそんなことをしてくれない。これがどれほど苦しいものなのか、どれほど逃げ出したいか。

 結局その後おかしくなって少し会社を休むことになった。


 その時に心の安定剤になったのが近くにある幼稚園の子供たちだった。

 家にいるとピアノの音と共に聞こえる園児たちの歌声。聞くだけで癒されたし、私も子供のように自由に羽ばたきたいと感じてしまった。

 毎日のように聞く園児の声に励まされ、自分に期待をしなくなり仕事に戻れた。

 私の場合は、自分で自分を貶めただけなのでサリアと比べるのはどうなのか?とも感じるが……



 「アリアにサリアちゃん。少し見て欲しいものがある。今の二人が見れば魔法に関しての考え方が変わると思うが、これが現実だ。その現実をしっかり覚えて魔法を使って欲しい。」


 「紗夜ちゃん?」


 急に現れれ、意味のわからないことを発する紗夜ちゃんに戸惑いながらサリアの頭を撫でていると私たちの下に魔法陣が現れた。


 「紗夜ちゃん?なにこれ」

 「これはな」


 一瞬で鳥肌がたち、目の前の光景に言葉が出ない。



 ……



 目の前がこの世のものとは思えない氷の世界。



 ……




 あまりの光景に寒さなんて忘れてしまう。

 どこまで続いているのかも想像がつかない。

 街の中心にいると思うが、家も噴水も何もかもが凍っている。遠くに見えるお城も綺麗に氷にコーティングされている。


 「お姉ちゃん。寒いよ。」


 私に顔を伏せていたので移動したことに気付いていないのか、サリアはボソッと言った。

 私が何も返さないことを謎に思い、手の力を緩めて顔を外に向ける。そこには氷の世界が待ち受けている。


 「なにこれ……」

 「二人とも急にこんな場所に連れてきてすまない。今まで黙っててすまないがこれは私の罪……」

 「紗夜ちゃん?」


 紗夜ちゃんは、悲しい声で話したと思ったら黙ってしまった。

 これが紗夜ちゃんの罪とはどういうことなのか?もしかして紗夜ちゃんがやったことなのか……。


 ……


 全く理解が追いつかない。


それはサリアも同じだった。外を見てからは言葉が出ないのか、呆然としている。


 「これは、私が魔法でやってしまった。いや、やったこと。詳しい話は私の気持ちが落ち着いたら説明するが、ここに住んでいたものは全て氷漬け。生きてるのか死んでるのかも分からない。氷には魔力が込められていて日光で溶けることもなければ、簡単に割れることもないし、魔法で溶かすことも出来ない……」

 「「……」」


 これを魔法で……。



 信じられない。



 それにしても紗夜ちゃんがこんなことをするなんて……。


 私は紗夜ちゃんのことを全く知らなかった……。


 どういう気持ちでやったのか?


 何故こんなことをしてしまったのか?


 いくら考えても分からないことだらけだ……。



 「魔法というものは便利であるが故に忘れてしまいがちになるが怖いものなんだよ。こんな世界を作り上げることだってできてしまう。ここにいる住人は何も感じることがないまま氷漬けにされて、そのままだろう。サリアちゃん。魔法は怖いものと言ったがその考えは必ず胸に刻んでいかなくてはいけないんだよ。そうしないと私みたいになってしまうからね……」


 紗夜ちゃんは寂しそうに言った。

 私は半分以上理解が出来なかった……。


 「紗夜ちゃん……。紗夜ちゃんは、魔法を使うのは怖くないの?私は怖いよ……」

 「それは怖いさ。いつ暴走するのか。またこんな世界を作ってしまうのではないかと使う度恐怖を感じる。ここまでの恐怖を感じろって教えたい訳では無い。魔法は暴走すると何をしでかすのか誰にも分からないんだよ。これを見せたのはあくまで、魔法の恐怖を覚えながら魔法を使って欲しいだけだ。この世界を見て魔法を使いたくないのなら、使わない方がいいだろう。嫌々使っていたらいつどこで失敗するか分からないからな。そして、私は好意的にやった訳では無い。ただそれだけだ。」


 紗夜ちゃんは、そう告げると魔法陣が現れて目の前が自宅の風景に変わる。

 今まで感じていた冷気も感じなくなった。今のが幻想なんではないかと考える程……


 「紗夜ちゃん……」


 紗夜ちゃんは、姿を消し応答もしてくれない。

 魔法がここまで怖いものとは知らずに使っていたと思うと体から寒気がしてくる。


 サリアは怖くなったのか、また私の胸に顔を伏せてきた。



 紗夜ちゃん……。



 私とサリアは横になって抱きしめながら寝るのであった……




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 今回は、次回が気になる終わり方になってます!!

 一応1話完結型にはなってますが、サリアとアリアの心情がどうなっているのかが気になるところですね!!

 次回をお楽しみに!!


【お知らせ】

 今後は、日、木の週二投稿予定ですので、引き続きよろしくお願いします!!


最後まで読んで頂きありがとうございます。

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