第1話
唾を飲み込む音が聞こえる。階層をそのまま無機質な白い空間にしたかのような広大な敷地のその奥に、煌々と赤い炎を纏った竜がいた。サイクロプスとは比較する意味さえもないくらい、巨大な体躯をもち、その威圧感はもはや戦いにさえならないと思わせるくらいに差を感じさせた。
「おい、どういうことだよ。なんでこんなとこにいるんだよ。40階のボスはサイクロプスだったじゃねぇか。なんで80階のボスの炎竜が現れるんだよ」
斎藤は目の前の竜から放たれる圧に立っていられるのもやっとなのか、足を震わせていた。愛梨は既に戦意を喪失してしまっている。杖を手放し、尻もちをついてしまっていた。
「みんな、落ち着け。まだ扉は開いたままだ。すぐに逃げよう」
先頭に立っていた大輔はゆっくりとこちらを振り返った。そして、斎藤や愛梨に視線を移して、最後に俺を見る。もともと、それほど表情豊かな奴ではなかったが、いまは特におかしい。幼馴染だからこそ少しの変化で怒っているのか、機嫌がいいのか、見分けはついていたけど、何も読み取ることができない。感情がすっぽりと抜け落ちてしまったみたいだった。
「どうする?我と戦うのか、それとも逃げ出すのか。どちらでもよいぞ」
「喋ったのか?」
「竜と会うのは初めてか?ほかの魔物共と違って、我々は高度な知性を有している。それこそお前たち人間が遠く及ばないほどにな」
竜は暇そうに欠伸をこらえているかのようにも見える。あまりに力の差がありすぎて、敵とさえ認知されていないのだろう。
会話ができるなら、交渉できればこの場から逃げられるかもしれない。こうなってしまった以上は、もうそれ以外生き残る道はない。
「俺たちは今日、40階を攻略して最強のパーティーになるんだ」
「なんでだよ。今日が異常なだけだ。明日でもいい。また挑戦すればいいじゃないか」
大輔はロングソードを掲げる。他人から見れば感動的な物語の一幕にも見えるかもしれない。けれど、生死のかかったこの場面では正気とは思えなかった。
「おい、大輔!くそっ。おい、愛梨、斎藤、いつまで呆けているんだ。しっかりしろ」
「ふふ、無駄じゃ。お前達、人間どもで言うところのスキルの差があまりにも大きい。ただの魔法使いや神官程度では我の前に立つことすら叶わない。せめて、そこの剣士やお前のような特殊なレベルでないと無理じゃろうな」
「くそが。いざというときに、なんにも役に立たないじゃないか。普段はあんなに威張り散らしているくせに……」
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