第2話
よく考えてみれば、俺も愛梨や斎藤のように腰が抜けて、足を震わせて、泣きわめいてもいいはずなのに、恐怖は感じるもののそこまでではない。
「くそがっ」
大輔は必死に戦っている。ただ、剣聖のスキルを使用しても傷一つさえ与えることができていないようだ。
「これが本物の竜と俺たちの差なのか」
「うーん、飽きてきたなぁ」
竜がポツリと漏らした一言がはっきりと聞こえた気がした。
なにか巨大な力が竜の口元に集まっているのがわかる。方向がこちらを向いているのは、気のせいだと思いたいが、確実に、遠距離の攻撃が飛んでくる。そのことに大輔もわかったのか、攻撃を一層激しく行うもののまったくダメージが入っていないようだ。
「終わりじゃ『竜の息吹』」
凄まじい勢いで炎が襲ってくる。
「エリス、トーマス、早く逃げろ。おい!」
なんど呼びかけても反応がない。このままでは2人は焼け死んでしまう。見捨ててしまえばいい。今までのことを思い返せば助けてやる理由はなかった。ただ、同じクラスメイトとして、最初の頃は仲良くやれていた。その頃の思い出が走馬灯のように駆け巡る。
俺は盾を構える。そして、『吸引』スキルを発動させた。
これまでに感じたことのない、身体を焼き尽くされるような激しい痛みを覚える。それでもなんとか愛梨や斎藤へいった攻撃も含めて、回収することができている。あとは、この無限にも思える時間のなかで、耐えてしまえばなんとかなる。
「うおおおおおおお」
もう熱さを感じない。いつのまにか、盾も失い、握っていたはずの片手剣も失ってしまっている。服を着ていることは奇跡といってもいいくらいだった。
「やっと役に立ったな」「ホントだよ〜」「気づかれる前に早く帰還魔法を使え」
鼓膜が破れそうなほどの轟音のなか、話し声が聞こえた。どうにか振り返ると、斎藤が魔法陣を作り、そのうえに愛梨や戦っていたはずの大輔までもいる。
「……どういう……ことだ」
「今までありがとうな。身代わりになってくれて。おかげで助かった。もう会うことはないだろうけど、みんなにはちゃんと伝えておくからな。あと、妹のことも任せとけ。うまくやっといてやるから。じゃな」
「……待て、俺を見捨てるつもりか」
魔法陣から大きな光が放たれるのと同時に、3人は姿を消した。絶え間なく炎に炙られ続け、もはや身体の感覚はない。あんな態度を取られていても心のどこかで仲間だと思っていた。いつか変わってくれると思っていたのに。そう思っていたのは俺だけだったのか。
腹の底から沸々とドス黒い感情が湧き上がるのを止められない。果てしない苦痛と怨嗟のなかで、俺は復讐を誓う。必ず生きて帰って、あいつら全員殺してやる。
「ダメージ上限を突破しました。スキル『解放』を獲得しました」
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